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人々の価値観が多様化する時代 ラグジュアリーブランドが提供すべき価値とは何か?

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2014年11月から活動をしてきた「CMO CLUB」は、活動内容が進化を遂げるのに合わせて2021年からは「CMO X」 に名称を変更。現在では100社を超えるマーケターが集うコミュニティとして成長を続けてきました。2020年4月からは「マーケターの、マーケターによる、マーケターのための組織」を目指し、選出されたボードメンバーが中心となって組織の運営を進めています。2021年は5名のボードメンバーがそれぞれのマーケティング課題を提示し、その課題に共鳴するメンバーが集い、半年にわたり分科研究会を実施。その議論の成果が披露された11月8日、9日開催の「CMO X FORUM」についてレポートします。

(写真左から)

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.
個人事業部門 マーケティング部 副社長
杉本 美穂 氏

 

ビー・エム・ダブリュー
ブランドマネジメントディビジョン 本部長
遠藤 克之輔氏

 

リシュモン ジャパン
A.ランゲ&ゾーネ リージョナルブランドCEO
山崎 香織 氏

 

祇園辻利
常務取締役
三好 正代 氏

 
杉本:私たちの研究会では、ラグジュアリーブランドのマーケターが集まり、現状の課題やこれからの社会におけるラグジュアリーブランドが果たすべき使命といったことについて議論を重ねてきました。まず「そもそもラグジュアリーとは、何?」というところから話を始めたのですが、議論を通じて「時を超越し、ストーリー、希少性、社会での位置づけに顕わされ ニーズや問題解決でもなく 生存には必須ではないが、人生には欠かせないものであり 私が何ものであるかを定義しメンバー、コミュニティ、帰属感がともなう」という5つが基幹要素なのではないか、という結論に至りました。

その定義に基づき、次に取り組んだのがTensionです。Tensionとは張力のことで、2つのものを繋ぐ紐がピンと緊張している状態のことです。緊張の両端で対峙するものが何か、そしてそれがどうバランスを保っているのかを理解することは、マーケティングにおいて非常に有効な洞察となります。今日はチームがセッションから掘り起こした4つのTensions、Scarcity(希少性)⇔Supply(供給)、Promise(約束)⇔Manifest(実行)、Sumptuous(贅沢)⇔Sustainability(持続可能)、Growth(成長)⇔Privilege(特権)について各ブランドの取り組みや課題を紹介させていただきます。

それではScarcity(希少性)とSupply(供給)のテンションについて、A.ランゲ&ゾーネ山崎さんよりお話しいただきます。
 

 
山崎:私たち、A.ランゲ&ゾーネの腕時計は、すべて職人が手作業で組み立てています。使用される部品は数百に及びますが、一度組み立てたらすべて分解して、再度組み立てなおして、作動を確認します。それゆえ、需要に応える提供をしていきたいものの、お客さまに提供できる本数も限られてしまいます。希少性の担保と求められる供給のバランスは永遠の課題と言えると思います。
 

 
三好:私たち、祇園辻利でも同様の課題があります。上質のお茶は栽培も非常に重労働ですし、石臼で曳いてお抹茶にすると1時間に40グラムしか生産できません。最近は茶畑が減反されたり、農作業を担う農家の方々の後継者問題があったりして、一次産業を担う方々に労働に見合う対価をいかに還元し、仕事の継続につなげていただくかは課題になっています。

杉本:続いては、Promise(約束)とManifest(実行)のテンションですが、こちらはBMWの遠藤さんからお願いします。

遠藤:BMWではグローバルで「Sheer Driving Pleasure(駆けぬける歓び)」という価値を大切にしてきましたが、ここでいう約束とはブランドにおいてはビジョンのようなものかな、と思います。BMWならではの価値を守りながらも、自動車産業は今、カーボンニュートラルな世界にむけての役割にコミットしていくことが求められています。そこで電気自動車モデルの開発に力を入れていますが、実は1972年には最初の電気自動車を出しているのです。

杉本:ラグジュアリーブランドの約束、ビジョンには先見性も求められるのですね。

遠藤:そう思います。また2021年11月には、日本でも電気自動車のフラッグシップモデル「iX(アイエックス)」の提供を開始しましたが、オリーブオイルから抽出した素材で内装の皮をなめしていたり。製造工程においてもサーキュラーエコノミーに貢献する工夫をしつつ、ラグジュアリーな体験も担保できるよう、考えています。
 

