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コラム

D2Cブランドの立ち上げから考えた、これからの「価値」のつくり方

人工合成石「モアサナイト」ジュエリーのD2Cブランド立ち上げで考えた、「価値」ってどうつくれるの?

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連載1回目では私がInstagramで物販を始めたきっかけ、はじめ方、コンセプト設計について触れました。

連載内で「ジュエリーという商材はSNSと相性がいい」とお伝えしました。確かに、当初の「ブライダルアクセサリー専門ブランド」はInstagram発のD2Cブランドとして、事業を成長させることができました。

私は次なる挑戦として5年前に日本では、まだあまり知られていなかった人工合成石の「モアサナイト」を使ったジュエリーブランドを立ち上げました。デザインの魅力だけでなく「モアサナイト」という石の価値を、オンラインのビジネスでどこまで伝えることができるのか。今、試行錯誤を重ねています。

日本でモアサナイトの認知度があまり無いなか、どの様に他のモアサナイトジュエリーと差別化し、ブランディングするのか?はじめは失敗することも多くありました。そんな現在進行形の私の取り組みを含め2回目は「価値とはどうあるべきなのか」「価値を最大化させるために何をしたのか」をつづりたいと思います。

「あなたが売っているから価値がある」ブランド名なんて、なくてもいい?

モアサナイトジュエリーのパイオニアとしての5年間、たくさんの方々と関わりを持ち、その中で自分としても熱意をもって製作に取り組むことができました。私がそんな熱意を持ち続けられるのは【モアサナイトがロマンあふれる素晴らしい石だから】ということに尽きます。

そもそも「モアサナイトとは何か?名前を聞いたこともない」「名前は聞いたことがあるが詳しくは知らない」という方は多いと思います。

モアサナイトとは、人工的にラボで作られた人口合成石のひとつです。人工的につくられる輝く石は種類が数多くあります。キュービックジルコニア、スワロフスキー、ラボグロウンダイヤモンドなど、中には名前を聞いたことのある石もあるかもしれません。

それぞれの人口石に特徴がありますが、私が取り扱うモアサナイトは約5万年前、アメリカのアリゾナ州に墜落した隕石の中の鉱物として発見された宇宙生まれの石です。発見したのはフランス人科学者のアンリ・モアッサン、その名前からモアサナイトと名付けられました。発見から約100年後に、アメリカの研究チームが人工的にモアサナイトを製造しました。

モアサナイトは欧米では認知度が高く、すでに何年も前からエンゲージリングとしても人気で、その地位を確立しています。ですが、事業を始めた5年前は日本ではほとんど知られていませんでした。私が「モアサナイトが素晴らしい」「ロマンあふれる素敵な石」と言うのは、価格や安定供給が可能であることやエシカルであること以上に「宇宙からやってきた」という他の合成石にはないストーリーがあるからです。

私も初めてその存在を知った際に「そんな、素敵な石があったとは…」と感激し、すぐさま世界中の工場から石を取り寄せました。それらはどれも製造者が「最高級品質です」の謳い文句とともに販売されているものでしたが、残念ながら中にはガラクタのような出来のもの、玩具やごみのようなものもあれば、一見綺麗に見えるけどファイア(反射)が強かったり、曇ってみえるものも多くありました。人がつくるものだからこそ、製造工程や技術力で天と地ほどの差があることを消費者としても知り、驚きました。かなりの時間をかけて技術力の結晶といえる素晴らしいモアサナイトにたどり着きましが、ここまで複数のモアサナイトを比較したのは、日本では私だけだと自負しています。

世界中から石を集めるところから始め、ジュエリーにして販売するようになったのですが、石自体の認知度が全くないころは、どうしても「ダイヤモンドと比べる」説明をせざるを得ませんでした。自社の石に自信があったこともあり「えっ、これ、ダイヤモンドじゃないの?」をキャッチコピーにスタートしました。セールスは順調に伸びていきましたが、ある日お客さまから「これ、あやさんのアカウントですか?」という不思議な問い合わせが相次いで来るように。折しも私が手掛ける「RADIANN」ではジュエリーブランドとしての格調を高めるためにロゴデザインを一新し、商標登録を済ませたタイミングでした。

お客さまの話をよく聞いてみると「モアサナイトジュエリー ラディアン」に一字付けただけの似た店名のお店が、旧ロゴと似たロゴで出現しモアサナイトの販売を始めていることがわかりました。さらに先行してビジネスを始めていた私たちに対し、商標登録の取り下げを請求してくるという非常にショッキングな出来事が起こりました。商標は、いかなる理由があろうとも「先に出した人が勝ち」です。商標を確保する、という経営者として当たり前の判断が遅れた自分を悔やみ「大事にしていたブランド名を手放さなければならないかもしれない」という悔しさと悲しさで眠れない夜が続きました。何人もの経営者の諸先輩方に相談し、答えが出ず苦しんでいたある日、目が覚めるような一言を言われました。

