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宣伝部DXの第一歩は、「買い手主導」の本質を理解することから(横山隆治)

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新刊書籍『顧客起点のマーケティングDX データでつくるブランドと生活者のユニークな関係』(3月31日発売)の主要テーマのひとつが「宣伝部のDX」です。著者の一人である横山隆治氏はPOE(Paid,Owned,Earned)の概念を初めて日本に紹介したことで知られますが、デジタルを活用したテレビ広告の効果最大化など、従来型の宣伝業務のアップデートを長らく唱えてきました。

本書で詳述している「宣伝部DX」の本質とは何なのか。なぜいまDX化を進めるべきなのか。横山氏が解説します。

DXの本質的な要素はすべて「宣伝部」にある

本書では、企業のDX推進の中でも「宣伝部のDX化」をある意味で象徴的かつDXの集大成として位置づけています。それは「投資対効果の可視化」、「アナログ施策のプロセスのデジタル化」、「デジタル思考の人財育成」、そして「デジタルによるCX(顧客体験)の最適化」など、DXの本質的な要素をみな満たすことになるからです。

定価:1,980円(本体1,800円+税)
四六判 232ページ
ISBN978-4-88335-545-7

 

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そのためにも「宣伝部のDX」の第一歩をどう踏み出すかについて、いくつか記しました。まずテレビなど従来のマスメディアの指標をデジタル型に変えて到達実態を改めて認識し直すこと。これはデジタル広告が採用してきた表示回数という指標を、テレビ広告の買い付け単位が個人視聴率ベースになったことを機にテレビの指標にしようというものです。絶対数が取り入れられるとエリアを超えて合算できますし、デジタル広告との合算も可能となります。

またテレビ視聴と購買が紐づいたシングルソースデータで、デモグラではない新たな「購買期待層」をブランド独自にセグメントし、そこにターゲティングしたテレビCM投下をしようという試みも推奨しています。これによってデジタルと同じターゲティング手法をテレビにも持ち込むことができます。

アナログ思考だったテレビ広告出稿における到達実態把握やプランニングプロセスをデジタル思考にしてみる。これでも第一歩としては立派な「宣伝部のDX」なのです。
 

アナログ施策でも「デジタル思考」に基づいていればOK

次にCMクリエイティブに関してですが、本書ではCMの完全視聴率データを評価指標にしてみる提案もしています。それ以外にも筆者が『CMを科学する』で提唱したGAP(グロス・アテンション・ポイント)も、最も大きな変数であるクリエイティブパワーを数値化するものです。

当面はでき上がったCMを数値で評価するものですが、データが積み上がっていけば、データによるCMクリエイティブの最適化に向けた知見が獲得できると思います。勝利の方程式まではできなくても、失敗しない原則は確立できるでしょう。

これらは個人ではなく組織の知見とすることで、従来の人が代わると知見の積み上げが振り出しに戻ることを解消することができます。組織に知見を残して進化していくためにも、デジタル思考によるアナログ施策の数値化、指標化が不可欠です。
 
強調すべき点は、デジタル施策を行えばDX化しているということにはならないということです。例えばある出版社がWeb版の雑誌展開をしてはいましたが、その原稿や広告入稿は紙のそれとほとんど変わらない時間軸でした。スピード感やアジャイル型進行がない時点で思考回路が旧来モデルです。いくらアウトプットがデジタルなものでもやっていることの本質はアナログモデルなのです。

逆にアウトプットがアナログ型の旧来モデルでも、その開発プロセスがデジタル思考で成り立っていれば立派なDXとして成立しています。


なぜGRPではなくインプレッション数で測るべきなのか

宣伝部など消費者と向き合う部門のDXはデジタルによるCXの最適化であると記しました。CXを議論する大前提として、コミュニケーションにおける「送り手」から「受け手」への力関係の逆転を本当の意味でしっかり認識することから始めなければなりません。テレビであれば今や編成権は圧倒的に視聴者にあって、テレビ局にはありません。リニア型でも放送からオンラインへシフトしています。

コマーシャルメッセージも、USP(ユニーク・セリング・プロポジション)を伝えるという考え方では成り立ちにくくなりました。よく「刺さる」メッセージという言い方をしますが、これが既に「送り手」に主導権がある前提の物言いです。

むしろSNSでのブランドのファンの何気ない「つぶやき」こそ共感を得られるメッセージになりうる時代です。

こうした関係は「売り手」と「買い手」と言い換えてもいいでしょう。ですから広告主企業は自社ブランドの買い手としての消費者に主導権があると認識せねばなりませんが、同時にメディアの買い手としての広告主に主導権があることも意識すべきです。

本書でいくつか挙げたテレビに関するデータは、売り手のデータではなく、買い手のデータです。「売り手市場」だったテレビ広告の世帯視聴率ベースのGRPなどから、表示回数(インプレッション数)や、フリークエンシー別分布など到達実態が明確になるデータに再編する必要があります。これは買う側のデータです。またビューアビリティやアテンションなども視聴質データも買う側のデータと言えます。なぜならメディアの買い手は「広告枠」を買いたいのではなく、「効果」を買いたいからです。
 
GRPは買い付け単位ではありますが、効果指標ではありません。ある程度効果と相関するかもしれませんが、相関係数はキャンペーンによってバラバラですから、KPIにはなりません。売り手の指標だからです。むしろデジタル広告が採用してきた指標に変換してみましょう。買い手のデータ、買い手の指標としてこの方が自然なのです。

今までの作業をデジタル型思考に変換してみることが買い手主導にすることにもなるのです。DXの第一歩としてのデジタル思考化は、従来からの宣伝部の弱点を克服し、社内的ポジションをも上げるでしょう。

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横山 隆治
横山隆治事務所(シックス・サイト)代表
株式会社ベストインクラスプロデューサーズ 取締役
CCCマーケティング株式会社 エグゼクティブアドバイザー

青山学院大学文学部英米文学科卒、ADK(旧旭通信社)入社。1996年DAコンソーシアム起案設立、代表取締役副社長就任。黎明期のネット広告の理論化、体系化を推進。2008年、ADKインタラクティブ代表取締役社長就任。2011年デジタルインテリジェンス代表取締役社長、現横山隆治事務所(シックス・サイト)代表。企業のマーケティングメディアをP・O・Eに整理する概念を紹介。主な著書『トリプルメディアマーケティング』、『広告ビジネス次の10年』『CMを科学する』ほか多数。