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コラム

お菓子だってDX! 店舗とECでシナジーを生み出す、BAKEが始めたOMO戦略とブランド開発

オンラインでの「顧客体験」をどう、デザインするか? OMOブランド開発におけるインハウスデザイナーの役割

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「アドタイ」読者の皆さん、こんにちは。BAKE INC.(以下、「BAKE」)でクリエイティブを担当している河西 宏尚です。この10月よりCreative Directorを拝命し、全社のクリエイティブを統括する立場となりました。

BAKEでは、10月に新ブランド「架空のパティスリー しろいし洋菓子店」の販売を開始しました。「しろいし洋菓子店」は当社の10年の歴史の中で初となるオンラインを基軸としたブランドです。本連載では、このブランドの開発に携わったメンバーがリレー形式でバトンをつなぎ、どのようにブランドを開発したのかを解説。さらに、私たちが現在進行形で取り組んでいる、製菓市場におけるOMOビジネスの可能性についても言及していきたいと思います。

読者の皆さんの中には、「製菓の会社にCreative Directorがいるの?」という感想を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。BAKEは製菓企業としては珍しく、社内にインハウスデザイナーを抱えています。2023年11月時点で私を含め、クリエイティブのチームには7名のメンバーがいて、BAKEのクリエイティブ全般に対応しています。

私からは、BAKEではデザイナーがブランド開発とどう関わっていくのかを、10月に発表した新ブランド「架空のパティスリー しろいし洋菓子店」の事例を交えながらお伝えしていきます。

「おいしさの次に、デザインが大事」BAKEのクリエイティブ

「おいしさの次に、デザインが大事」

これはBAKEが創業時から大切にしてきた考え方のひとつです。おいしさを引き出すことはもちろん、クリエイティブにBAKEらしさをこめています。

そこで新ブランドを立ち上げる際には、必ずひとりクリエイティブ担当がつき、Art Directorという役割で関わります。コンセプトの設計、ロゴの制作からお菓子の箱やショッパー(ブランドの紙袋)、さらには店舗に掲示するポスターや価格表のような印刷物のデザインまで、ありとあらゆるクリエイティブを担当します。

BAKEも10周年を迎え、ブランド立ち上げ時に担当したデザイナーと現担当が違うということも増えましたが、ブランドの根幹としているところを大切にしながら、どれだけ冒険・チャレンジできるかを大切にしています。とはいえ、ビジネス的な要素も大切です。いくらかっこいいデザインでもお客さまにおいしさが伝わらなければ、お客さまにとって魅力的に見えなければ意味がない。そのバランスを取って良い提案をするのがデザイナーの役目だと思っています。

これまでの事例をいくつかご紹介したいと思います。

創業以来、BAKEは専門店業態で店舗展開をしてきましたが、コロナ禍で経営方針を変更し、BAKEの複数ブランドをまとめて販売する新業態「BAKE the SHOP」を立ち上げました。BAKE the SHOPには、店舗をショーケースに見立て、季節に合わせ、その時々の旬のアイテムを展示するというコンセプトがありました。キービジュアルもそのコンセプトにあわせて、まるでファッション店のショーケースのように仕上げました。

写真 商品 キービジュアル

時には私たちインハウスのクリエイティブチームのメンバーが、外部のクリエイターさんとのコラボを提案することもあります。昨年、BAKE CHEESE TARTで「焼きたてクアトロチーズタルト」という商品を販売したのですが、この商品では外部のクリエイターさんとコラボしています。

「PRESS BUTTER SAND」のプレミアムラインとして誕生した「プレスバターサンドギャラリー」の「バターサンド〈チーズ〉」という人気商品があるのですが、「焼きたてクアトロチーズタルト」は「バターサンド〈チーズ〉」に使用しているチーズクッキーの生地をタルトカップ部分に使用した商品で、ブランドの垣根を超えたコラボという、BAKEとしても新たなチャレンジとなる特別な商品でした。

そのため、お客さまに興味を持っていただけるよう、イラストレーターのunpisさんにお願いし「チーズ」と「プレス」をキーワードにしたイラストを描いていただきました。この期間、タルトを入れる箱やショッパー(ブランドの紙袋)はunpisさんの限定パッケージで提供しました。


写真 タルトを入れる箱やショッパー(ブランドの紙袋)

