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コラム

クリエイティブ・ディレクターのプロデュース術

デザイナーと協働するデザイナー

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【前回コラム】クリエーションのデザインとアート

自分でデザインすることに固執しない

クリエイティブ・ディレクターとしての僕の仕事は大きく2つに分類できます。

①コンセプト開発からデザイン実装までを、自身で実行する「自分で手を動かす仕事」。
②コンセプト開発から体験フローやデザイン指針の策定後、各領域のデザイナー・クリエーターと協業して「総合的に監修(プロデュース)する仕事」。

会社を立ち上げてから数年は①の仕事が多かったですが、最近はほとんどが②の仕事です。
僕がクライアントに期待されていることは、総合的な事業・ブランド価値の向上であり、僕の世界観でブランドをデザインして欲しいと思われているわけではありません。

仮に、デザインワークも含めて依頼された場合でも、デザイン戦略策定時に「この世界観であれば、僕ではなくこの世界観を得意とする他のデザイナーをアサインした方がいい」と思えば、クライアントにその旨を相談し、以降はプロデューサーとしてプロジェクトを進行していきます。

もちろん、会社の利益だけを考えればデザインも含めて丸ごと受注した方が良いのですが、僕自身は自分の価値を「総合的なディレクション力」と自認しているため、自分でデザインを実行することに固執はしていません。

ドン・キホーテには明確なデザイン戦略がある

ここで一つ事例をあげたいと思います。

自著『体験デザインブランディング』でも取り上げた、量販店の「ドン・キホーテ」です。
ドン・キホーテは、店舗デザインやPOPデザインなどが一見雑多でデザインとは真逆に位置するように見えますが、実は全て明快なデザイン戦略が存在します。

ドン・キホーテの店舗体験コンセプトは「魔境で宝探しをしているようなワクワク感を提供する」です。店舗前の巨大な水槽には熱帯雨林に生息しているような魚が泳ぎ回り、店内は床から天井まで多種多様な商品が圧縮陳列され、吊るされた商品がジャングルで宝探しをしているかのような体験を提供しています。

店頭には、デジタル制作による無機質感を排除するために、あえて手書きのPOPが乱立します。

これらは全て、「魔境で宝探しをしているようなワクワク感を提供する」というブランドのコンセプトに従ってできたデザインであり、現場の場当たり的な対応による偶然の集合体ではありません。

デザインとは企業やブランドの価値を、生活者に分かりやすく伝えるためにビジュアライズされるものであり、洗練され、美しくあるものがデザインという訳ではないことがわかります。

逆に、「安く沢山」という文脈の中で洗練されたデザインを実装した場合、その商品やブランドは、生活者が気軽に手に取り検討できるものから遠ざかってしまうでしょう。

デザイナー育成のためには意識改革が必要

このように、事業やブランドにおけるデザインは、それらデザインの前提となるコンセプトが起点であることがわかります。

コンセプトの策定時に、最終的なアウトプットのデザインイメージまで含めて、様々なビジュアルを利用して議論することでコンセプトの解像度が高まり、後にアウトプットを採択する際の判断基準にも繋がってきます。

この戦略のプロセスこそデザインにおける「対話」であり、本コラムVol.2における第1領域のデザイナー(デザイン軸)が担います。

第1領域のデザイナーは、その後のアウトプットのプロセスにおいて、戦略に忠実な表現者として自身がデザインする場合もあれば、プロデューサーとして他のデザイナーと協業する場合もあるのです。

このようなデザイナーが担うプロデュースの事業領域は、潜在的なニーズは高い一方で、供給側(デザイナー側)の母数が少なく、領域が顕在化していません。

デザイン思考と言われる領域は、仮説やプロトタイプまでで終わるケースが多いため、ワンストップで戦略からアウトプットまでをプロデュースできるデザイナーを育成するために、デザイナー側と協業する側、双方の意識改革が必要だと考えています。

次回コラムは、「経営者の思考をデザインする」というテーマです。デザイナーが経営者と向き合い、仕事をする上で大切なことをお話しします。

こちらのコラム「クリエイティブ・ディレクターのプロデュース術」は、室井淳司のNoteで記事の背景やスピンアウト記事等も紹介していきます。
室井淳司のNoteはこちらから。