この記事の講師

北島 純(きたじま・じゅん)
社会情報大学院大学 特任教授
東京大学法学部卒業。九州大学大学院修了。外国公務員贈賄防止の専門家として、一般社団法人経営倫理実践研究センター(BERC)で2013年より外国公務員贈賄罪研究会の講師を担当。現在、駐日デンマーク王国大使館上席戦略担当官および社会情報大学院大学広報・情報研究科特任教授を兼務。公認不正検査士(CFE)。
コロナ禍での在宅時間の増加、特にITを活用した在宅勤務の定着という世界的な現象がDX(Digital Trans formation)への注目を高めている。デジタル技術によって社会のあり方を根底から変化させるDXの意味する範囲は広いが、日本では、9月16日に発足した菅義偉新政権がデジタル庁創設を看板政策に掲げたこともあり「電子政府化」(e-Government またはGovTech)が中でも注目されている。
この分野で先頭を走る感があるのが北欧諸国だ。国連経済社会局(UNDESA)が公表している「電子政府発展度指標」(EGDI:e-government development index)によれば、1位は前回に続いてデンマーク、2位は韓国、3位がエストニア、4位がフィンランド、5位がオーストラリア、6位がスウェーデンとなっている。このランキングだけを見ると、「常連のエストニア等北欧諸国だけでなく、韓国やオーストラリアも強いのだな」としか思わないかもしれない。
しかし、ここに別のもう一つの情報を付加してみると、どうなるか。国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルが公表している「腐敗認識指数」(CPI :Corruption Perceptions Index)を横に並べてみよう(図表1参照)。
図表 腐敗認識指数(CPI)と電子政府ランキング(EGDI)
そうすると北欧諸国(エストニア、アイスランドを含む)の6カ国がいずれもランク上位に入っていることが分かる(赤枠)。「電子政府化」と「腐敗の少なさ」との間に相関関係があると言えるかはこの比較からだけでは分からない。しかし、何らかの相関性があるといえるのではないか。このような観点から、近年議論されているのが、「ガバメント・トラスト」または「パブリック・トラスト」という、スカンジナビア諸国等で重視されている概念である。
DXの進展と腐敗防止
電子政府化の進展には、市民が個人情報を政府に委ねることが必要だ。デンマークでは、国民一人一人に付与される「CPR」(社会保障番号)に紐付いて各種の個人情報が管理されている。「NemID」という電子署名(ID認証)システムを使って行政サービスをネット上で利用することが容易になっているだけでなく、例えば出生時に採取された遺伝子情報がナショナルバイオバンクに預けられ、個人の治療履歴と関連させて各種疾病の発症リスク研究等に役立てられている。

