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広告からサービスへの拡張 広告電通賞の受賞作品から見るコミュニケーションの今とこれから

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広告主を顕彰することにより、日本社会への貢献を目指している「広告電通賞」。今年もさまざまなアイデアと表現が生み出された中、菅付雅信氏、佐藤夏生氏を迎え、田中里沙をモデレーターに「広告電通賞」及びこれからの広告について語った。

(左から)EVERY DAY IS THE DAY Creative Director CEO 佐藤夏生氏、グーテンベルクオーケストラ 代表取締役/編集者 菅付雅信氏、事業構想大学院大学 学長・教授 兼 宣伝会議 取締役 田中里沙氏。

田中:「広告電通賞」の選考委員の約9割は、広告主企業のキーパーソンですが、広告は企業の決断がなければ世に出ることはありません。社会と自社のコミュニケーションに向き合い、アイデアを考える全国500名超の企業人、専門家、クリエーターが選考する本賞には、現代社会の感性が集約されていると感じます。近年は表現にとどまらないコミュニケーションへの広がりが伺えます。広告の枠を超えて活躍するお二人に、受賞作から見えることは何でしょうか。

菅付:僕は選考委員として、「プリント広告」と「イノベーティブ・アプローチ」の2部門を担当しました。プリントはクラシカルな領域なのですが、とても良い意味で迷いました。古いから悪いかというとそうではない。良い新聞広告は良いし、良い雑誌広告もやはり良いというのが思ったところです。新聞は日常でデリバリーされる中で最大面積メディア。人間はメディアの物理的サイズに影響されると思うので、新聞の大きさというのはまだまだ価値があるのではないかと思いました。

イノベーティブ・アプローチに関しては、定義自体が難しい枠だと思います。その中で日本フィルハーモニー交響楽団の「耳で聴かない音楽会」は素晴らしくいいなと感動しました。これって広告なのか、という議論があるところで、この部門全体を見ていて思うのは、広告からよりサービスに全体的には移行しつつあるのかなということ。この枠の飛び出し方こそが今の広告なんだよ、と言えると思うし、この部門は一番面白くて難しいところだと思いました。

佐藤:入賞されている広告だけにどれも面白いですね。本当に良い広告だけだと何時間でも見ていられるなと思いました。でも日常の生活における広告の出会い方はこうはいかない。スキップする人も増えてきてますよね。良い広告の含有率を上げていくこと、それが広告業界の課題のひとつだと思いました。あと、物を売るための広告が減ってきていて、社会に対してメッセージを贈るという広告の役割が戻ってきた気がします。

僕が最近よく言っているのは、20世紀は物を売って利益が出ているのが強いブランドでしたが、今は、人間や社会の可能性を更新、拡張しようと挑戦しているブランドに期待と評価が集まります。コミュニケーション領域も同じで、人の感覚や社会のパーセプションをアップデートしようとしているもの、したもの、そういうものが受賞していますね。

田中:魅力的な広告を増やすために広告賞の役割がありますし、広告の価値を拡張するような作品も目立ちます。新しいコミュニケーションの形や流れはどのように創出されていますか。

佐藤:ちょっと厳しいことを言うと、コミュニケーションだけで閉じていると弱い。コミュニケーションは社会が動くきっかけにはなるけれど、それひとつで社会は動かない。スタートアップやNPOなどは社会を良くするための活動やビジネスを実践している。広告はそうしたアプローチのひとつ。社会を動かすためには、短期のコミュニケーションだけで終わらずに、その企業が行動を起こし、継続していかないと。アイデアを社会実装することが重要だと考えています。

菅付:社会実装という意味では、三和交通の「TaxiWhistle」は素晴らしいアイデアだと思います。タクシーをアプリで呼ぶということが前提になっている世の中で、アプリの操作が難しいという人もこれから出てくると思いますので、素晴らしいアイデアだし、素晴らしい実装だと思います。あと先ほどの日本フィルハーモニーが素晴らしいと思ったのは、演奏家がテクノロジーを使ったサービスを実装して、クラシック以外のコンサートでも使えますよという風に提示していること。

拡張性があるわけですよ。「感動を売る会社」になっている。ひとつ上のメタレベルでサービスを提供しているところが、素晴らしいなと思いました。

田中:今後も広告の新たな可能性を社会に提示するような表現やコミュニケーションの挑戦に注目が集まると思います。「広告電通賞」の今後に向けた期待をいただけますか。

菅付:冒頭述べたように、トラディショナルなものはトラディショナルなもので良いのですが、これはクオリティがないと駄目だと思うんですね。フレームがはっきりしている中では選考基準もはっきりしてくるので、秒数が決まっていたり、サイズが決まっていたりする中での戦いというのは、厳しくなってくると思うのですが、それはそれで伝統芸能的に良いものがあって、ちゃんとできる人がいると良いと思う。

一方でフレームがないもの、変化していくものというのは、サービスとか純粋な人格的コミュニケーションに近づいてくるものだと思うので、これは新しいことを新しい器で言わないと、人々があまり新しく思ってくれないでしょう。

佐藤:コミュニケーションを広義に捉えると、アプリ、サービス、それこそ建築など何をやってもいい。そこにはものすごく可能性を感じます。これだけ変化のスピードが早い社会、広告も、広告の評価もどんどん変わっていかないと。ただし本質は変わらない。本当に心に響いたものは10年後にみても素晴らしい。そういう「新しい」「面白い」の先の普遍と本質を持ったものがもっともっと生まれてくるといいなと思います。

田中:広告主企業がさらに成長し、発展するために広告があります。コミュニケーションの拡張が企業の可能性をひき出すこともあります。72年の歴史はその積み重ねであると感じます。新たな事業や新商品、サービスを成功に導くコミュニケーションのアイデアが「広告電通賞」を通じて共有されることを期待しています。

佐藤夏生氏

博報堂のエグゼクティブクリエイティブディレクターを経て、2017年、起業。ブランドの「課題解決」ではなく、「可能性創造」をリードするブランドエンジニアリングスタジオEVERY DAY IS THE DAYを立ち上げる。2018年からは、渋谷区のフューチャーデザイナーを務める。

 

菅付雅信氏

1964年生。法政大学経済学部中退。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、出版物の編集から、広告制作、JT(日本たばこ産業)、森ビル都市企画、ソニーミュージックエンタテインメント等のコンサルティングや戦略立案を手掛ける。

 



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