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ユーザー視点・開発視点を両立するデザイナー特有の思考とプロセス/「遠隔デイサービス」「歯科クラウドサービス」

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健康長寿社会の実現に寄与するヘルスケア事業。富士通の基幹事業に、デザインセンターはデザイナーならではの思考・プロセスを駆使し貢献している。「遠隔デイサービス」「歯科クラウドサービス」の事例をもとに、上流から下流までを網羅するデザイナーの役割を紹介する。

写真左から、富士通デザインセンター ビジネスデザイン部 マネージャー 辻垣 幸子氏、同ビジネスデザイン部 菅原 由貴氏、金子 一英氏

 

理想と現実から最適解を導き出す

富士通は、ヘルスケア領域における先駆けとして医療分野のIT化に取り組み、オーダリングシステムや電子カルテシステム、地域医療連携システムなどを開発し、国内外の健康福祉に貢献してきた。40年近くに及ぶヘルスケア事業の歴史は、社会情勢やIT技術の変化に対応するための進化の連続だった。そして現在、富士通は先端ICTで構成されたヘルスケアソリューションによる、すべての人が安心・安全で健やかに暮らせる健康長寿社会の実現を目指しており、デザインセンターもその一翼を担う活動を行っている。

富士通におけるヘルスケア事業の歩みは、医療・福祉従事者の医師、看護師、介護福祉士との共創の歴史である。各種製品・ソリューションは、医療・福祉従事者による助言や共同研究などの協力を得て製品化されており、その社会貢献のために労を惜しまない姿勢は、富士通のヘルスケア事業への向き合い方に大きな影響を与えてきた。医療・福祉従事者と日々対話するデザイナーやSEも同様だ。

金子氏

富士通におけるデザイン部門とヘルスケア事業との関わりは長く、ビジネスデザイン部の金子一英氏は2009年頃から同事業領域の担当デザイナーとして携わっている。当初はロゴやキービジュアルのVI構築から始まり、UX/UI開発やビジョンへと範囲を拡大。大規模病院の電子カルテシステムのUI開発では、画面レイアウトやUI部品などの共通ルールを整理し5,000画面を量産できるフォーマットを構築した。「デザインとひと口に言っても、商品企画からシステム開発、プロモーションまで、上流から下流に至る幅広い領域に関わっています。近年はUI以上にUXデザインの案件が増え、製品リリース時に配布するリーフレットなどツールデザインまで一貫して携わることもあります」と金子氏は現状を説明する。

デザイナーが重宝される要因として、UI設計スキルや多彩なデザインバリエーションのほかに、金子氏が「理想と現実を往復する」と称する特有の思考やプロセスがある。ユーザー視点に基づいて具体的なUIイメージやモップアップを制作し、あらためてユーザーから意見をもらう。このサイクルを繰り返すことで“理想的なUI”を形づくり、SEとともに実現可能な内容へと磨いていく。SEの“現実的なUI”という基準と擦り合わせることで、構成要素や機能を取捨選択し、「実現可能かつ有用性の高いUI」を導き出す。デザイナーは、ユーザーとSEの間における折衝役としての役割も果たしている。

医療現場への想いをUX・UIに昇華

デザイナーの思考・プロセスが貢献した代表的な事例が2つある。ひとつは、順天堂大学と共同研究を進めた「遠隔デイサービス」だ。高齢者の運動機能・認知機能の低下防止に、運動療法および芸術療法が期待されているが、昨今のコロナ禍の影響により介護施設の利用が困難な高齢者は増えている。「遠隔デイサービス」では、富士通の関節可動域自動測定技術や表情認識AI技術などを用いて、オンラインで在宅高齢者の心身の状態を把握し、運動療法・芸術療法の提供、療法中の見守りなど、幅広い支援を実現することを目指し研究が進められた。

先駆的なシステムに映るが、高齢者が自分らしく、健康で幸福な生活を実現するための「Well-being(肉体的・精神的・社会的に満たされている状態)」の考え方が根本にある。そのため、心身の状態測定に加えて、日常生活での交流や社会とのつながりを促す仕組みも検討している点が特徴だ。

