広告とマーケティングにおけるサイエンスとアート

デジタル時代の指標管理だからこその「アート」の重要性

ここで興味深いのは、福田氏によるとSFAのようなセールスの行動管理プロセスでは、次のステージに移る際に、質的に判断しなければならない項目はどうしても客観的ではなく主観的なものになると指摘している点です。たとえばインサイドセールスがリストから電話でアプローチして営業のアポを取るというステップでも、どのような確度にあるかはあくまで質的なものであり、その判断は主観的にならざるを得ないということが起きまるというのです。

そして量的な問題だけでなく、この質的なポイントをきちんと押さえていないと、パイプラインのどこに問題があるかをうまく発見できないことがあると指摘しています。つまりインサイドセールスがいくら営業にリードを渡す数が予算を達成していても、この質が低いことによって営業が商談の成功率を上げることができないケースがあるということです。

ここで再度、ウィルコックス氏の行動科学に戻ると、このようなセールスの行動プロセス管理における「質的」「主観的」の視点とは、言うまでもなくヒューリスティックスやバイアスといった「非合理」なポイントであり、それは「アート」でもあるということです。そう考えると、わたしたちの広告やマーケティングという世界は、常に科学と芸術の両方を必要としているということでしょう。そして面白いことに、行動科学のようにサイエンスを追求することによって「アート」が浮き彫りになる点です。

そしてBtoCにおける消費者向け広告の行動モデルにおいても、DAGMARよりもAIDAにおいて、より象徴的なのは、それが消費者の行動のステージの変化を中心に捉えているからです。つまりBtoBのセールスの行動プロセス管理に近いということでしょう。

そして、今のようなデジタルテクノロジー中心のマーケティングにおいては、マスメディア時代よりも、より顧客の行動変容というサイエンスを追求できるようになってきています。すなわち、どこで第一の接触があり、どのような行動変容が、どのような順番で起きたのか。さらに、多くの消費者が、どの行動ステップに多く留まっているか、というパイプラインが消費者のカスタマージャーニーとして現れるわけです。

つまり、そのようなサイエンスが進めば進むほど、行動から次の行動へとステージが移るには、どのような選択する理由や意味が重要なのだろうか、という視点へと施策の中心が変わっていきます。そして選択行動は行動科学のようにクリエイティブな「アート」が浮き彫りになっていくことが予測されます。

と同時に「アート」の重要性は、広告におけるクリエイティブのような特定の行動ステージのみに関わるものではなく、福田氏が指摘しているBtoBのパイプライン管理のように、マーケティング全体のプロセスフローマネジメントという「アート」の領域に属しています。つまり問題は1か所の機能やメディアだけの問題ではなく、全体の問題を見通すものだからです。彼は米国時代の上司のマネジメントの行動を以下のようにとらえています。

私がまだアメリカで働いていた時の話だが、営業の数字がフォーキャストを下回りそうだということがあった。一般的なマネジメントであればマーケティングや営業など、各部門に問題点を報告させるところだが、彼は自らデータを分析し始めた。(中略)これらの事実を把握した彼は、何が起きているか予想した。

(中略)

当時は、インサイドセールスから営業にパスした商談見込みのものを営業がフォローして、確かに商談として進められると判断されれば、インサイドセールスの実績となった。だが、商談として進められるかどうかはいくら基準を設定しても主観が入り、デジタルには判断できない。インサイドセールスにとって、商談として認められるかは給与やその後の昇進につながる死活問題だ。しかし、営業が評価されるのは受注金額であり、受注率は関係ない。本来は商談として進められないレベルでも、営業が商談と認めてしまうことが数字を悪化した原因だった。

福田康隆『ザ・モデル』より

これをBtoBの商談プロセスではなく、マーケティングの各機能やメディアの連携と置き換えてみましょう。このような部分最適が全体の問題を引き起こしたときに、部分的な問題の処理をするだけでは決して解決することはできません。たとえばデジタル広告が成功して自社サイトのトラフィックが増えたとしても、ボトルネックが別のところにあった場合には、同様の問題が起きることになるからです。

上記のケースでは、原因はインサイドセールスと営業の橋渡しが「ボトルネック」であることがわかり、最終的にインサイドセールスに評価項目や件数だけでなく、受注金額を加味すること、商談化した内容の詳細をチェックするという変更点を加えて改善に導いたそうです。

福田氏は、「ボトルネックは移動することはあっても常にひとつしかない。ボトルネックは部分的な解決では解消されない。そのひとつを見つけ出すためにパフォーマンス指標を管理するのだ」と言い切っています。パフォーマンス指標は数字でありサイエンスです。ですが、それを解決する全体の問題を捉えるのはその数字による「アート」なのです。これはBtoBであろうが、BtoCであろうが同じなのです。

広告とマーケティングにおけるサイエンスとアートは、このように常に人間が深く関わるからこそ、補完しつつ発展することになると言えるでしょう。

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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