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ことばによるギャップのつくり方―『国語学の視点』アドタイ出張版

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月刊『宣伝会議』では、研究者の視点から広告やコミュニケーションを読み解くコラムを連載しています。宣伝会議賞の締め切りまであとわずか。言葉をみつけるヒントとして、3回にわたって『視点シリーズ』のアドタイ出張版をお届けします。第2回は国語学。2021年4月号から2022年9月号まで「役割語で読み解くCMキャラクター」連載いただいた、金水敏教授によるコラムです。

ギャップを生み出す役割語

CMでは短時間の間に視聴者の注意を引きつける必要があるため、ステレオタイプな表現をさまざまに“ずらす”ことによってギャップを生み出すということがよく行われる。

京都大学教授の定延利之氏は、「性」「年」「品」「格」という4つの観点からキャラを分類することを著書の中で提案している。「性」はジェンダー、「年」は年齢・世代、「品」は上品〜下品という区分、「格」は社会的な地位や権力から醸し出される“ボス感”や“下っ端感”のことである。これらの観点は、互いに独立しつつ、社会通念の上で連動する面があり、それこそがステレオタイプとして視聴者に焼き付けられている。

例えば「性」と「品」「格」の連動で、「《男》は《女》より格が上」「《女》は《男》より品が上」というものがある。すなわち社会通念上、“女性的”であるということは謙虚に、丁寧にふるまうことと深く関係しており、また“女性的”であることは上品にふるまうことと深く関係しているというものである。このステレオタイプを裏切ると、簡単にギャップが演出できる。例えば日本では「博士」と言えば老齢の男性と相場が決まっているが、これを女性に替えて表現したのが明治「R-1乳酸菌」のCMだ(「役割語で読み解くCMキャラクター」月刊『宣伝会議』2021年4月号より)。

また、強権を振るうUQUEENさまが「〜だ」「〜ぞ」等の〈男ことば〉を使うCMもあった。これらは、“男性よりも格の高い女性”を表現していている(2021年12月号)。また、見た目は超かわいいUQ三姉妹の「UQだぞっ」という決めゼリフも、ギャップによるかわいさの表現として見ることができる(2021年10月号)。美人の広瀬アリスが“上品さ”を少しだけ踏み外して「それがpovo〜」と迫ってくるCMや、ほんとはおしとやかな経理の横澤夏子さんが請求書業務に追われて取り乱す「楽楽精算」のCMなども、女性の「品」を外しにかかるおもしろさ狙いと言えよう(2022年6月号)。

また、定延氏は「年」と「格」の連動についても指摘している。つまり(先ほどの「博士」とも関係するが)、年が低いほど格が低く、年が高いほど格が上、という連動である。これは子どもCMによく利用されるもので、いたいけな子供が大人顔負けのむずかしい台詞を急に話し出したり、威厳のある態度で商品を薦めたりする「子どもCM」である(2022年9月号)。逆に、いい大人がこどもっぽい台詞を使うauの三太郎シリーズなどは、その逆を行くケースと言える(2021年6月号)。

これ以外のギャップを挙げるなら、時代劇の設定で現代的な話題を盛り込むアコムのCMとか、もとタカラジェンヌの大地真央の女将がさまざまな場面に現れて関西弁で「そこに愛はあるんか」と今野浩喜に問いかけるアイフルのCMとか、ハリウッドの名優トミー・リー・ジョーンズが街中の働く人々の中に宇宙人として紛れ込むBOSSのCMとか(2021年8月号)、いずれもいかに視聴者の予測を裏切っていくかという製作者の工夫がうかがわれる。

このように、派手な演出で視聴者の耳目を引きつけようとするCMではあるが、わざと声を張らずに静かなドラマ仕立で作られた日本生命のCMのようなものもあり(2022年8月号)、これは逆説的に、CMのステレオタイプを裏切るギャップ狙いと言えるかも知れない。
 

【参考記事】(宣伝会議オンラインに遷移します)
2021年4月号 薬師丸ひろ子の博士役が画期的な理由
2021年8月号 BOSS、モンスト、スコッティ…CMにおける宇宙人と宇宙人語
2021年12月号 UQUEENにみる、権力者語としての〈男言葉〉
2021年10月号 UQモバイル、三姉妹「だぞっ」の研究
2022年6月号 意外なキャラが生み出す面白さ
2022年8月号 声を張らないCM
2022年9月号 「子どもCM」のつくり方
 

大阪大学
文学研究科 名誉教授
金水 敏氏

東京大学大学院(修士課程)修了。博士(文学 大阪大学)。日本学士院会員。日本語文法の歴史を専門とするほか、「役割語」の概念を提唱し、国際的な研究ネットワークを構築中。主要著書に『日本語存在表現の歴史』(ひつじ書房)、『コレモ日本語アルカ?異人のことばが生まれるとき』(岩波書店)、『〈役割語〉小辞典』(編著・研究社)など。

 

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