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「物語」はプロジェクトを動かす原動力になる

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東急エージェンシーのクリエイティブユニット「TOTB」の河原大助氏は、著書『物語と体験』で、広告コミュニケーションが複雑化する中で、広告に求められる本質は、持続する「物語」と記憶に残る「体験」であると語っています。そんな河原さんと、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』の著者 前田考歩さんが「プロジェクトと物語」というテーマで対談を行いました。

左)河原大助氏、右)前田考歩氏

プロジェクトの大義・目的の共有が良いパフォーマンスを生む

前田:河原さんの著書『物語と体験』には、そもそもなぜそのプロジェクトなのか、それをクライアントに問うとありました。そういうやり方になったのは、時代の流れですか?それとも河原さんのスタイルが変わっただけ?

河原:時代の流れでしょうね。景気が良い時代は、何をやってもうまくいきますし、今の延長線上に未来があると信じることができた。しかし今は違います。あらゆる局面において舵を切らなければいけない時期を迎えている。そうしたなかで、僕らの役割は、どの方向に向かって舵を切るか指し示すことだと思っています。そうするためには、クライアントとの間にあるビジネス慣習上の上下関係を壊して、お互いにフラットな場所に立ち、同じ目線で大義や目的に向かって戦えるチームになることが重要です。少なくとも気持ちの上だけでもそういう構造にもっていければ良いパフォーマンスができるかなと思います。

前田:その大義・目的が「なぜこのプロジェクトをやるのか」ということですよね。そうなると大変じゃないですか?オリエンどおりのことをやるよりも、時間がかかるでしょうし、プロジェクトが大型化すれば関与者が増えてハンドリングしにくくなりそうです。我々には、「ああ、プロジェクト炎上への第一歩を踏み出してしまいましたね」というふうに見えるんですけど。

河原:アハハハハ。そう見えるかもしれませんね。だけど、大型化したプロジェクトをうまく回していける腕のあるスタッフや、クライアントのキーマンと一緒になってやることができれば大丈夫だと思います。昨年1月にNHKで放送した「ONE OK ROCK 18祭(フェス)~1000人の奇跡 We are~」のような大規模プロジェクトが着地にこぎつけられたのも、社内とクライアントに腕があって志もある人達がいてくれたからです。

前田:18祭はNHKさんからのオーダーだったのですか。

河原:いえ、もともとは18歳の選挙権が2016年4月に施行されるのを受けて、テレビ離れ世代でもある彼らとNHKを繋ぐような企画を提案してほしいという話で、15年末にプレゼンを実施しました。元々、想定されていたのは年度内をめどに実施するような小規模の案件でした。ですから、18祭のような大規模な企画になろうとは、NHKはもちろん、自分たちも当初は想像していませんでした。我々のブレストでも出てくる案は、比較的小規模でちょっと面白ければいい、といった案ばかりでした。

前田:そこからどうやってあの大規模プロジェクトに?

河原:6人ぐらいの18歳の子たちにグループインタビューをしたことがきっかけでした。直接18歳の彼らに会ってみると、良くも悪くもみんないい子なんですけど、とても等身大で生きていて、ちょっと冷めているというか、18歳ですでに自分の未来を決めてしまっているような感じさえ受けました。ただ、自分の未来の話は冷静に語るけど、好きなアーティストや俳優について語るときは熱っぽく盛り上がるんです。だから、彼らを憧れの存在に出会わせればそこで熱が生まれるんじゃないかと思ったんです。それを原動力に、彼ら自身の努力や勇気によってイベントを成功させる体験をしてもらい、人生には大きな可能性があることを少しでも感じてもらいたい。そういう思いで企画したのが、あの「18祭」です。

前田:オリエンの内容に比べて、予算も期間も大幅にオーバーする「18祭」を実現するには、いろんな困難があったと思います。それでも河原さんのチームもクライアントのキーマンもぶれずに進んで実現させたわけです。そう考えると、広告だけでなく、プロジェクトを実施する人間にとっても物語はすごく重要で、それを関与者全員で共有できるかどうかがプロジェクトの成否を決めるのかもしれないという気がすごくしました。

河原:今振り返るとたしかにそこは重要だったと思います。描いたストーリーが一つのプログラムとして関与した人たちの心の中にインストールされた。だからみんなで困難を乗り越えて実現できたのだろうと思います。


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次ページ 「物語には相手が核として持っている「志」を込める」へ続く