このように一見お菓子屋さんのクリエイティブに見えないような、でもおいしさが伝わる、興味を搔き立てるようなクリエイティブを追求しています。

クリエイティブの力で「ブランド体験」を設計する方法

さて、話を新ブランドの「しろいし洋菓子店」に戻します。これまでの連載で言及している通り、BAKEでは初めてのオンラインを基軸としたブランドになります。

ブランドづくりの流れという点ではこれまでのブランドと大きな違いはないものの、オンラインでは製造の臨場感や焼成中の香りなどを店舗で体験できないため、その代わりに画像や動画などでブランドの世界観を体験していただけるよう、見た目での伝わりやすさを意識しました。商品写真も住人の生活をイメージできるようなシーンカットが多く、普段のBAKEよりも具象的な表現をしています。


写真 商品

「しろいし洋菓子店」のコンセプトは『北海道の素材にこだわった、アートなお菓子作りにひとびとが「うつつをぬかす」洋菓子店』です。作り手の私たちがお菓子づくり・ブランドづくりを楽しむ姿勢はもちろん、商品を手にとってくださったお客さまが、ぐっとこちらの世界に引き込まれるような没入感の提供を目指しています。

今回のブランドでは「没入」「イマーシブ」というコンセプトが最初に決まったため、その表現方法について考えていくこととなりました。その中で「しろいし洋菓子店」担当のArt Directorが出したアイディアのひとつに「渦巻き模様」がありました。「遠近感」と「連続性」が感じられる渦巻き模様は没入感を表すのに適した表現であると感じ、「しろいし洋菓子店」ではこの形で没入感を表現していくことにしました。

こうして、ブランドロゴやパッケージなどを渦巻きの形をベースにデザインを開始したのですが、今回クリエイティブチームからはもう一歩踏み込んだ提案をしました。

お菓子の形とクッキー缶のグラフィックが連動しているとより強いブランド表現ができ、缶を開けた時の驚きやワクワク感を高められるのではないか、それがお客さまのブランド体験価値を向上させるのではないかと思い、クッキーの形についても渦巻き型にできないかと提案したのです。

お菓子の形をデザイナーがデザインするというのはBAKEの歴史でも初めてだったと思います。商品開発担当も意図を汲み取ってくれて、綺麗な渦巻き型となるクッキー、さらには渦巻き型のパウンドケーキが完成しました。


写真 商品 綺麗な渦巻き型となるクッキー、パウンドケーキ

フォントは「しろいし洋菓子店」の持つ手作り感と、ちょっと不思議な世界観を表現するため、一見クラシカルな印象を持たせながら、あえて細部にうねりやにじみのクセを感じるフォントを採用しています。

日本語のフォントは『鳥獣戯画』で描かれている小動物の姿にインスパイアされて作られた「貂明朝(てんみんちょう)」というフォントが元になっています。「貂(てん)」というのは、北海道に生息している小動物。「しろいし洋菓子店」の商品は、北海道の素材にこだわり、また北海道の工場で作られているので、そこも関連性を感じ採用に至りました。


ロゴ 「しろいし洋菓子店」

ブランドサイトについても没入できるような工夫をしました。まずアクセスすると「マンション・インディゴ」のオーナーの飼い猫のアズーリがお出迎えし、各ページへ誘導してくれます。


イメージ ブランドサイト 飼い猫のアズーリ

訪れた人が「マンション・インディゴ」の世界に入り込めるよう、下から上へとページをスクロールすることで、


イメージ ブランドサイト 「マンション・インディゴ」の世界

マンションの1階部分に近寄っていくことができます。


イメージ ブランドサイト マンションの1階部分

マンションの中に入ると、「しろいし洋菓子店」や住人たちが一覧で並び


イメージ ブランドサイト 「しろいし洋菓子店」や住人たち

「しろいし洋菓子店」の店内や


イメージ ブランドサイト 「しろいし洋菓子店」の店内

住人たちの部屋を訪れたような感覚を得られるようになっています。


イメージ ブランドサイト 住人たちの部屋

社内の想いが分かるから、インハウスデザイナーだからできること

ひとつのブランドを作る、というのは非常に大変な作業です。社内外の多くの人が議論、思考錯誤を重ねて、長い時間をかけてできあがっていくものだからです。

私たちはインハウスデザイナーだからこそ、会社の方針がわかります。今、会社がこのブランドを作った背景がわかります。また、ブランドの責任者の想いや他部署でブランドに関わっている人の想いもわかります。それらをうまく組み合わせて、そしてそこにBAKEらしさ、かっこよさも加えて、ステークホルダーのみなさまにうまく伝えていくことが私たちの役割です。

「おいしさの次に、デザインが大事」

この言葉を大切にしているBAKEだからこそできる表現をこれからも追及していきたいと思います。

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BAKE クリエイティブ部 部長 Creative Director 河西宏尚氏

BAKE
クリエイティブ部 部長
Creative Director
河西宏尚氏