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マーケティングにも就職活動にも活かせる行動経済学

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「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。

今回は、3月15日に発売した新刊『なんで?を解き明かす行動経済学が導く納得就活~就活を成功させるための心理テクニック~』(橋本之克著)の「はじめに」の一部を紹介します。

人はなぜ不合理な行動をとってしまうのか

「行動経済学」を知っていますか? 2002年から約15年の間に3人のノーベル経済学賞の受賞者を輩出して注目されたので、聞いたことはあるかもしれません。

定価:1,650円(本体1,500円+税)
四六判 184ページ
ISBN978-4-88335-547-1

 
詳細・購入はこちらから

行動経済学は20世紀半ばに生まれた比較的新しい学問で、簡単に言えば経済学と心理学が融合したものです。従来の経済学との違いは「人間は心理的バイアス(認知、思考や判断を狂わせる偏りや歪み)に影響されて不合理な行動を行ってしまうものだ」という前提に立っていることです。行動経済学者により、人の選択や行動におけるさまざまな不合理なパターンが明らかにされています。

例えば、人が意思に反して集団に合わせてしまう「同調効果」というパターンがあります。また、物事の目立つ一点によって全体の評価が左右される「ハロー効果」というパターンがあります。思い出しやすい記憶ばかりを根拠に判断してしまう「利用可能性ヒューリスティック」というパターンもあります。こうした不合理な行動を司る心理のメカニズムを明らかにするのが行動経済学です。

行動経済学の特性は、現実の世界で活用できる点です。典型例は「ナッジ」です。ナッジ(nudge)という英語は「ひじで軽く突く」という意味です。「ナッジ」は、人の行動を制限や強制するのでなく、ひじで軽く突くような、ちょっとしたきっかけを与え、本人が無意識に望ましい自発的な行動をするように誘導する仕掛けや手法です。

政府広報も取り入れた行動経済学

2020年の新型コロナウイルスの発生当時は感染症対策が最重要課題でしたが、全国民の行動を法律で禁じることはできませんでした。そこで厚生労働省は2020年4月に「人との接触を8割減らす、10のポイント」を発表しました。その一番目に、「ビデオ通話でオンライン帰省」と書かれています。

「帰省は止めましょう」といった行動を規制する言葉でなく、「オンラインで帰省する」という前向きな表現です。コロナ禍では誰もが、日常行動における我慢を強いられ、生活に不安を感じていました。その状況では、行動を規制する命令や通達を発するよりも、自発的な良い行動を促すべきだと判断したのでしょう。これを行うために行動経済学の「ナッジ」で、人間の心理や行動を良い方向へ誘導する試みが行われたわけです。

本書の趣旨は“活用できる学問”である行動経済学を、就活に役立てるというものです。その本題に入る前にまず、広告会社の戦略プランナーであった私自身が、本書を執筆することになった経緯について説明させてください。

大学卒業後、読売広告社に就職。シンクタンクの日本総合研究所を経て、アサツーディ・ケイに転職しました。現在はフリーランスで企業向けの戦略コンサルティング、セミナー講師、書籍執筆などを行っています。

キャリアの大半を広告・マスコミ業界の一員として過ごし、30 年以上にわたりマーケティングやブランディングのプランニングに携わってきました。行動経済学に関心を持ったきっかけは、アサツーディ・ケイ時代に行った消費者調査です。

カードローン利用者に「カードローンを選ぶ際の重視点」と質問したところ、多くの人が「金利の安さ」と答えました。カードローンの広告には金利が記載されていますから、利用者が金利を参考にするのは不思議ではありません。しかし実際の借り入れ行動を思い出してもらうと、重視しているはずの金利は重要でないどころか、覚えてもいなかったのです。重視されたのは「人目につかずに借りられる場所にあること」などでした。しかも調査回答者にウソをついたという意識はなく、実際に金利を重視したつもりだったのです。


原因は行動経済学における「認知的不協和の解消」です。人間が自分自身に関する既存の認知と矛盾する認知を迫られた時に、不快感を抱き、これを解消する行動を無意識に取るというものです。調査では、数字で合理的な判断を下す自分でありたいという回答者の心理が、誤った回答をさせたと考えられます。

行動経済学を就職活動に活用する

また新しい広告や商品の評価を調査する際、対象者に対して、広告を見たか、商品を買ったかを質問することがあります。すると回答者の中に、テレビで放送していないはずの時期に「見た」と答える人や、発売前の時期に「買った」と回答する人が表れることがあります。

特に有名企業による広告や商品の場合に、こうしたことが起こりがちです。原因は「プライミング効果」です。事前に見聞きしたことなどが記憶に残り、後の判断や行動に影響するのです。調査の回答者は、頭の中に記憶された企業名の影響で、広告を見た、商品を買ったと答えてしまうわけです。

調査を続けていくと、この他にも、意識と実態が矛盾するケースが山ほど現れました。こうした人間の不合理さを理解する必要に迫られて、私は行動経済学を学ぶことにしました。この学問は非常に有効で、これを活用することで多くの企業や商品の顧客分析、戦略の構築や実施をスムーズに進めることができました。

こうした経験で得た知見をもとに現在まで関連書籍を8冊執筆しました。行動経済学を知るほどに、その活用範囲が広いことに気づきます。そこで、さまざま活用を試みる中で、今回の「行動経済学を就職活動に活用する」テーマでの執筆に至ったわけです。

繰り返しになりますが行動経済学は、現実の社会やビジネス、生活の中で役立つ学問です。十分に活用することで、充実した就活や満足できる就職につながることでしょう。さらにその後、社会人として、またビジネスパーソンとして生きていく際にも、行動経済学は役立つはずです。存分に使いこなして、人生をより良いものにしてください。

〈著者紹介〉

橋本之克(はしもと・ゆきかつ)
マーケティング&ブランディング ディレクター/昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員

東京工業大学社会工学科卒業後、読売広告社、日本総合研究所を経て、1998年アサツー ディ・ケイ入社。戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー等の多様な業界のクライアント向けに顧客獲得業務を実施。2019年独立。現在は、行動経済学をビジネスに活用する企業向けのコンサルティングや研修講師を行う。また企業や商品に関するブランディング戦略の構築と実施にも携わる。著書に『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令)ほか。

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