メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×
コラム

クリエイティブ・ディレクターのプロデュース術

水平分散型チームのマネジメント術

share

【前回コラム】クリエイティブ・ディレクターの実現力

「縦型」から「横型」へ移行する組織

拙著『すべての企業はサービス業になる』の4章にて、ブランドをアップデートする視点のひとつに「関係性は支配から接続へ」と書きました。

組織の体制や顧客との関係性が、支配する側と支配される側、提供する側とされる側という垂直・縦型の概念から、全ての関係が水平かつ直接繫がる横型・面型の概念に変わっていくという考え方です。

これはブランドと顧客の関係性について書いたものですが、クライアントと制作チームの関係性、さらには制作チーム内の関係性も同様であると考えています。

広告業界では、クライアントから仕事を受ける元請けの広告会社を中心に制作チームが組成されます。制作チームは、広告会社のクリエイティブ・ディレクター(制作責任者)を頂点として縦型のチーム体制が組成され、商流に沿って主従関係が存在します。

このチーム体制の場合、制作物の責任が組織図上位に集中するため、上位の人の発言力が強くなります。そのため、従側の組織や人は、上位からのディレクションを受けて仕事が進行します。これでは、制作物のクオリティの限界=クリエイティブ・ディレクターの能力の限界になります。

クライアントと制作側の相互リスペクトが鍵に

僕自身も博報堂のクリエイティブ・ディレクター時代は垂直型のチーム組成が当たり前でした。

いつも手伝ってくれているスタッフであれば、僕が何にこだわるか、何を心配するかを汲んで動くことができるため、リスクを抑えたスピーディなプロジェクト進行には向いていたと思います。

しかし、垂直型のチーム体制では、スピードや効率性、リスクマネジメントの優先順位が高く、表現の幅や可能性を追求するには限界があると感じていました。

一方で、近年のプロジェクトでは、水平分散型のチーム編成が増えています。この場合、各領域の制作担当会社(者)がクライアントと直接契約を結んで実現にコミットします。

制作チームは、受発注関係が生む主従関係でクリエイティブが進行するのではなく、全員で同じ価値軸と目指すゴールを共有することでクオリティが管理されます。

各社の横連携は、プロジェクトマネジメントを担当する会社が調整します。クライアント側は誰に幾ら払い、何を担当してもらうかという透明性が高まるため、信頼関係がより高まります。

このチーム体制を実現するためには、制作担当会社(者)が各領域において高いプロフェッショナル性を誇り、クライアントが制作担当会社(者)の考え方を尊重できることが条件になります。

クライアントと制作側とに互いのリスペクトが共存した時に、クライアント社内組織をも巻き込んだ水平型の制作チームの編成が可能になり、より高いアウトプットを目指すことができるのです。

水平分散型チームで臨んだ新規事業プロジェクト

この推進体制の有効性を実感したのは、紳士服大手AOKIのオーダースーツ新規事業「AOKI TOKYO」の立ち上げプロジェクトを進行した時のことです。

「AOKI TOKYO」は新規事業立ち上げのため、クライアントチームの部署も多岐に渡りました。担当事業本部はもちろん、経営企画、商品開発、デジタル、店舗開発、店舗運営などの組織からメンバーが集いました。

一方で、制作側のチーム編成は、ブランドデザインにニューヨークのクリエイティブ会社I&CO、店舗開発やリアルエクスペリエンスデザインに我が社、デジタルエクスペリエンスデザインにPARTY、プロジェクトマネジメントにDGマーケティングデザイン(現 Qoil)となりました。

僕ら制作チームはそれぞれに役割が明確にあり、それぞれ商流も個別なので、水平の関係を持ちながらプロジェクトは進行していきました。

制作のプロセスはクライアントと一体的に運用され、非常に活発な対話が毎週行われながら、意識や世界観をすり合わせていきます。

僕はこのプロジェクトを通じて、社外クリエイターがクライアント組織内に水平関係を持った状態で参加することで、事業やブランドの質を高く削り出すことができるということを実感しました。

「管理」ではなく「対話」が必要

水平分散型のチーム体制は、価値軸を全員で共有しながら進行していくため、多様な視点や意見を取り込みながらも民主的に物事を進行することができます。

特に、新しいブランドや事業の立ち上げには適していると感じます。日本のビジネスシーンでは受発注関係による主従が過度に作用することが多いですが、これはクライアントと制作チームとの関係だけではなく、制作チーム内の体制にも同様のことが言えると思っています。

制作チームを水平分散化させながらも機能するチームにするためには、チームを率いるクリエイティブ・ディレクターが自分のディレクションで全てを管理していくという意識から、コンセプトや目指す方向性をメンバーの共感を得られるまで対話し、メンバー全員の意識を同軸上に保てるマネジメントへと意識を変える必要があります。

このようなマネジメント力は、前回コラムで書いたファシリテーション能力と同様に、これからのクリエイティブ・ディレクターの大切な能力「プロデュース力」の一つだと思っています。

次回、最終回のテーマは、「プロデュース力をつけるために」です。

クリエイティブ・ディレクターがプロデュース力をつけるために、具体的に実践できることを話したいと思います。

こちらのコラム「クリエイティブ・ディレクターのプロデュース術」は、室井淳司のNoteで記事の背景やスピンアウト記事等も紹介していきます。
室井淳司のNoteはこちらから。