ソーシャルメディア時代の危機管理

 

白井 邦芳(社会情報大学院大学 教授、リスクマネジメント協会 顧問)

SNSの発展によりITインフラ上での仮想空間のリスクだけではなく、「電凸」「祝電攻撃」といったリアルなリスクも広がっている今、担当窓口の垣根を超えたきめ細かな対応と社内情報共有が強く求められている。

企業において事件・事故・不祥事などのリスクイベントが発生すると、経営者は一時的にクライシスパニックに陥り、冷静さを欠いて、通常時の経営の舵取りや適切な危機管理活動に支障が生じることになります。危機管理の要諦は、「危機をマネージすることは経営課題である」ことを認識し、平時から取り組んでおくことにあります。

「危機」の特徴は、瞬時に資産が消滅・低減するとともに、分単位で事態が急速拡大・拡散し、制御不能となることです。その結果、極めて限定的な受動対応を余儀なくされ、同時に多くの課題が生じます。もちろん、予防管理は重要ですが、完璧なリスク管理に過信すれば、逆に足下をすくわれることにもなりかねません。そこで、危機管理活動は「人と企業はミスを犯す」ことを前提とし、ミスを起こさないようにする体質づくりは管理可能と考えて平時から危機に準備することを重要視しています。

そうした中、相次ぐ企業の隠ぺい体質や不適切な公表姿勢は厳しい社会の目にさらされるようになり、一方で、優れた広報対応は企業評価向上のチャンスとなりつつあります。しかしながら、あらゆるリスクイベントにおいてステークホルダーが知りたい情報は千差万別であり、企業にとって適切な危機管理活動のプロセス管理は容易ではありません。

そこで、経営者は危機管理の重要性を再認識し、平時においては未然防止(予防)の視点から何も起こさせない体質づくりを経営投資と理解し、一旦危機が発生して以降は緊急対応としてダメージを最小限に封じ込める危機管理や経営判断に関する能力の醸成に日々努めているのです。

危機管理は「察知予測能力」

危機発生後の展開と予測に基づき企業の危機管理活動は、概ね以下の3種類のプロセスを経て収束すると言われています。

① 予兆⇒察知⇒未然発生防止(Proactive)

② 予兆⇒認知⇒初期対応⇒社内解決(Re-active)

③ 予兆⇒放置⇒後手対応⇒社会問題(Ignorance)

今後、企業は、予兆感知による未然防止を最重要課題として、感度の高い予兆収集体制、一元化された報告ライン、24時間365日体制、全社員が予兆に敏感であり具体的危機を速やかにイメージできる素養を培う教育体制を軸に、社内インフラを整備・構築していくことでしょう。また、何を目指し、何を行うべきかの判断基準は、社内の目と社会の目のギャップを認識し、静観して第三者の目で事象を冷静にとらえる視点で考えることになるはずです。

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