前例のない商品の価格ってどう設定する? スタートアップ経営者が考えた、価値と価格の関係性

D2Cのジュエリーブランドから事業をスタートさせた私の経験をもとに、これからの時代に求められる「価値」についての考えをご紹介する、本コラムも3回目になりました。

連載1回目では、会社員をしながら兼業でInstagramで無店舗でも高価格帯の商品の販売を始めた方法、コンセプト設計について触れました。2回目はラグジュアリー業界において「価値とはどうあるべきなのか」の私なりの考察、さらに考察をもとにした「価値を最大化させるために実施したWeb3.0を用いた価値づくりのチャレンジ」について解説しました。3回目となる今回は、これからの時代に求められる、企業と個人の価値の作り方について触れていきたいと思います。

私が現在手掛けているビジネスの一つは、モアサナイトという人工で生成された石を使ったジュエリーブランドです。もともと宝飾の人間ではなく異業種からの参入であるため、客観的な視点でラグジュアリー業界のひとつである宝飾の世界を見て、排他的で意外にあいまいで大きな変化が起こりにくい特殊な業界だと感じています。同じく、似たようなケースの業界も様々あるかと思いますが、ラグジュアリー業界の動向は他の業界にも共通する点が多いかもしれません。

これまでの消費者にとっての価値とは、ネームバリューと原価計算により決まるところがありました。ですが今は、その価値とは企業側が決められるものではなく、生活者の動きを始め、社会環境の変化に大きく委ねられるようになっています。加えて、一人ひとりの価値観が多様化する中で、求められる価値も当然、多様化しています。ますます、企業が顧客価値を設計するのが困難になっているのが現状ではないでしょうか。

ラグジュアリー業界と価値観の多様性

ここ数年、ラグジュアリー業界では合成宝石市場が注目を集めています。私が扱うモアサナイトはまさしく、宝石に求められる価値が多様化していることを象徴する存在です。モアサナイトはダイヤモンドに匹敵する輝きを持つ人工宝石の一種です。従来の価値観では、ダイヤモンドこそが最高峰の宝石とされてきましたが、モアサナイトの登場は宝石に対する価値観に変化をもたらしました。新しい価値観がジュエリー選びに影響を与え始めているのです。

猛スピードで変わりゆく価値の変化

従来の価値観では、宝石はその希少性によって価値が決まっています。そして「宝石といえばダイヤモンド」というように、画一的な価値観がありました。ダイヤモンドは採掘量・供給量がコントロールされているため希少性を高くすることでその地位を確立していたのです。

しかし近年では、ジュエリーの選び方に変化が現れはじめ、個々の選択と多様性が何より尊重されるべきという考え方が広まっています。環境問題や人権問題への意識の高まりから、倫理的な消費を重視する人が増えています。モアサナイトは人工宝石なので、採掘による環境破壊や人権侵害の問題がなく、また、価格的にも手に入れやすいという点が魅力で、合理的な判断をする消費者が若者を中心に広がっています。

特に婚約指輪によくある「給料三か月分」「立て爪」「プラチナ」といった、昔からの既成概念ではなく、自分自身の価値観に基づいてジュエリーを選びたい人からの支持が高く、ゴールドを選んだり、本当に欲しいデザインと石の大きさを重視する傾向にあります。

他の業界でも同様の動きはなります。たとえばブライダルの世界では最近、黒いウエディングドレスが人気だそうです。これも「ウエディングドレスといえば白」という従来の価値観が移り変わりつつある証といえるでしょう。

このように、あらゆる業界でますます価値の多様化が進んでいくはずです。物質的な価値だけでなく、精神的な価値、社会的な価値などがますます重要になっていき、特に個人の価値観、人によって何が価値のあるものなのかが大きく異なってきます。企業においては、このような価値観の変化に対応し、新しい価値を生み出すことが重要になることは間違えがありません。しかしラグジュアリー業界は変化への対応がスローだと感じます。既存のデザイン、既存のセオリー、ルールが存在するからこそ大きなイノベーションは起こりにくく、また変化を是としない傾向にあるためです。