 
杉本:ここで私アメリカン・エキスプレスの約束と実行についてご紹介します。皆さんのような製造を伴う事業体ではないので、サスティナブルな世界の実現に対するインパクトを持った活動は、難しいのですが、進化を遂げるフィンテック領域でどう新しいサービスを提供していけるかが重要になってきています。自動車業界における電気自動車同様、テクノロジーが重要な要素と言えると思います。小切手がクレジットカードに代わり、ウェアラブルデバイスになり…と決済ソリューションは形を変えていきますが、「日々、世界最高の顧客体験を提供する」というビジョンのもと、お客さまにより人生を豊かに生きていただくため、安心してお使いいただけるサービスを提供していく必要があると考えています。
続いてはSumptuous(贅沢)とSustainability(持続可能)のテンションに話を移していきたいと思います。祇園辻利の三好さんからお願いします。

三好:先ほどお話ししたように持続可能な運営をしていくためには、茶葉の生産者の方々により還元ができるような付加価値を持った商品の開発が必要と考えています。そして、いかに付加価値を高められるかを考える中で、2021年の11月にボトリングティーの「茶零」を発売しました。ペットボトル入りのお茶を抽出する際の30倍の時間をかけて低温でじっくりと抽出。着色料、保存料など一切含まれない純粋な宇治茶です。ワインのようにお料理とのマリアージュを楽しんでいただきたいとボトルにもこだわりました。
 

 
杉本:ボトルも素敵ですね。

三好:容器も含めて、ラグジュアリーなひとときを感じていただけたらと考えています。

遠藤:祇園辻利さんは京都の老舗ですが、実はBMWも京都の伝統工芸とのコラボレーションを実施しています。内装のインテリアに西陣織を組み込んだ特別使用車を昨年、3台限定で提供したのですが、BMWでは「美と技の究極を紡ぐ」というスローガンを掲げていて、伝統を大事にし、ラグジュアリーという文化を次世代に継承することも私たちにとっての持続可能な社会への貢献の形だと考えています。伝統工芸には多様性がありますし、多様性があるということは非常に贅沢ことでもあると思います。

杉本:ありがとうございます。それでは、最後のテンションであるGrowth(成長)とPrivilege(特権)に移りたいと思います。こちらはアメリカン・エキスプレスと山崎さんのA.ランゲ&ゾーネでお話をしていきたいと思います。ラグジュアリーブランドには、美術的な価値もありますが、いわゆるアートとは違って、ビジネスとして成長を続ける使命もあります。この両方のバランスをとるのが非常に難しいところです。
特に最近では、ラグジュアリーという価値観も変わってきています。ステイタスシンボルとしてのクレジットカードという特別感とは異なる価値を求める方も増えています。ラグジュアリーに対しても、精神的な要素がより強く求められるようになっているなか、真に自分の人生を支えてくれる存在になることで提供できる特別感が必要ではないかと考えています。


 

山崎:私たちA.ランゲ&ゾーネも常に新規のお客さまもお迎えしてブランドとして成長していかなければなりません。そこで、ブランドの入り口となるような200万円台の時計もご用意しています。逆に最高峰のモデルは約2億円で、このモデルはA.ランゲ&ゾーネのなかでも、最も複雑な機構を持っていて、1本が完成するまでに1年かかり、世界に6本しかありません。先ほどのモデルと比べると価格は100倍ですが、問題は価格ではありません。入口となるモデルで、伝統と革新を追求し続けてきた職人の技術に共感をしていただき、身に着けることで人生が豊かになったと感じていただく。そこで、いつかはより複雑な機構のA.ランゲ&ゾーネの時計を身に着けたいと考えていただく。つまりは、自分の人生がより豊かになったと感じていただくことこそが、その方の特権になるのではないかと考えています。

 
杉本:ありがとうございます。いろいろと議論を重ねるなかで、「生存には必須ではないが、人生には欠かせない」ラグジュアリーは、人間にとってユニークに果たしている役割があるという確信を得ることができました。ラグジュアリーという言葉の語源を辿ると、ラテン語で「有り余る」という意味と、「ラックス(光)」という意味の2つが入っていることがわかります。一生に一度しかない人生なのだから、その人生に光が当たるような、ロマンチックなものにしてくれるのがラグジュアリーブランドの役割ではないか。提供する商品・サービスの形は時代により移り変われど、より豊かな人生を求められるお客様がいらっしゃる限り、求められる以上の価値をお届けするのが私たちの使命ではないでしょうか。