DX時代に、なぜ最高人材責任者(CHRO)が必要とされているのか?

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オンラインセミナー「<海外の最新潮流から解説>DX時代に求められる最高人材責任者(CHRO)の役割」(6月23日(水)14:00)の開催に向けて、講師である慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授 岩本 隆先生に、なぜCHROが必要とされているのかを解説いただきました。(マスメディアン編集部)

産業構造の変化とともに、経営における人材の重要性は益々高まってきている。

図表1にS&P 500(スタンダード・アンド・プアーズ500種指数)の企業価値に占める無形資産の割合の変遷を示した。S&P 500では米国の証券取引所に上場している企業の中から代表的な500社が選出されているため、米国の主要企業の企業価値の変遷になるが、2020年には企業価値の約90%を無形資産が占めるようになっている。無形資産の中心は人材であり、企業経営における人材・組織力の重要性が年々高まっている。

図表1 S&P 500の企業価値に占める無形資産の割合の変遷(出展:Ocean Tomo)

経営学の戦略論においても、「組織は戦略に従う」という考え方が以前は主流だったが、近年は、「人材ファースト」という言葉があるように、「組織・戦略は人材に従う」という考え方が主流になってきている。「企業は人なり」と昔から言われているように、企業経営において人材が重要であることは当たり前の話ではあるが、その中身が変化してきている。簡単に表現すると、「金太郎飴型」の人材マネジメントから「プロスポーツ型」の人材マネジメントへ変化する必要性が高まっており、個々の人材のポテンシャルを最大限に引き出し、パフォーマンスを最大化するという、個々に寄り添った人材マネジメントが重要になってきている。

こういった変化により、CHRO(Chief Human Resources Officer)の重要性が高まってきた。CHROはあくまでCXOで構成される経営チームの一員であり、経営責任はあるが人事部門に対する責任はなく、人事部門にトップとは異なる。デジタルテクノロジーの進化によって企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいるが、HRの領域でもデジタルテクノロジーの活用が進んだことにより、CHROはCFO(Chief Financial Officer)と同じように経営に関してデータで議論ができるようになってきた。そのため、世界の先進企業ではG3(Group of 3)というCEO(Chief Executive Officer)、CFO、CHROで構成されるグループを経営チームとは別に作り、頻度高く経営の議論を行っている。

図表2にG3が密に議論することのイメージを示す。縦軸はCFOが提起する課題、横軸はCHROが提起する課題である。CHROがいない場合、AとBは良い、CとDは悪いという経営判断になるが、CHROが定量的に課題提起することで、例えば、Bについては、ファイナンス面では良いが、人材・組織面では、人材が活性化していない、育っていないなど解決すべき課題があり、何等かのアクションを取るべきだという経営判断ができる。また、Cについては、ファイナンス面では悪いが、人材・組織面では、人材が活き活きと働いている、人材が育っているなど中長期的にいい兆候が見られるといったことがあり、ファイナンス面だけで経営判断すべきではないということが提案できる。

図表2 G3が密に議論すること

CHROがどんなHRデータを整備すべきかについては、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)のTC(Technical Committee) 260というHRマネジメントのテクニカルコミッティーで国際規格を開発しており、それらを参考にすると良い(*1)。ISO/TC 260では、2021年5月時点で24の規格文書が出版されているが、それらの規格文書の中でもISO 30414(Guidelines for internal and external human capital reporting)は企業内部や投資家や労働市場など外部に向けてのレポーティングのガイドラインを提示しており、CHROが企業全体をHRデータで俯瞰するための参考になる。

ISO 30414ではHRマネジメントの11の領域において58のメトリック(測定基準)が定義されており、それらのメトリックでデータ化し経営に活用する。ISO 30414の認証制度も存在し、ドイツのDWSが2020年10月に公表した「DWS Human Capital」というレポートや、ドイツ銀行の2020年度のHRレポートである「Human Resources Report 2020」がISO 30414の認証を取得している。また、ISO 30414のオーディッターを認証する制度もあり、筆者も2020年10月に「Lead Consultant/Auditor ISO 30414」という資格を取得した。

図表3にHRデータ活用の4つのレベルを示す。レベル1は、各メトリックでデータ化をし、ダッシュボード等で表示する。レベル2は、多くのメトリックの中からマテリアル(重要な)メトリックを抽出し、KPI(Key Performance Indicator)を設定し、ベンチマークに対してどの程度達成できているかを見て改善につなげる。レベル3は、多次元でデータを分析することでメトリック間の連関性を見出し、企業全体の業績や人材・組織力を高めるためのアクションにつなげる。レベル4は、時系列でデータが蓄積されていくことによって将来を見据えてモデリングや予測などを行う。それによって自社のビジョンの実現に向けての人材戦略も明確になる。

図表3 HRデータ活用の4つのレベル(出展:ドイツ銀行の資料を元に筆者翻訳)
*1:https://www.iso.org/committee/628737.html

【執筆者プロフィール】

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授

東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より、慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、「HRテクノロジー大賞」審査委員長などを兼任。

 

6月23日(水)14:00より、当コラム執筆者の岩本隆先生によるオンラインセミナーを実施いたします。「ヒューマン・キャピタル(人的資本)」の観点から、今、そしてこれからの最高人材責任者(CHRO)に求められる役割や人事の最新潮流について解説いただきます。

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