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花王×パナソニック対談:前編「共感の時代こそ、選ばれることに価値がある」

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「トライアル」から「愛着」へ

—花王さんのポリシーはいかがですか。

井上:花王は今年で創業130年になりますが、創業時から宣伝制作機能を置いていました。創業者は、モノづくりの一つとして広告にもこだわりを持ち、今でこそ少なくなりましたが鉄道沿線で広告する「野立て看板」を最初に手がけた会社でもあります。

当社には「否定・実利・実証・実感・季節感」という宣伝の5原則があります。「否定」は、自己否定やお客さまの習慣を否定することもいとわないということ。「実利」はベネフィットや生活価値。「実証」は実際に試した結果を見せるようなスタイル。「実感」はお客さまの肌感覚のようなものを大事にすること。あとは「季節感」ですね。

「否定」の例でいうと、1984年に「ビオレU」という液体で身体を洗う商品を発売して、「石鹸を捨てる」という大胆なメッセージの広告をつくりました。実は、花王はもともと石鹸から始まった会社で、当時の社名も「花王石鹸株式会社」でした。新しい習慣を広めるためには、自己否定もいとわないという典型的なケースです。

「実利」の例は「メリーズ」というおむつ商品があります。「おしっこ3回分吸収する」という機能だけを伝えるのではなく、本当に伝えなければならないのは「赤ちゃんもお母さんも、おかげでぐっすり眠れる」という生活価値である、という考え方です。

ほかにも、卵の殻を使ってファンデーションの効果をCMで「実証」したり、美白剤を使って効果を「実感」したお客さまの声を広告に取り入れたりしてきました。

この5原則を「真面目に、正しく、分かりやすく」伝えることが花王らしいスタイルをつくってきましたが、実は最近、これまでのスタイルに加え、さらに広告表現の幅を広げようというチャレンジに取り組んでいます。

—それは興味深いです。これまでのやり方を変えることは勇気がいりますよね。

井上:私たちは「マスからスモールマスへ」と表現していますが、多くの人が受け入れる最大公約的なメッセージではなく、変化し多様化している一人ひとりの価値観に寄り添った広告のあり方が必要だ、と考えているのです。

「トライアル(試し買い)より愛着」という考え方がそれです。当社のメインは数百円の商品なので、たとえトライアルを獲得しても次に他社商品に移ってしまうケースも多いわけです。それなら、「面白い」「センスが良い」「グッとくる」といったエモーショナルな部分にも訴えて、ブランドへの愛着を感じてファンになっていただくほうが良い。花王の商品は老若男女がターゲットですから、これまでは特に分かりやすさを重視してきましたが、これからは、「もう一度見たくなる」広告を目指すべきでは、とチャレンジしているところです。


新たなチャレンジに取り組む花王のテレビCM

テレビCMは事前に消費者調査を行い、ある程度のスコアになるまで修正を重ねてからオンエアするようにしています。しかし、感動や共感を数値化するのは難しいので、どれだけ話題になったか、どれだけシェアされたか、など、これまでとは違った指標も考えるべきかもしれません。花王は昨年末、新たな経営方針として、世の中の変化に追随するのではなく、自らが変わり、積極的に変化を起こしていくことを宣言しました。花王のクリエイティブも大きな変化のタイミングにあるのです。

<後編に続く>