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コラム

そのイノベーションが、未来社会の当たり前になる。

田中仁×坂井直樹 対談 視界が開け、アイデアがわくようになったきっかけとは?

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コンセプターの坂井直樹さんが、今起きている社会の変化の中でも、少し先の未来で「スタンダード」となり得そうな出来事、従来の慣習を覆すような新しい価値観を探る対談コラム。今回は、ジンズホールディングス代表取締役CEO田中仁氏です。既存の商習慣にとらわれずメガネ市場にSPAを導入し、超軽量メガネやパソコンやスマートフォンなどデジタル機器から発せられるブルーライトから目を守るメガネほか、新発想の商品や事業を生み出してきた田中氏と語り合います。

左から田中仁氏、坂井直樹氏

ビジョンをつくることは、存在意義を問う作業

坂井:集中を計測できるメガネ型のウェアラブルデバイスを出されていますね。

田中:「JINS MEME」といいまして、メガネに搭載したJINSオリジナルの3点式眼電位センサーで集中や緊張、リラックスがわかるのです。

坂井:田中さんのようなテクノロジーを使ったチャレンジって、これまでメガネではあまりされてこなかったように思うのだけれど、どうしてなんでしょうか。

田中仁氏

田中:それまでのメガネ店はブランド品を仕入れ、視力測定の結果にあわせてレンズと売るという小売りのビジネスモデルで成り立ってきました。

メガネ1本3万円、受け取りが1週間後というのが当たり前。自社で研究開発して売るという概念が、そもそもなかったように思います。

坂井:メガネはファッションでもあるから、ブランドで売ってきたネクタイみたいなものに近いのかもしれないですね。時計は、ある段階までテクノロジーを詰めていた時代がありますけれど、メガネはそういう発想にならなかったのは不思議です。

そんな中、JINSは、AIを取り入れたりして、新しい試みをされています。

田中:積極的にメガネにテクノロジーを取り入れようと試みてきた点では、当社はテクノロジー会社と言えるかもしれませんね。

当社はSPA(製造小売り)の中でも、研究開発型SPAだと思っています。当時のメガネは高額品で、売り買いの主導権がメガネ店側にありました。それを民主化しなければいけない。そういう思いが、JINSを始めた時にありました。消費者目線で商品提供するためには、SPAが必要だったのです。

坂井:高機能、低価格の商品を開発、販売されて、今や販売本数は業界首位。その要因は何だと思いますか。

田中:自分たちのなりたい姿や、提供したいサービスを明確に描けるようになったから、首位になれたのだと思います。明確にビジョンを掲げる会社は実は少ないという話を聞きます。

あるアナリストによると、上場企業4000社のうち、ビジョンを本当に自分たちの事業に落とし込んで、社長がそれを信じていると言える企業は20社あるかないかだと言っていました。念ずれば叶うと言いますが、人も組織も、自分の思いに合わせた行動をしていくものです。

坂井:堀江貴文さんが『ハッタリの流儀』という本を出されていたけど、ハッタリでも発信しておくと、自分がそこに近づいていくという考え方が面白いなと。

田中:社長にはハッタリが必要なときがあることは、私も同感です。

坂井直樹氏

坂井:実現したいことを吹聴しておくんですね。田中さんは、ヒットよりもホームラン、フルスイングだというお話もされますね。

田中:振り切ることが重要なのだと思っています。当てに行こうとすると手堅い勝負になっていきがちで、当たったところで、学びは多くないのです。

一方で、振り切るとそもそも気持ちがいいですし、成功しても失敗しても何らかの学びがあるのです。

坂井:失敗も大事なんだよね。業績が落ち込んだとき、ユニクロの柳井さんと話されたとか。

田中:当時私は今以上に未熟な人間でしたので、確固とした生き方、仕事のしかたをされている柳井さんとお会いして圧倒されました。その時、ビジョンのない会社は絶対に成功しない、と言われたことをきっかけに、2009年に「メガネをかけるすべての人に、よく見える×よく魅せるメガネを、市場最低・最適価格で、新機能・新デザインを継続的に提供する。」というビジョンを打ち立てた時、それまで曇っていた視界がすっと開けました。

