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コラム

デザイン思考の事業創造 〜関係性をデザインする、これからのブランド戦略〜

チャネルのデザイン=ブランドのデザイン~ケーススタディ:盒馬鮮生

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123RF

前回前々回とオムニチャネル時代のクリエイティブな購買体験デザインの事例を見てきましたが、今回は、チャネルデザインがブランドのデザインに直結している事例をご紹介したいと思います。

・盒馬鮮生(Hema Xiansheng ファーマーションシェン)

ファーマーションシェンは、アリババが出資するオムニチャネル型生鮮食品ブランドで、2016年1月にリアル店舗1号店を上海にオープンしています。2018年4月現在の店舗数は約40店ですが、同社は2018年内にあと100店舗の開店を目指すとしています。

ファーマーションシェンの店舗は顧客が来店して食品を買う事ができる一般店舗としての機能がある一方、Eコマースから食品を購入する顧客にとっては物流倉庫として機能します。Eコマースから注文された商品は、店頭でスタッフが商品をピックアップし、配送スタッフへと渡し、注文した顧客へと配送されます。その為店舗内には、Eコマースで受けた注文をピックアップして回る専門のスタッフがいます。

また、店舗では生簀で生きた魚介類を販売しており、購入して持ち帰ることはもちろん、Eコマースからの購入にも対応し、さらに店内で購入してそのまま厨房で調理してもらい店内で食べることもできるライブレストラン機能もあります。これらの取り組みは、中国でのEコマースにおける商品品質の透明性を高め、購入者から信頼を得ることに成功しています。

ファーマーションシェンは屋号に「鮮生」と記載されているとおり、新鮮な食品を、新鮮なまま送り届ける物流を実現しており、「半径3キロ圏内、30分でお届け」を売りにした広告を展開しています。ファーマーションシェンのブランドPR動画も同様に、新鮮な魚介類が自宅に届けられ、生きたオマールエビを調理する豊かな生活シーンが描かれています。では、簡単に顧客の購買体験を見てみたいと思います。

<online>
中国においては生鮮食品をEコマースから購入することも、ファーマーションシェンであれば実際に店舗で売っているものを配送してくれるので鮮度に対する心配はありません。食品が配送される店舗は自宅から最も近い店舗なので、どの店舗から配送されるのか顧客も認識できます。顧客は必要な生鮮食品を選び、そのままEコマースで、アリババの電子決済「アリペイ」を使って購入し、到着まで30分待つだけです。

購買行動自体は通常のEコマースの購買行動と同じですが、商品が30分以内に届くという速さ、送られる商品が店舗でその時実際に売られている商品という透明性が他のEコマースとは異なります。また、顧客の購買行動はビッグデータへと蓄積され、地域毎の売れ筋商品などを把握する事で、店舗は地域毎に陳列する商品の種類や量を変更しています。

<backyard>
Eコマースからの顧客の注文はすぐに店舗のピックアップ専門スタッフのモバイル端末に入ります。スタッフは店内に設置してある配送用のバッグを手に取り、モバイル端末を見ながら注文を受けた商品をピックアップし、バッグの中にいれて行きます。全ての商品をピックアップすると店内の天井を流れるレールにバッグを引っ掛けて商品ピックアップ係の役割が終了します。レールに引っ掛けられたバッグはそのままコンベヤーでバックヤードに運搬され、そのまま外で待機している電動自転車の配送スタッフへと渡され、配送に向かいます。

<offline>
ファーマーションシェンの店舗は、見た目は通常のスーパーマーケットと変わりはありません。様々な食材や食品が店頭の棚に陳列されており、来店した顧客は買い物カゴを片手に商品をカゴにいれていく、通常の購買行動をとります。商品の前に表示してある価格表示タグは電子表示になっており、ネットと店舗の表示価格の変更がリアルタイムで反映されます。生簀の鮮魚を購入した客はその場で調理してもらい食べることもできます。購入客は無人レジへと向かいます。

レジは現金の取り扱いはなく、自分で商品バーコードをスキャンして合計価格を表示したあと、スマートフォンからアリペイを使った決済を利用します。無人レジには、利用客はまだ多くはありませんが顔認証機能がついています。今後各商品に電子タグが設置されれば、顔認証機能と電子タグによる商品ピックアップの把握から、「Amazon Go」同様に無人レジも不要となり、店内に入って商品を持って出ていくだけの店舗に変わっていくことが予測されます。

<online>
ファーマーションシェンは、店舗をショールーミングとして利用することもできます。店内でスマートフォンを片手に商品を見て回り、その場でスマートフォンアプリ内のカゴに商品をいれ、スマートフォンで決済を済ませれば、手ぶらで帰り、30分後に自宅に商品が到着するのを待つだけです。

このように、ファーマーションシェンはそのチャネルの形態やサービス自体が、新鮮な食品を新鮮なまま顧客に届けるというブランドのデザインと通じていることで顧客から高い支持を得ています。つまり、チャネルのデザイン(顧客の購買体験のデザイン)=ブランドのデザインと言え、オムニチャネル時代の新しいブランディグの事例と言えそうです。

また、アリババはファーマーションシェンにより、中国の生鮮食品市場におけるonlineチャネル(Eコマース)の商品に対する信頼性を高め、顧客のリアル購買に対応するofflineチャネルを持ち、そしてonline、offlineの購買行動を把握することで生まれるビッグデータを手に入れることに成功しています。

室井淳司
Archicept city 代表/クリエイティブ・ディレクター/一級建築士

新規事業・サービス開発、ブランド戦略、空間開発などにおいて、企業のトップや事業責任者とクリエイティブ・ディレクターとして並走する。表参道布団店共同創業経営者。広告・マーケティング界に「体験デザイン」を提唱。著書『体験デザインブランディング〜コトの時代の、モノの価値の作り方〜』を宣伝会議より上梓。2013年Archicept city設立。博報堂史上初めて広告制作職域外からクリエイティブ・ディレクターに当時現職最年少で就任。東京理科大学建築学科卒。これまでの主なクライアントは、トヨタ自動車、アウディ、日産自動車、キリンビール、トリドール、ソニーなど。主な受賞はレッドドット・デザイン賞ベスト・オブ・ザ・ベスト、アドフェストグランプリ、グッドデザイン賞、カンヌライオンズ他国内外多数。


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