 
共同研究で培った技術をベースに、現在は商品化・実用化に向けて推進中の「遠隔デイサービス」について、金子氏はUXデザインの観点から構築を進めている。ユーザー起点の利用シーンを定義したうえで、想定される課題・解決策をもとに「心身の状態が一目で把握できるシステム」という要件にまとめ、UIイメージをデザインした。この一連の工程にはデザイナーの思考が特に活かされていると金子氏は語る。

「言語化された要件からイメージを書き起こすことは簡単ではありませんが、デザイナーは創造力や技術力など、経験によって培われた総合力で対応します。デザイナーの特徴として、完成予想図を頭の中で具体的にイメージすることができます。具体的にイメージできるということは、『イメージできない部分(課題)が明確になる』ということです。あとは、課題をユーザーインタビューなどでクリアにすれば理想的な一枚絵としてまとまるため、喫緊の社会課題に対しても最短ルートで対応できます」(金子氏)

もうひとつの事例は「歯科クラウドサービス」だ。口腔内の健康にとどまらず全身疾患の予防にもつながる「予防歯科」の浸透と社会実装を目指し、予防歯科の権威・熊谷崇氏をはじめとする歯科従事者の協力のもと、口腔内の情報をデータ化し、患者と共有するシステムとして開発。現在、60以上の歯科医院で利用されている。デザイナーの菅原由貴氏は、事業部から依頼された内容について「当初は『医療現場で運用されている紙ベースの診断書やアドバイスシートを、デジタルデータとしてきれいに整えてほしい』というものでした」と振り返る。シンプルなデザイン依頼から、全国各地で導入が進むクラウドサービスのデザインを通して、予防歯科の浸透へと活動が広がった背景には、プロジェクトメンバーの「現場主義」の姿勢が関係している。

 

菅原氏

「医療現場でのヒアリングを重ねるにしたがって、歯科衛生士の皆さんが予防歯科の大切さを患者様に伝えたいと強く思っていることを知りました。その想いに応える施策として、私は診断書の体裁を整えるだけでは不十分だと感じ、患者様一人ひとりの状況に合わせて、作成者が簡単にカスタマイズできる仕様を提案しました。その甲斐もあり、歯科衛生士さんからは『使いやすい』といった声だけでなく、『業務効率化につながった』というありがたいコメントもいただいています」(菅原氏)

電子化を前提に新たにデザインした歯に関する情報は、患者にとって分かりやすい表現に仕上げられ、歯科に対する恐怖心が和らぐよう、イラストを多用した親しみやすいビジュアルを採用した。さらにリーフレットや卓上POPによるプロモーション支援を行ったり、医療従事者向けのセミナーに菅原氏自らが登壇するなど、普及活動にも積極的に参加 。デザインのみに留まらず、日本に予防歯科を浸透・習慣化させるため、医療機関のパートナーとしてサポートを続けている。

富士通のヘルスケア事業に幅広く貢献するデザインセンター。今後について金子氏は、「お客様の課題発掘・施策フェーズに、デザイナーも積極的に参画していきたいです。そのためには、マーケティングなど最低限の戦略スキルを習得する必要があると考えています。ビジネス視点・開発視点・現場視点で物事を考えられるデザイナーは、今後の上流フェーズにおいては不可欠な存在になっていくと思います」と力を込める。

健やかで幸せな社会の実現のため、あらゆる局面で貢献しようとするデザイナーの姿は、富士通全体に好影響を与えているとマネージャーの辻垣氏は話す。


辻垣氏

「ヘルスケアの事業部門では『デザイン思考を使いこなしたい』、『デザイナーのようにUIを設計できるようになりたい』と考える人も増えてきています。ヘルスケア領域の商品・サービスの必要性は、今後さらに高まり続けます。その点、長年にわたり技術や経験を蓄積し、デザイン思考のような新しいスキルも積極的に導入する富士通だからこそ貢献できることは多いはずです」(辻垣氏)

貢献意識を強く持つ多種多様な人材と、長年かけて蓄積してきたヘルスケア領域の技術・経験。これからも富士通ならではのユーザーや現場に寄り添った包括的な取り組みで、「みんなが幸せに暮らすことができる健康長寿社会」の実現を推進していく。



お問い合わせ
富士通株式会社 デザインセンター
URL:https://www.fujitsu.com/jp/about/businesspolicy/tech/design/
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