そこで当社では、新しい価値をつくることを世の中にWOWとともにもたらすジュエリーを、モアサナイトで実現したいと考え、ジュエリーとテクノロジーを掛け合わせた、「ジュエルテック」という業界つくるチャレンジに取り組んでいます。

「JEWELTECH」 ジュエリー×テクノロジーの融合

モアサナイトは最先端技術を駆使して製造される、いわばテクノロジーの結晶です。宝飾が好きな一部の人たちだけが楽しむには非常にもったいない。いろいろな業界と組み合わせれば宝飾にある美しさと、宝飾が持ち合わせない何かとのコラボレーションで、もっと裾野が広がる可能性が多いにあります。

日常生活で輝くものを身に着けることが気軽で当たり前になる楽しみを、たくさんの人に届けたい。そのために「毎日が便利になるジュエリー」のプロジェクトを2023年より推し進めています。

「RIVERTRING」は現在、国際特許、意匠申請中。

そうした発想でつくった商品のひとつがICチップが入った、テクノロジーと掛け合わせたジュエリーであるスマートリングの「RIVETRING (リベリング)」です。ICチップが入っていない、シンプルにジュエリーとしてのリング、PHOTONもありますが、テックとの掛け合わせにこれからのジュエリー市場の進化があると考えています。

2023年10月に発表し、YouTube、Instagram(国内・海外)とLPを紐づけて一斉に広告を打ち、展開したところ、世界中の多くの方から反響をいただきYouTubeは1万回、Instagramは200万回の動画再生回数を4日間で突破しました。

高度な技術を用いて大きな石の塊からリングを削り出し、貴金属を一切使用せずに製作したもので、「オールモアサナイト・リング」は世界初だと自負しています。

しかし、発売に際して大きな課題となったのが、いったいこのプロダクトをいくらに設定するべきなのか、ということでした。価格設計をするにも前例がないことから、世界中からの問い合わせがあるにも関わらず決めきれないでいたのです。そこで、統計学を用いたデータアナリティクスという技術でこのリングの市場価値を算出することにしました。

統計学で価格のないものに価格をつける

価格のないものに価格をつけることは難しいですが、実は不可能はないことがわかりました。さまざまな方法を組み合わせることで、そのものの価値を測ることができるのです。主な方法としては3つあります。

• 代替案を考える : 類似する製品やサービスの価格を参考にする方法
• アンケート調査 : 顧客が製品やサービスにどのような価値を感じているのかを調査する方法
• オークション : 複数の潜在顧客から価格の提示を受け、最高額を支払った顧客に製品やサービスを販売する方法

例えば、最新技術を用いた新薬を開発するとします。どれくらいの価値があるもので、需要がどれくらいなのかも、価格もわかりません。しかしアンケートの数字を基にデータアナリティクスの手法を用いると、市場でのおおよそ販売価格を計算で出すことができるのだそうです。

知人の大学教授が「価格がないものに価格をつける」ということを研究している方で、兼ねてからブロックチェーンやNFTについて知見をお借りしていました。今回その教授にモアサナイトのスマートジュエリーの話をしたところ、「おもしろい!やってみよう」と言っていただき、その流れから幸運にもたくさんの方にご協力していただけることになったのです。その方法はたった7問のアンケートに回答いただくというもの。面白いポイントなのが、回答してもらう前に『どうしてこの新商品を作るに至ったのか?ストーリーや状況をしっかりと伝えること』が、何よりも大切だということでした。

つまり価値とは、『よりブランドを理解することで高まり、選択される』ということです。これこそが、新しい価値の創造で、これからの価値づくりに非常にマッチしている思いました。「ジュエリーをもっとおもしろく」が信条なのでとことんやってみよう となり、顧客様や、Instagram LIVEを通じ募集した約100名の方々にアンケート回答のご協力をいただけました。結果、どのくらいの適正価格があるのか?発表したいと思います

