Siriと話しても虚しいのはなぜか
坂井:
ディープラーニングが注目されるようになってから、何でもかんでも人工知能、AIと呼ばれています。
清水:
僕はむしろ人工知能の概念を広げて、電卓から人工知能と呼んでいいと思っているんです。人工知能とは何か。それは「人間の知能を、どんなものと認識するか」を考えるのと同じことです。人工知能が発展するプロセスは、実は、知能をどう認識するかの進化の話なんですよ。
例えば100年前だと、集計作業は機械にはできないと思われていたけれど、穴あきカードを発明して、穴の数を数える機械を作ったら、13年かかると言われていた集計期間が1年半に短縮できた。そうやって人間にしかできないと思われていた知的作業を、機械を使って効率的にやっていくことに関心が高まっていったんです。穴あきカードを作った会社はIBMという名前に変わって行くわけですけれど。
坂井:
人力でやっていた情報処理を、機械が代わりにやることで、高速にできるようになりましたよね。
清水:
集計は足し算ですが、次はもっと難しい計算ができるように考えて計算機ができました。だから電卓は、人工知能を目指す最初の道のりにあるわけです。
坂井:
知能を機械化する試みの始まりですね。
清水:
言葉と言葉の関係性も、計算機上で扱われるようになります。第2次世界大戦下では、暗号を解く機械がつくられました。
有名な話ですが、ドイツの潜水艦Uボートがどこに現われるかは暗号化されていて、解読のためにイギリス政府は数学者を集めました。ところが暗号の鍵を解くために、すべてのパターンを総当たりで試そうとすると、1つの暗号を解読するのに、1万人の数学者がいても2000年かかる。でも20分以内に解かないと意味がない。そこで数学者のアラン・チューリングは、人力ではなく暗号解読する機械を開発して、解読に成功します。
坂井:
チューリングは、コンピュータの父と呼ばれるようになります。
清水:
ここで知能とは何か、という話に戻しますが、最初は「計算が正確で早い人は賢くて知能が高いから、計算を機械化したら人間のように賢いモノがつくれる」と期待した。けれど、いざ計算機ができて、計算するスピードが上がっても、「求めていた知能と違う」となって、人工知能の研究は一度挫折するんです。


