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コラム

クリエイティブ・ディレクターのプロデュース術

経営者と向き合うクリエイティブ・ディレクターの醍醐味

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より良いパートナーシップは時間の共有から

最後のコラムになりました。

このコラムでは、「プロデュース」とはクリエイティブ・ディレクターが事業やブランドを理想的な生態系に近づけるために、領域を横断してアクティビティをマネジメントすることの大切さを書いてきました。

広告・マーケテイング業界の方であれば、「プロデューサー=予算と工程の管理をする職」と認識されていると思いますが、このコラムにおけるプロデュースの主体はクリエイティブ・ディレクターです。

ここまでのコラムで書いてきたように、クリエイティブ・ディレクターがその能力を存分に発揮するためには、クライアントとの信頼関係が大切になってきます。

信頼関係は、友人同士の付き合いと同様に考え方や物事の判断基準、人間性を互いに良く知り、尊重することから生まれます。

もし、あなたがクリエイターに仕事を依頼するクライアント側の立場であれば、自分が仕事を任せているクリエイターと信頼関係を築けているか改めて考えてみてください。

自分たちの会社のこと、提案を判断する自分自身の価値観を共有できていますか?
オリエンシートや一般に公開してある情報程度の提示であれば、クリエイターや制作チームにとって働きやすい環境ではないかもしれません。

クリエイターがフラットに会話できる関係をつくるために、できるだけ多くの時間をクリエイターと共有してください。

もし、あなたがクライアントを持つクリエイターならば、制作をする上で最も大切なことはクライアントとの信頼関係であり、それを生むのは対話であるということを認識してください。

クライアントの期待に応えるために、会社の机で紙やパソコンと向き合う時間も大切ですが、その時間をクライアントとの対話にあててください。

質問項目を考えてクライアントと対話する、一緒に競合の商品や施設、サービスを体験して意見を交わす、食事に行って個人的な嗜好を伺う、自分が考えていることを伝えてフィードバックをもらうなど、良い提案はその時間から生まれてきます。

事業経験がクリエイターとしての成長につながる

僕が6年間講師を担当している宣伝会議のアートディレクター養成講座(ARTS)という授業があります。
主に、アートディレクターやクリエイティブ・ディレクターを目指す若手のクリエイターが参加するプログラムですが、毎回必ず以下の内容を伝えています。

「もし、あなたがクリエイターとしてもっと成長したいと思うなら、1年でも良いのでデザイン・クリエイティブ職から離れ、営業職を経験してみてください。

営業としてクライアントと対話をする姿勢を身につけてください。会社に帰って、デザイン・クリエイティブスタッフにクライアントが何を求めているかを正確に伝え、表現を管理する経験を積んでください。

その経験は“アートディレクター”に必要なスキルにつながります」と。

そして、「小さくても良いので自分で事業を経験してください。何百万円も投資をして商品やサービスを開発するという規模の話ではありません。例えば、自分が持っているモノ。本でもいいです。それをメルカリで売る。これだけでも事業です。

あなたはモノを仕入れるために初期投資をし、それをマーケットで販売します。メルカリではきっと同じ商品が並んでいます。なぜ、自分の商品が売れ残っているのか。商品自体にニーズがないのか。他よりも価格が高いのか。写真の撮り方が悪いのか。載せた文章が悪いのか。売り手としての自分の評価が低いのか。何が原因かを考えることでしょう。

あなたのクライアントは少なくともそれ以上のことを考えています。クリエイターが担う役割は解決すべき全体像のほんの一部でしかありません。全体像を把握することで、自分が担う一部分には何が必要なのか考えることができます。

自分で事業をするということは、事業会社の経営者が持つ課題を自分ごと化するための一歩です。デザインを依頼されてデザイン領域でしか返答ができない限りは、デザインの領域を超えてクライアントとの信頼関係へたどり着くことはできません」と。

経営者に頼られるクリエイティブ・ディレクターになるために

クリエイティブ・ディレクターにはさまざまな働き方や仕事像があります。

専門の領域で突き抜けたクリエイティブを目指す人、経営者の対面で働くことを目指す人、自分で事業主体になる人、どれが良いかという答えはありません。

もし、あなたが経営者の対面で働くクリエイターを目指すなら、自身の意思で別の領域に踏み込み、様々な領域のクリエイターと繋がり協働し、クライアントとの対話に重きをおき、実行に深く関与し、できるなら経営を実体験してほしいと思います。

経営者に近い場所で働くクリエイターの世界は、クリエイティビティを競い合うクリエイターの世界と比べると遥かに地味ですが、クライアントと一蓮托生した働き方はまた別の喜びがあると思います。

今回で室井淳司の「クリエイティブ・ディレクターのプロデュース術」は終わります。最後までお読みいただきありがとうございました。

読者の方々とどこかでお仕事をご一緒できることを楽しみにしています。
クリエイティブ・ディレクター 室井淳司