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コラム

いい広告をつくるための7つのこと

第5話:ビジュアルとコピーの関係は?

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飛行機と広告は、コンビの発明物です。広告づくりは、アートディレクターとコピーライターの共同作業。この2人さえいれば、どんなに大きな世界的キャンペーンでも実現できます。

カップルでもパートナーでもなくコンビと呼ぶのは、前々から漫才コンビのような組み合わせだ、と秘かに思っていたからです。漫才には、ボケとツッコミの役割分担があります。アートディレクターがつくるビジュアルとコピーライターが書くコピーが、それぞれこの役割を演じています。

一般的にはビジュアルがボケ役で、コピーがツッコミ役。絶妙な絡みだと、気持ちがいい。広告の前でクスッと笑ったり感心したり、一瞬でファンになってしまうこともあります。ところが、ボケが張り切りすぎたり、逆にツッコミのキレが悪かったりすると、とても残念な気持ちになります。

あの日の【彼】は、おそらく残念な演目を見た直後だったかもしれません。クリエイティブフロアに入ってくるなり、口火を切りました。

「コピーが頑張り過ぎだよ、コピーが」
「どうしたんですか?」
「今さ、駅前のポスター見たら、コピーがドーンと大きく入っているんだよ。どうなの?」
「…と言われましても」
「大体さ、コピーライターが言いたいことを全部言ってしまおうとか、何とか一行にまとめようとして頑張るから、アートディレクターもやりようがないよね。結局、コピーを大きくしてしまう。もうコピーそのものがビジュアル化して、偉そうに大手を振って歩いてるんだ。コピーとビジュアルの持ちつ持たれつの関係なんか、最初から無かったような顔して。忙しい世の中に合わせてコミュニケーションもスピード優先と言う人がいるけど、僕は反対だね。鼻っから分かり切った広告なんてつまらないよ。せっかく目を止めても、表札みたいなポスターばかりだと味気ないよね」
「まあ、そうかもしれませんね」
「そりゃ、そうだよ。」
「でも、表札じゃないのを見たことあるんですか?」
「あるよ。ポスターじゃなくて、雑誌広告だけど」
「どんなのですか?」
「見開きだから、駅貼りポスターとか屋外看板によくある横一のスペースだよ。全面にドーンと波の写真が入ってるんだ」
「波ですかぁ…それだけ?」
「それだけさ。でね、写真の外、下の方に一行でコピーが入ってるんだよ。何だと思う?」
「分からないですよ」
「だよね。言ってなかったけど、広告主は、リゾートホテル」
「はい。それで?」
「それで…『当ホテルの目覚まし時計です。』というヘッドラインだよ」
「ふーん、なるほど。いいですね」
「いいですねって、凄くいいだろ! 君、こんなコピー書けるかい?この一行は、海水浴やサーフィンじゃない波の存在に気付かせてくれるんだ。海辺のリゾートホテルなんて砂の数ほどあるけどさ、今、この広告を駅の看板とかポスターで見かけても行きたくなると思うよ。なのに、どうしてリゾートの広告は判で押したように日焼けした女性とデカいコピーになっちゃうのかねぇ」

©123RF

どこにでもある何の変哲もない波を堂々と使ったビジュアルの大胆なボケ。それを一気にホテルのウリに変換する鋭いコピーのツッコミ。いい距離感。シンプルで味わい深い。グラフィック広告がビジュアルとコピーで成り立っていることを再認識させられる神芸だな、と頭の中で反芻していたところ…

「あ、忘れてたよ」と、彼が戻ってきた。
「持ちつ持たれつの例を、もう1つ思い出した。素晴らしいコピーが入っているんだけど、分かる?」
毎度のこととはいえ、本当に何の手掛かりもなく返せるはずはない。

「分かりません」
「クルマの広告だけどさ」
「またクルマですか?」
「君ねぇ、クルマの広告には名作が多いんだよ。なぜだか分かるかい?」
1問目の前に、2問目の答えを先に聞くようだ。

「それは、予算が大きいからだよ。広告で人を動かせる一番高価な商品がクルマなんだ。次が家電で、その次が時計かカメラだったかな…。要は、予算が集まるところに才能も集まるという原理だよ。家はクルマより高額だけど、ハウスメーカーのCMを見て、今すぐ買おうとはならないだろ?」
「ですね。」
「そうそう、何だっけ?」
「持ちつ持たれつの例です」
「そうだ、それだ」
ようやく1問目が出題される。

「ビジュアルはクルマだけ。斜め前からの、いわゆるビューティーショット。背景もなし」
「また、それだけ?」
「そうだよ。さあ、君ならどんなコピーを付ける?」
「何でもイケますよね。クルマだけだとしたら…」
「普通のコピーライターは、そう考えるよね。君もコピーだけで頑張るタイプかぁ」
「だって、クルマが置いてあるだけでしょ? 特別な意味なんてないから、コピーで何とかするしかないと思いますけどね」
「そう考えるから、普通なんだよ。…とは言っても、すでにビジュアルがあるところにコピーを付けるのと、アートディレクターと一緒に考え始めるのとでは、全く条件が違うから仕方ないかもしれないな。」
「それは、そうですが…」
「君はクルマだけと聞いて、つまらないビジュアルだと勝手に解釈しちゃったようだけど。だったらコピーだけで何とか面白くしようと力まないことだよ。コピーを付けることで、そのビジュアルが普通じゃなくなるように仕向けるんだ。いいかい。最初にビジュアルを見て『なんだ普通か』と思われても、その後コピーを見てからビジュアルに戻ると『なるほど、そうなのか』となるようにコピーを付けるんだよ。分からないか…」
もはや問題の意味さえ分からない。

「じゃ、答えるよ。そのコピーは『Lemon.』なんだ」
「レモン?」
「そうさ。果物じゃなくて、レモンには『欠陥品』という意味があるんだ」
「てことは…」
「ビューティーショットに欠陥品?…となるよね。詳しくボディーコピーを読めば分かるんだけど、『完璧に見えるクルマでも、わが社の厳しい品質管理では欠陥品です。』というわけさ。どうだい、普通のクルマのビジュアルを、このコピーとセットにして見直してごらん」

©123RF

後でその原稿をじっくりと見てみた。確かにゴロンとしたクルマのフォルムがレモンに見えてくる。わざわざそのアングルを見つけて撮影したに違いない。その上、背景がないから輪郭線もくっきり。切り抜き写真を使ったのは、秀逸なアートディレクションだ。造作を感じさせないボケのビジュアルに、カウンターの効いたツッコミのコピー。すべて計算づくだったら、ヤバいかも…。たとえ彼じゃなくても、こんなコンビ芸を街のあちこちで見ることができたら、確かに楽しいかもしれない。つくり手であることを忘れて、少しワクワクしたことをはっきりと覚えています。

今回のまとめ:ビジュアルがボケ。コピーがツッコミ。

次回は、ビジュアル寄りの話をします(コンビとはいえ、今回はコピー寄りでした)。