アンケートから算出された分析によると、ICチップが入った、スマートジュエリー「リベリング」は172万円の価値。そして、ICチップが入っていない、世界初のオールモアサナイト・ジュエリーPHOTONは146万円の価値 と算出されました。これはつまり、『この金額を出して買う人は必ずいる』という価値の証明です。RADIANNの技術力、モアサナイトのプロダクトの価値が数字として認識、評価いただけた喜びは大きいものでした。

一方で、私たちはぶれない軸として、たくさんの方に手の届くラグジュアリーをお届けしたいというミッションを抱いています。生産工程をさらにブラッシュアップし、たくさんの方に手に取っていただけやすい価格で販売ができるように尽力したいと思っています。スマートジュエリー、リベリングの開発、世界に向けて販売がスタートできるよう、企業のスタートアップ支援を呼び掛けています。

時代に取り残されないための価値をつくる

コラム2回目で記載した通り、モアサナイトには、唯一他の人工宝石にはないロマンがあります。約5万年前、宇宙から落下した隕石の中に輝く石から、人間が科学技術の粋を集めて生み出したのがモアサナイトです。ダイヤモンドは地球からの贈り物であり、モアサナイトは宇宙からの贈り物。大切なのは、何かと比べるのではなく、その背景やストーリーを理解すること、そして自分がどのような価値観を持ち、どのようなに選択したいのか自分自信にとっての価値の本質を感じるということです。

3回にわたり、価値の多様性の広がりについて触れてきましたが、それは今まさしく、社会の変化とともに、価値観がものすごい勢いで多様化していくと感じるからです。長い歴史の既成概念に浸かり変化がないままの業界は、技術の進化にあっというまに取り残されていくはずです。ジュエルテックの構想は、今ある課題に向かって、すでにあるものを取り入れて新しいアイデアを生み出すアナロジー思考を取り入れたことから始まります。次なるステップは、日本の最新半導体技術をいち早く取り入れMade in Japanの美とテクノロジーが融合したプロダクトを、世界へ向けて展開していくために、新しい業界や日本企業様との関わり合いを密にしていくことです。

時代に取り残されないために今企業や個人がすべきことは、世の中のルールに惑わされず自分自身の価値観に基づいて、現状を問いつづけることではないでしょうか。「アドタイ」のコラム連載という、貴重な機会をいただけたことに感謝申し上げます。

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稲本あや(R4 代表取締役)
稲本あや(R4 代表取締役)

幼少期よりアメリカ、アルゼンチン、インドネシアと海外で育つ。大手メーカー海外営業部・Webマーケティング部勤務の後、外資系宝飾時計ブランド経営企画部に従事。
日系大手食品メーカーマーケティング部で勤務しながら「手の届くラグジュアリー」をコンセプトにInstagramのみで100%集客、Webサイトのみで販売をする無店舗販売のスタイルで事業を開始。
2017年にスワロフスキーブライダルアクセサリーブランドを、2018 年に人工合成石「モアサナイト」を使用した18金、プラチナのジュエリー「ラディアン」を設立し、2021年に独立。2023年にはデジタルとフィジカルを繋いだ世界初のNFTジュエリーを発表。宝飾の分野から業界を超え、モアサナイトを正しく普及していくことを目指す。

稲本あや(R4 代表取締役)

幼少期よりアメリカ、アルゼンチン、インドネシアと海外で育つ。大手メーカー海外営業部・Webマーケティング部勤務の後、外資系宝飾時計ブランド経営企画部に従事。
日系大手食品メーカーマーケティング部で勤務しながら「手の届くラグジュアリー」をコンセプトにInstagramのみで100%集客、Webサイトのみで販売をする無店舗販売のスタイルで事業を開始。
2017年にスワロフスキーブライダルアクセサリーブランドを、2018 年に人工合成石「モアサナイト」を使用した18金、プラチナのジュエリー「ラディアン」を設立し、2021年に独立。2023年にはデジタルとフィジカルを繋いだ世界初のNFTジュエリーを発表。宝飾の分野から業界を超え、モアサナイトを正しく普及していくことを目指す。

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