本CMに関わるのはトライグループ・代表取締役社長の二谷友里恵氏と澤本嘉光氏、篠原誠氏、東畑幸多氏、野崎賢一氏のクリエーティブ・ディレクター4人。5人は、日々どのような“宣伝会議”を行っているのでしょうか。座談会形式で5人に話を聞きます。
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【参加者(本文中・敬称略)】
トライグループ 代表取締役社長 二谷友里恵氏
電通 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー 澤本嘉光氏
篠原誠事務所 クリエーティブ・ディレクター 篠原誠氏
(つづく)クリエイティブ・ディレクター/CMプランナー 東畑幸多氏
電通zero クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー 野崎賢一氏
季節によって変わる受験生と親のインサイトに寄り添う
――「教えて!トライさん」シリーズの企画は、どのようにつくられているのですか。
篠原:『特捜最前線』シリーズから一貫して変わらず、常にCMの目的は基本的に問い合わせ数を増やすことです。そのため親御さんのその時々のインサイトに寄り添うようなメッセージを発信できるように心がけながら企画しています。
野崎:親御さんやお子さんのとても繊細なインサイトをもとにしながらも、ハイジというアニメに置き換えて伝えることで、受け入れられやすい面がありますよね。
澤本:この仕事のなかで、私の子供が受験を迎えた時期がありました。親の気持ちは、その時々に揺れ動くもの。私も自分の経験を踏まえ、親御さんと小中高生の双方から共感を得られるセリフでCMを構築しようとしていますが、最終的にセリフを選ぶのは二谷さんです。
二谷:テレビCMでは新しい表現を追求しつつも、教育事業者としての誠実さや真摯な姿勢が伝わることを非常に大切にしています。ちょっとした表現であっても、基本的なことではありますが、正しい日本語を使い、崩しすぎない。これは常に念頭に置いてきたことです。
あとは皆さんがおっしゃるように、とにかくお子さん、そして親御さんの「インサイトに寄り添う」こと。夏休み前、定期テストの後、受験直前期など、お客さまのインサイトは年間の学校行事によって月ごとに大きく変わります。「今、まさに親御さんが悩まれていることは何か?」「お子さんは学習のどういう点で課題を抱えていらっしゃるか?」シーズナリーに敏感になることはインサイトを捉えるうえで、非常に大切です。
結果的に、夏休み期間に放映した「アレ、絶対やってるわ」というハイジとクララの掛け合いのテレビCMは、大日本除虫菊さんの蚊取り線香のように“夏の風物詩”と言われた時期もありました。あれはまさしく新学期前の子供たちの焦りをストレートに表現したものです。
新しい事業が生まれるから、CMにもニュースが生まれる
――テレビという広告メディアを選ぶ理由はどこにあるのでしょうか。
二谷:当社の広告活動はサービスの主な利用者である小学生から高校生に興味関心を持っていただくのはもちろんのこと、最終的な意思決定を行う親御さんにもトライの価値に共感していただく必要があります。全ての世代に広く情報を届けられること、またテレビCMは教育事業者としての信頼を醸成することから活用しています。
最近は Web広告への関心が高まっていますし、当社でもデジタルマーケティングは実施しています。しかしテレビが持つ価値は、決してデジタルに置き換えられるものではなく、それぞれに別の価値があると考えています。
――10年にわたり同じシリーズを続けていても、新しい企画は生まれるものでしょうか。
篠原:トライグループは広告だけでなく、新しい事業や新しい企業内でのチャレンジに取り組むなど進化しています。常に先手、先手で投資をしているのです。そのためコミュニケーションで伝えるべき明確なファクトがあり、だからこそコミュニケーションで伝えるべきニュースが常にある。これも同じシリーズを続けながら、鮮度を保ち続けられる理由ではないかと思います。
東畑:訴求内容がどんどん進化しているのが特徴的ですよね。
篠原:判断が早く、臨機応変、今までの既成概念にとらわれない、これがトライグループの姿だと思います。「世の中が変わるのなら教育も変わらないといけない」と信じる二谷さんのもと、まるでIT企業のようなスピーディーさがあります。