PC用のメガネなど、アイデアがどんどん出てきて、当時はまだ売上100数十億でしたが、恐れがなくなりました。2014年からは「Magnify Life」というビジョンを掲げています。人々の人生を拡大する、という意味なのですが、常にメガネのその先を考えるようにしています。

坂井:言葉にすることに意味があるんですね。

田中:会社の売上利益をあげることだけを考えていても、ビジョンは生まれません。むしろビジョンづくりは自分の存在意義を問う作業なのです。だから、苦しい。うまくいっている時ではなく、ピンチになった時にはじめて真剣に向き合えるものなのかもしれません。

坂井:ピンチはチャンスだと。

田中:はい。結果を出す人、成功する人を見ていると、実行力があるということもわかりました。

坂井:JINSは、高機能かつ低価格の商品で、日本のメガネ産業を変えてきたと思いますが、この30年間、日本では、なかなかダイナミックに新しい産業が出てきていません。

田中:自ら新しいものを作り出すよりも、真似して改善していくことが得意なのでしょうね。それでも日本はある程度のマーケットがあるからこれまでやってこられたところがあります。

坂井:ディフェンスに回ると、会社も面白くないね。

田中:信用金庫で勤めていた時代に、いろいろな会社を見て思ったことは、守りに入って守り切れた会社はないのです。守りに入ると弱いことがよくわかりました。借金が多く、潰れるかもしれないような会社も、社長が元気でやる気でいると、業績が回復することが多かったのです。

坂井:田中さんは、結構、メンタルの話をされますよね。もっとストラテジーの話になるのかと思っていました。

田中:ストラテジーも、どんなメンタルを持っているかにかかってくると思っているのです。もし、世界で売上とか利益でナンバーワンになろう、というメンタリティーだったら、コストを下げて、店舗を拡大するというストラテジーになりますし、アパレルや食品スーパーで勝っている会社の真似をする方が早いです。

しかし当社は、新しい製品やサービスによって、世の中を変えたいと思っているので違う戦略をとる。根っ子は全て、精神だと思うのです。メンタリティーを重視していなかったら、PC用メガネなどは始めていなかったと思います。

続きは、書籍『好奇心とイノベーション』をご覧ください。

田中仁
株式会社ジンズホールディングス代表取締役CEO、一般財団法人田中仁財団代表理事

1963年群馬県生まれ。1988年ジェイアイエヌ(現:株式会社ジンズホールディングス)を設立し、2001年アイウエア事業「JINS」を開始。2013年東京証券取引所第一部に上場。2014年群馬県の地域活性化支援のため「田中仁財団」を設立し、起業家支援プロジェクト「群馬イノベーションアワード」や「群馬イノベーションスクール」を開始。現在は前橋市中心街の活性化にも携わる。同年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。

 

本コラムが書籍化されました。

『好奇心とイノベーション~常識を飛び超える人の考え方』

コンセプター坂井直樹の対談集。
―新しい働き方、新しい生き方、新しい産業の創造。激変する世界を逞しく乗り切るヒントがここにある。
 
<目次>
 
■対談1 松岡正剛(編集工学者)
会社からオフィスが消え、街から強盗が消える?

 
■対談2 猪子寿之(チームラボ代表)
脳を拡張するものに、人間の興味はシフトする

 
■対談3 陳暁夏代(DIGDOG代表)
中国のサービスを世界が真似る日が来るとは思わなかった

 
■対談4 成瀬勇輝(連続起業家)
お金が無くなったら生きていけない、と思っていないか?

 
■対談5 清水亮(ギリア代表)
人工知能を語る前に……そもそも人間の知能って何?

 
■対談6 山口有希子(パナソニック)
強い組織をつくるには?そろそろ真剣に「ダイバーシティ」と向き合おう

 
■対談7 中川政七(中川政七商店会長)
300年の老舗が見据える、ものづくりと事業のありかたとは?

 
■対談8 田中仁(ジンズホールディングス代表)
視界が開け、アイデアがわくようになったきっかけとは?