「広告のプロ」たちに映画の説明をしてほしい!
李:ストーリーを解説してくださいとよく言われますが、「何をどう解説すればいいんだろう?」って(笑)。
一同:(笑)。
李:何を喋っているんだろう?って思いながら話します。なかなか観終わってすぐに感想が出るタイプでもないし……。今日は逆にいうと、広告のプロの皆さんに「どうやって説明したらいいですかね?」ってお聞きしたかったんです。決してものすごく難しい感情を描いたつもりはなかったんですね。たぶん、ある程度多くの方がどこか思い当たったり、共感まではいかなくても共鳴したりするものを描いたつもりなんですけど。
ところが、これがなかなか説明が難しくて。だから僕は映画を撮るんだな、と思ったりもしましたね。小説を読んだ時も、自分が日頃抱いている違和感とか、まさに思い当たることが鋭い視点でいろいろと描かれていたわけですけど。その一方で、この2人のつながりは、小説の中でも言葉で説明できないからこそ、「映像で追求したい」と思わせられたんだと思うんです。
権八:みんなが多かれ少なかれいろんな思いを抱えて生きていて、でも、やっぱり何かをつくる以上は世の中に何かを投げかけたいはずで。生きづらさみたいなものを日々抱えながら、でもなんとか頑張って生きている……。
李:僕もどちらかというと、この事件に知らずに接した時に一生懸命真実を見ようとするかといえば、「断片を集めて判断する側」のひとりである気がしているんですね。そうやって一個一個を「処理」していっちゃうというか。でも、処理された側には、そこだけの真実があって、それが一生ついて回るじゃないですか?周りは「処理」すればそこで済むけど。でも、本人たちはそこでずっと苦しみ続けないといけない。そういうことにどこかで立ち止まる必要がある気がしていますね。
そこをすくい上げようとか、世の中に強く訴えて「完全に排除することや批判することはダメなんだ!」と訴えたいわけではないんですけどね。なんかこう、「立ち止まりたい」というか。
一同:あぁ~。
真実に見えているものが真実とは限らない
中村:今回の『流浪の月』でいうと、元誘拐犯と、その被害女児との関係性ですよね。客観的に見ると、「誘拐犯」という犯罪者としてのレッテルになってしまうんだけど、そうじゃなくて、「単純な善悪では判断できないもの」が描かれているという感じなんですかね。
李:う~ん。まさに、そうです……。
一同:あはははは!
澤本:今、監督がおっしゃっていたけど、感想のひとつに、真実に見えているものも、真実かどうかわからないものがいっぱいあるんだな、と思って。今、洋基くんが言った「元誘拐犯」ていう言葉も、彼は本当に誘拐犯なんだろうか?ということすらわからないですよね?僕らは、世の中のいろんなことに対して「こうだ」と決めつけていて。僕らが意識せずに当たり前のように誰かに批判の目を向けていることって、本当は全然違うこともいっぱいあるかもしれないな、と。「実はそうなのかも?」ということに気がつくという点では、すでに気がついているわけじゃない?
権八:うん。
澤本:そんなことがあの映画の中にはいっぱいあるな、と思ったんですよ。中には「自分もそうなんじゃないか?」って思うような事象もいっぱいあったし。それが次々と襲ってくる映画でしたね。
李監督流「役者のポテンシャル」の引き出し方
権八:たしかに、テーマの切り取り方とか描き方が目をそむけられないというか……。まず、映像が完璧じゃないですか?それに何がすごいって、役者さんがみんなすごい。
澤本:すごかった。
権八:それぞれがみんな素晴らしかった。これはおべっかでもなんでもなく、みんなすごかった。僕が知っている松坂桃李さん、僕が知っているすずちゃん、横浜流星くん。それを超えてきたな、と。こういう言い方は、なんかおこがましいんだけど。監督は「広瀬すずの代表作をつくろうと思った」って言われていましたもんね、舞台挨拶で。
李:ちょっと、勢いで言っちゃったんですけど。
一同:(爆笑)。
権八:いや、本当だろうな、と思いましたけどね。でも、役者さんの引き出し方って、どうやってあんなポテンシャルを引き出されるんですか?
