はじめまして。芹澤と申します。2023年末に上梓した『戦略ごっこ―マーケティング“以前”の問題』(日経BP)は2万部以上を売り上げ、多くの企業、マーケティング部署で読まれていると聞いています。著者として大変光栄なことです。
さて、読者の方とお話ししていると、しばしば「どのようにしてこうした着想・視点にたどり着いたのか」「日々どのようなインプットをしていて、どこからこういうエビデンスを見つけてくるのか」という質問を受けることがあります。
なぜ先行研究×実証研究が大事なのか?
これに関しては、私が大事にしている習慣の1つに「先行研究」あります。マーケティングが科学的であろうとするならば、やはり、これまでの先人が積み重ねてきた知見をしっかり理解することがスタート地点になるかと思います。何についてどこまで分かっているのか。逆にどこからは分かっていないのか。どのような課題に取り組むにしろ、まずはその境界線をはっきりさせることが必要です。
次に、そうした先行研究の結果が現在の日本市場にも当てはまるのか、改めてデータを取って確認してみることも同等に大切です。つまり再現研究ですね。そうした積み重ねの中で、いわゆる“定石”や“通説”と言われているような理論やフレームワークでも一般的に有効とは言えない、あるいは場合分けや使い分けが必要なものもが結構あるということが分かってきました。それをまとめたのが『戦略ごっこ』であり、それに続く実証研究です。
私の着想にユニークな部分があるとすれば、詰まるところ、この「先行研究 × 再現研究」という掛け算に拠るところが大きいのではないかと思います。実際、私が主幹研究員として所属する「日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)」でも、この先行研究⇄実証研究というサイクルを通して、再現性のあるエビデンスを探索、検証しています。
理論と実践の架け橋となるべく設立された「日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)」
「根拠のあるマーケティング」をけん引、啓蒙することを目的に設立されたマーケティングエビデンス研究の専門機関。事業会社や小売店のCMO、アカデミア、広告代理店、データサプライヤー等が集まり、先行研究と実証研究を通して、日本の市場特性を踏まえた実践的なエビデンスを探索し、実務家に知見を還元する。代表理事に三井住友海上火災保険の木田浩理CMO、アカデミックアドバイザーに中央大学の田中洋名誉教授。
参考
しかし常に多忙な実務家のみなさんが、ご自身でこの掛け算を成り立たせるとなると、少々ハードルが高いのかもしれません。特に私が読むのは海外のジャーナルなので基本英語ですし、数学や統計モデルなども出てきます。いわゆる市販のマーケ本などと比べると、「この研究成果をブランド戦略にどう生かすのかについて、もう1歩踏み込んだ示唆が欲しい」という読後感になることも多いです(研究者は必ずしも実務家の役に立つことで評価されるわけではないので…)。