「人類最大の武器」を利用しましょう。物騒なものではなく、そもそも人間に備わっている能力であり、生存競争に勝ち残った一番の理由です。言葉を持ったこと、知恵を付けたこと…突き詰めると、「伝える力」だと思います。言葉だけではなく、手振りや身振り、視線や仕草で互いの気持ちを伝え合う能力のことを指しています。この「伝える力」を最大限に利用するためには、この力の本質を見極めなければなりません。
まず、私たちは「伝える力」を何のために使ったのでしょう。人と人のコミュニケーションの源流を辿ってみると、目的はひとえに敵と味方を区別するためだと考えられます。自分のことを自分じゃない誰かに伝えることで、敵か味方かを見分けることができるようになります。敵なら近づかない、味方なら仲間になる。こうした出会いを繰り返すことで、仲間を増やし1対1では敵わなかったマンモスを倒せるほど強大な力を持つようになります。人類は、石器の前に仲間という武器を手に入れていました。
コミュニケーションそのものはツールやデバイスの進化により随分複雑になりましたが、現代社会でもこの力は相手を判断する時に発揮されています。初対面の挨拶では、西洋人なら握手を求め、日本人の場合は頭を垂れて近づきます。味方のサインです。人種や文化でアクションは違いますが、まずは敵じゃないことを伝えて、同時に相手の真意を瞬時に読み取ろうとします。ビジネスでも、この能力をフルに使ってパートナーを見定めないと決して成功しません。SNSではフォローとアンチがくっきりと分かれてしまい、現代人が良くも悪しくもこの力を継承していることを実感します。
次に「伝える力」は、主に何を伝えているのでしょうか。自分が伝えたことと相手が受け取ったことは、果たして同じでしょうか。実は、記憶のほとんどが「印象」なのです。ある実験では、「人と出会った後に記憶している約70%は、対峙した人の全体的な印象である。」という結果があります。即ち、話した内容やメッセージはほぼ伝わっておらず、話し方や態度など相手の印象をぼんやりと受け取っているのが事実です。すごく大きな声で早口でしかも訛っていたけど、話していた内容は覚えていない。印象に残ったのは、キャラだけ。そんな経験が誰でもあるのではないでしょうか。私たちは、態度で相手を分析しています。入ってくる言葉や情報を聴覚・視覚・嗅覚等を総動員して受け取り、自分にとって敵か味方か、好きか嫌いかを判断しているのです。