李:ねぇ~?
一同:あはははは!
権八:言いにくいですよね?
李:いやいや、特別な秘密は何もないんですよ。本当に会話していくしかないというか。「このキャラクターはこういう性格だからこう動くよね?」とは言えない。簡単には断定できない「生身感」なので。 「一体、どういう人なんだろうね?」という質問を投げかけて沈黙したり、「ウーン」って言いながら、 ポツポツとお互い思ったことを共有したり。一人ひとりがそんなやりとりを経て、今度は役者さん同士を合わせるんですね。 たとえばすずと流星くんだったら、 3人で「問答」を始めるというんですかね。喋っているだけでは何も解決しなかったら、ちょっと動いてみたりとか。 答えを確認するというよりは 「何について悩むのかを共有する時間」を持つようにしましたね。
権八:それは 撮影に入る前ですかね?
李:前ですね。いわゆる台本を読む「リハーサル」もやるんですけど、 それよりは「書いていない部分」というんですかね。たとえば、すずと流星くんなら、2人は同棲して1~2年という設定なんですけど、「最初に声をかけたのはどっち?」みたいな質問を投げかけて。 たとえば、飲み会の帰りに 2人で一緒になったのだとしたら、駅までの道でどんな会話をしたのか?今日はそこからやってみよう、みたいな。
権八:あぁ~。
李:「掘っていく」というんですかね。役として出る会話をヒントにしながら、こちらからも何かを出したり、「こんな話題にしてみよう」とか。そうやってどんどん精度を上げていくんですね。
よくあるシチュエーションですけど、お互いが駅の反対側のホームにいる時、電車が来るまでにどうしようか?とか。 流星くんが次の約束を取りつける時はどうするのか、とか。 そういう段階を経て、まずは最初の出会いを埋めていくという作業をやっていきましたね。それをいろんな局面で、いろんな俳優さんとひとつずつ埋めていくという。
中村:じゃあ、 カメラを回して撮影を始めるその前のプロセスが、監督が役者を引き出す秘訣になっているんじゃないかという感じですね?
李:まあ、引き出すというか、それぞれが「掴んでいく」ためのヒントになるというか。「ヒントを探す時間」を設けますかね。
「じゃあ、この映画はこれでおしまいだね」
権八:面白いなぁ……。すずちゃんが舞台挨拶で話していたのですが、撮影中、あることについて「わからなくなってしまいました」と監督に言ったら、監督が「じゃあ、この映画はこれでおしまいだね」って言われた、と……(笑)。
一同:ははははは!
澤本:怖い……(笑)。
権八:そう言われて、そこからものすごい考えたみたいなことをインタビューで答えていて。たしかに、悩みを共有したり、ヒントを探したりというのは面白いですね。
李:彼女の場合は、ある意味「怒り」を持っているというか。あの世代の真ん中をずっと走ってきたじゃないですか。それによってちょっと「迷い」というのか、自分の感情が地に足がつく前に、前に進まなきゃいけないということが結構あったんじゃないかな、という気がしていて。それが「わからなくなった」という言葉になったんだと思うんですけどね。
面と向かって芝居をしている相手の目が見れない瞬間がある、みたいなね。相手のことをちょっと認識しづらいというか……。でも、どんどん撮影は進んでいくし、OKは出るし、という戸惑いみたいなものがあって、ちょっとふわふわしている。そんな表現だったと思うんですけど。でもまあ、「それじゃ困る」っていうね。
一同:(笑)。
李:それなら、相手の体温がちゃんと自分に入ってくることをやっていこう、みたいな感じでしたね。
〈END〉後編につづく
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