澤本:臨機応変に判断できるのは、志が明確だからだと思います。二谷さんはじめ、トライグループの皆さんは、本気で日本の教育を良くしようと思っているなと感じます。「Try IT(トライイット)」というオンラインで提供している授業があるのですが、それを無料で公開しています。二谷さんは「教育は国の基本であって、誰も置きざりにすることができない。いろいろな方々に提供したい」という考えがあり、揺るぎない信念を持っているのだなと思います。
東畑:企業としての想いを明確なアクションで示しますよね。「トライ式高等学院」という通信制高校サポート校を全国展開していますが、不登校で通えない子どもが卒業資格を得られるなど、幅広い層に教育の機会を提供しています。企業のビジョンを、広告を通して発信するだけでなく、具体的なアクションとして世に示していますよね。
二谷:会長の平田(平田修氏)が描く事業戦略を、現場との徹底的なブレストの後、私がクリエーティブで咀嚼し、わかりやすくお客さまに届ける。これが大きな流れで、この二人三脚でずっとやってきました。そこに皆さんがおっしゃるような意思決定の速さの要因があるかもしれません。
また、皆さんに触れていただいた通り、トライには前年踏襲を良しとしない社内風土があるので、前述の永久0円の「トライイット」を始めたり、コロナで塾に行けなくなれば、迅速にオンライン個別指導を開発。昨年夏からは完全無料でオンライン夏期講習、そして冬期講習と、どんどん新しいことに挑戦しています。
その時々に変化するお客さまのニーズに対応するために、常にサービスを多様化させ、事業の領域を広げてきましたし、その活動を伝えていくのが広告宣伝。そこで常々、宣伝部にも「宣伝とは、そしてクリエーティブとは、単なるデザインではない」と話しています。広告宣伝は、当社にとって経営そのものなのです。
野崎:皆で大きな想いや目標を共有しながら、一本一本のCMをひたすら考えたり、悩んだり、磨き上げることに集中できる環境はクリエーターにとっても、ありがたいものです。
クリエーターとトップがコミュニケーションをとる大切さ
二谷:この10年間、一貫して変わらないこと、そしてこれからもずっと大切にしていきたいことは、教育を通じて、子どもたちの未来を明るく照らしていきたいということです。会長の平田がトライグループを起業した35年前は、集団教育が全盛の時代でした。そんな中、平田は個別教育の持つ可能性を信じて取り組んできました。
当社の企業理念は、「人は、人が教える。人は、人が育てる。」です。子供たちが持つ無限の可能性を引き出し、トライと出会ってくれたひとりでも多くの子どもたちが、それぞれの夢や目標を実現しその先の人生で輝いてほしいと本気で思っています。
ですから広告展開においても、「どのようなクリエーティブをつくるか?」を思考の出発点に置いていません。社会が親御さんや子供たちが今、何を必要としていて、そしてトライグループは何を価値提供できるのか、その本質を具現化するためにクリエーティブがあるのだという考えを大切に、これからもトライグループが教育のためにできることのすべてを、そして未来を担う若者たちへの想いを、広告を通じて多くの方にお届けできたらと思っています。
澤本:最後に私がお伝えしたいことは、社長とクリエーターが直接コミュニケーションを取ることの大切さです。「この商品・サービスを通じて何を実現したいのか?」という漠然とした想いでも構いません。そうした経営者の方々の想いを知ることで、私たちはどこに向かって球を投げればよいのか、その場所が見えてくると思います。
【関連】家庭教師のトライ「教えて!トライさん」シリーズ、「とっくにネタは尽きた」それでも面白さを追求し 8年続くCMに
(※月刊「ブレーン」デジタル版のサイトに移行します)。
スタッフリスト
- 企画制作
- 電通+篠原誠事務所+(つづく)+KEY pro+電通クリエーティブX
- CD
- 澤本嘉光、篠原誠、東畑幸多、野崎賢一
- 企画+Pr
- 城殿裕樹
- 企画
- 曽根良介
- Pr
- 飯田祐司
- PM
- 八塚大志
- 演出
- 浜崎慎治
- アニメーション
- 山本浩、堤義幸
- 編集
- 渋谷竜彦(オフライン)、小木曽功治(オンライン)
- モーショングラフィックス
- 船見享平
- 音楽
- 山田勝也
- 歌
- 松室政哉
- MIX
- 太斎唯夫
- AE
- 中村祐亮
- NA
- 佐藤正治(おんじ)