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8月8日に著書『歪んだ波紋』(講談社)が発売となった小説家の塩田武士さん。「人を楽しませるのが好き」という子どものころからの性格と、新聞社時代に培ったジャーナリズム精神で、読者が自然と社会に向き合える〝社会派小説〞を紡ぐ塩田さんが、「書いて生きる」人生を語ったインタビューを、『編集会議』2018年夏号(7月31日発売)の特別編としてお届けします。
僕の心を突き動かした一冊の本
僕の原体験は母親の読み聞かせなんです。小学校に上がる前くらいの記憶なんですが、母が読んでくれたのは松本清張さんとか森村誠一さんの小説でした。普通は児童書の年齢だと思うんですけど。母は「たけちゃん、これ復讐すんねんけどな……」と、子どもには分からないような話もちゃんと解説してくれて。「こんなにエグいいじめ方するんや」と子ども心に衝撃は受けましたが、今思えばかなりの英才教育でしたね(笑)。
そんな母の影響で、常に本が身近にある環境で育ちましたが、幼いころから「小説家」を夢見ていたわけではありません。むしろ大好きな「お笑い」にのめりこみ、17歳(高校2年生)のときには、漫才コンビとして事務所に所属して活動していました。ただ、スベり倒してまったく売れる気配がなかったんですね。台本を書くのはすごく楽しかったので、「もっと人を楽しませるにはどうしたらいいんだろう」と思い、関西の小劇団のワークショップなどを回って脚本の書き方を学びました。
しかし、そこで致命的な欠点が浮き彫りになりました。僕はとても集団行動が苦手だったんです。漫才や劇団のように、自分が書いたものをみんなで形にしていく表現方法にはあまり向いていなかったんですね。「エンターテインメントの世界で生きていきたい」という漠然とした夢を持ちつつも、活路が見出せずに悩んでいました。
