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話題の広告が生まれるまで
—まずはみなさんが最近手がけられたお仕事について伺いたいと思います。国井さんが手がけられた伊藤忠商事の企業広告は、「ひとりの商人、無数の使命」というスローガンのもと制作されているシリーズです。
国井:このシリーズの一番の目的は、伊藤忠商事の「顔」を見せること。総合商社は生活のあらゆる所に関わっているのに、仕事内容や働いている人の顔が見えにくい。今後はブランド力を高めると同時に、一般の方々に総合商社の仕事を知ってもらい、伊藤忠商事を好きになってもらいたい、というお話がありました。
そこで新聞広告では歴代の経営者を取りあげて人物像を描いたり、CMでは直接社員の「顔」を見せる、ドキュメンタリーという形にこだわったんです。そのために編集者の伊藤総研さんに協力していただき、社員一人ひとりに綿密な取材をしました。その中で感じたのは、みなさん“エリート商社マン”というより“商人”という言葉が似合う、ということ。これが『ひとりの商人、無数の使命』というコピーに繋がってきました。
こやま:良い役者さんが出ているな、と思ったのですが、CM はすべてドキュメンタリーだったんですね。役者さんではなく。
国井:そうなんです。監督の是枝裕和さん率いる分福の力によるところが大きいんです。密着する社員を決める段階から関わっていただいたのですが、“この人に密着すると、伊藤忠商事のことが好きになるな”と思える、絶妙な人選でした。それから、この広告を制作するチームには3 人のクリエイティブディレクターがいて、鋭い指摘がバシバシ入ります。それによって、どんどんコピーが磨かれている感じがします。
—つぎに三井さんの手がけられた宝島社の新聞広告。これは当時渦中のベッキーさんを起用して話題になりました。
三井:宝島社はファッション雑誌の売上がナンバーワンの出版社です。そこで、ファッション誌のリーディングカンパニーとして、ファッションの秋に、ファッションをテーマに広告をつくりたい、というお話からスタートしました。宝島社は企業広告で毎回さまざまなテーマを設け、そのことについて多くの人に深く考えてもらうためのメッセージを発信されています。
今回もファッションがテーマではあるのですが、”人間はなぜ服を着るのか””人にとって服とはどんな存在か”ということを今いちど考えていただけるような広告にしたい、ということで企画が進行していきました。宝島社の蓮見清一社長からは、「誰かを傷つけるようなメッセージにはしたくない。コピーは前向きでありたい」とお話もいただきました。
そこで、今までの企業広告を改めて見直してみたのですが、どの広告もテーマ自体は非常にエッジが立っているのですが、メッセージは”世の中を良くしたい”という愛情にあふれた、ポジティブなものであることに気づきました。今回はベッキーさんに対して愛を注ぎながら、世の中に前向きなメッセージを送りだせるように、最終的にこのコピーに決まりました。
こやま:これは昨年、私が一番嫉妬した広告でした。ベッキーさんの起用は当時、多くの広告関係者が考えていたと思いますが、ああ、こう来たか…という。
国井:このコピーは、この時のベッキーさんだからこその意味を持っていますよね。
—最後にこやまさんです。ライオンの新しいボディソープ、『ハダカラ』のネーミングから広告までを手がけられました。
こやま:お仕事が決まってからテレビCMが流れるまで2年くらいかかりました。この商品は伝えたいことが多く、とても難しかったんです。商品の核となるコンセプトは、“保湿成分が洗い流されない”ということ。どうしてもボディソープは成分競争になりがちですが、そもそもその成分が洗い流されないようにする、という別の軸に行き着いた商品です。
そのため、広告では「ボディソープの成分はほとんど洗い流されていた」というショッキングな言葉から始めて、そのうえで成分が洗い流されない吸着保湿処方について触れる、という2段階の方法をとりました。制作中、一番つらかったのは、薬機法で言えないことが多かった上に、ネーミングも商標との闘いでした。
国井:もっと商品が売れるのに…と思ってしまうほど、薬機法は厳しいですね。
—ネーミングを考える時に意識していることはありますか。
こやま:意味はもちろん大切ですが、覚えやすかったり、耳に残るように音を意識します。濁音が入るとよいという話も、よく聞きますよね。今回のハダカラは“肌から日本を美しく”と大きなことも言えるし、“だからハダカラ”みたいに音としてCM でも使いやすい。音と意味、両方の要素から選ばれたネーミングかな、と思います。
三井:音という点では、例えばラジオCMを制作するときなどは、言葉の濁音や語感など、目で文字を見るのとは違う感覚的な部分も大切だと、いつも感じています。
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