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コラム

澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所

『東京タワー』は「これ、誰が読むんだろう」と思いながら書いていた(ゲスト:リリー・フランキー)【後編】

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初めて映画に出演したときに、石井輝男監督から言われた言葉

権八:リリーさんはどんどんやってることがすごくなってるというか。今、自分の中でご自身は俳優ですか?

リリー:毎回「仕事は?」と聞かれると「イラストレーター」と答えてますけど。

権八:僕はリリーさんにすごく興味があって、なんでこんなにお芝居ができるんだろうと思うんですよ。世の中には俳優を目指して学校に行ったり、なかなか売れなくて頑張ってたりする人がいっぱいいるんだけど、リリーさんはもともと俳優を志してたわけじゃないですよね。でも上手じゃないですか。

リリー:自分のお芝居に対して何の印象も持ててないんですけど、基本的に撮影に行ったら監督の作品じゃないですか。監督の言う通りにしているから自我がないという。でも自我がないというのは意外と演技のアプローチとしては良いことじゃないですかね。

生まれて初めて映画に出たのは『網走番外地シリーズ』などを撮っていた石井輝男監督の作品で、1回もお芝居をしたことないのに石井さんの映画の主役で初めてお芝居したんですよ。

澤本:冒頭から主役だったんですね。

リリー:そう。でも、石井さんは高倉健さんじゃなければ誰でもよかったんだと思う。

一同:(笑)

リリー:そのときに石井さんに褒められたことをずっと真に受けてるのかも。終わった後に「リリーさん、もう1本映画を一緒にやろう。君は良い俳優だから」って。「なんでですか?」と聞いたら、「君はセリフを噛んでも間違っても、僕がOKと言ったら涼しい顔で楽屋に入っていく。それでいい。まずい俳優はもう1回やらせてくれと言う。監督は撮りながら編集したり、いろいろなことをやっているもので、役者の演技を撮ってるわけじゃないんだ。君が涼しい顔で帰っていくのは監督を信用しているからできるんだ。だから、これからもそのようにいなさい」と言われて。

権八:すごい!

リリー:でも、『万引き家族』の撮影でサクラちゃんがすごいなと思ったのは、濡れ場のシーンでどういう感じのラブシーンかは是枝さんから聞かされてないんですよ。とりあえずサクラちゃんは是枝作品だからと、胸まであるタオルケットを掛けていて。でも、楽屋に行ったら、いきなり前貼りが1個ポンと置いてあって。

一同:(笑)

リリー:彼女がすごいなと思うのは、「ちょっと聞いてないんですけど、監督」とはならないんですよね。

権八:僕が圧倒的にリリーさんを認識してしまったのは、『東京タワー』を読んだときでした。それまでは雑誌で怪しい名前の面白いコラムを書いている人がいるな、リリー何とかさんだっけぐらいだったんですけど、『東京タワー』が本当に衝撃的で。まだ僕は20代でしたけど、本を読んであんなに嗚咽したこともなかったし、思ったのは、人間に対する洞察力、すごく人を観察しているなと。確か、みうらじゅんさんも「リリーさんの人間への洞察は凄まじい」とおっしゃっていて。

リリー:そういえば、今日寝坊して、みうらじゅんさんとの対談をすっ飛ばしちゃったんですよ。

一同:(笑)

リリー:『東京タワー』では自分と母親の何が起きるわけでもない話をずっと書きながらも、「これ、誰が読むんだろうな」と思ってたんですよ。まさか読んだ人が泣いたという話になるとは思わなくて。

中村:230万人ぐらいが泣いてますからね。

澤本:『東京タワー』を書くきっかけは何だったんですか?

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