「そのジュエリーはブランドに価値があるんじゃない。あなたが売っているから価値があるんだ。生産者の顔を見せるんだからもっと自分が前に出ればいい。ブランド名なんかなくていい」と。

それまでの4年間、「商品に自信があるから」と顔出しを一切せずにInstagramでジュエリーを販売してきた中でこれまでは価値は商品にあり、情報にこそ価値があると考えてきましたが、価値を最大化させるためには価値をつくる「人」が不可欠であると気づいた瞬間でした。

写真 商品・製品 R4 モアサナイト アクセサリー

さらに時を同じくして、ステイホームで自粛生活を強いられ、SNS利用者が急増するとともにクオリティが高くない石を販売する悪質なショップが急増、相談に来られる方が激増し、腱鞘炎になるほど日々相談の返信をしていました。Googleでモアサナイトを検索すると「詐欺」「偽物」という悲しいキーワードが増え、悔しい気持ちでいっぱいの日々に追われました。

こんな状況をどうにかしたい、この素晴らしい石を正しく日本に広めたい、そんな想いをたくさんの人に相談したのですが、価値の基準が確立されていないものにどうしたら価値をつけることができるのか?という次の課題に直面しました。

ダイヤモンドのような世界基準がない石にどう価値をつけるのか?証明書の意味とは?

日本人は証明書や認定書が大好きなため、よく鑑別書の有無についての問い合わせをいただきます。これも一種の価値の定義づけです。ダイヤモンドは、世界的に統一されたGIAという機関の基準で一つひとつの固体にグレーディングがなされ、鑑定書の発行が認められています。グレーディングレポートと呼ばれ、その石の品質評価が記載されるもので、ダイヤモンドに対してのみ発行されるものです。

ちなみに「鑑定書」という言葉はダイヤモンドにしか使えないものであり、ダイヤモンド以外の石に関しては「鑑別書」という別の定義の証明書になります。さらに興味深いことに、真珠やモアサナイトも証明書に当たるものを発行していますが、これは各民間機関や企業が独自の基準で発行しているもので、その評価は世界基準ではなく、一律ではないのです。歴史ある真珠の世界ですら、独自基準による評価で証明書が発行されているという事実もまた、モアサナイトの価値の作り方について考えさせられる宝飾業界の知られざる常識でした。

世界的な評価基準が定まっていないからこそ、製造する工場によって「自称最高品質」に差が出るこのモアサナイトの証明書を自社で発行することに、果たして意味があるのだろうか?と意義を見出せずにいました。

価値づくりのチャレンジ、ブロックチェーンに挑戦してみた

そこで、このジュエリーを持つことが誇りになる、自信につながる、選択したことに意味を感じてもらうための証明書にするべく、どうすればいいのかを模索していました。時を同じくして、アクセサリー事業でWeb3.0のプロジェクトを進めていました。

モノづくりを進める中、クリエイターに利益が還元されていくNFTの仕組みが素晴らしいと感じ、デジタルだけではなくフィジカルにも応用ができればと現物の宝飾品にNFTを実装するNFTジュエリーをスタートさせたところでした。

NFTジュエリーであれば、「不正や改ざんの防止」、「所有者の特定」、「発行元の追跡」ができるブロックチェーン技術により本物の証明が可能です。ジュエリーの証明書として、紙の印刷物を発行することは保証書としては意味があることですが、単なる石の評価を証明するのではなく、真贋証明書をブロックチェーンの技術を用いて発行することを実現しました。

ブロックチェーン上に所有者が書き込まれ、改ざんすることができないこの技術はロレックス、ルイヴィトン、グッチなどのハイブランドが真贋証明や保証書に付帯するサービスとして世界中で浸透しつつあります。ジュエリーでも近く採用されていく手法や、新しい価値の示し方をモアサナイトから始めることで、宝飾業界をもっとおもしろくするきっかけを創りたいと考えています。

ちなみに前述のRADIANNの商標問題は、その後、無事に非類似性が認められブランド名は継続して所有することが叶いました。災い転じて福となし、この件をきっかけにたくさんの方から「モアサナイトはどれも同じだと思っていたけどそうじゃなかったと知りました」というお声をいただけるようになりました。そして現代の価値のつくり方、伝え方を強く考えさせられることになり、ここに賛同してくださった多くの方のご協力をもとに壮大なプロジェクトをスタートすることになりました。情熱を注いだ結果、これまでの当ブランドのジュエリーにはない、新たな魅力を兼ね備えた新作になると自負しています。

次回コラムでは、これまでのモアサナイトをアップデートし次のステージにアップグレードさせた当ブランドの新たな挑戦をご報告させていただきたいと思います。

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