広告は差別性か独自性か? 芹澤さんと読み解く「広告の役割」とは

AdverTimes.と日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)による「マーケティング論文輪読会」第2回が5月7日に開催されました。今回取り上げたのは、南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所の創設メンバーであるアンドリュー・アレンバーグ教授らによる論文『Brand Advertising As Creative Publicity』。書籍『戦略ごっこ』(日経BP)著者でありEBMI研究主幹の芹澤連さんをホストに、パネリストには前回に続いてヤッホーブルーイングの仮屋光馬さん、博報堂の福永良太さんが参加し、広告の役割や考え方について議論を深めました。(編集部)

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「説得」する前に「パブリシティ」が必要

今回の輪読会では、主に次の3点について議論し、新たな視点を得ることを目指した。1つ目は、従来「説得」が主機能とされてきた広告について論文が提示する別の目的とは何か。2つ目は、なぜ論文では「差別性よりも独自性」を重視するのか、逆にどのような場面であれば差別性が効くのか。3つ目は、広告においてセイリエンス(顕著性)を高めるにはどうすればよいのか。

本日のアジェンダ

最初に投じられたテーマは、論文では『パブリシティ』『説得』『セイリエンス』という3つの重要な概念が提示されているが、それぞれを自分の言葉で再定義するとどうなるか、というもの。

仮屋さんは、「パブリシティ」とは何かを知らせること、「説得」とは広告と接触した人に具体的な行動変容や態度変容を促すこと、「セイリエンス」とは記憶や心、頭の中における、ブランドの存在感の高さであると定義した。

福永さんも仮屋さんに概ね同意した上で、「パブリシティ」については、情報を伝達するだけでなく、既知の情報のリマインドのような機能も持つと定義。「説得」については、より強い説得は主張するだけでなく目的を明示することも伴うと補足した。また「セイリエンス」は、購入場面で特定のブランドが想起される経路や強度であると定義づけた。

芹澤さんは2人の定義に賛同しつつ、この論文では「パブリシティ」と「説得」は一種の対立構造になっていることに言及。広告制作の現場では、消費者が能動的に広告を見てくれる、深く理解してくれることを前提に見せ方やストーリーを考えがちだが、現実は異なり、そもそも消費者に気づいてもらうことから始めないといけない、と指摘。論文では前者を『説得』、後者を『パブリシティ』として、広告にはパブリシティの役割を持たせることの方が重要ではないかと主張している。広告制作の前提を刷新してくれるという意味で画期的な内容である、と整理した。

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芹澤 連(日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)研究主幹/コレクシア執行役員)
芹澤 連(日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)研究主幹/コレクシア執行役員)

マーケティングサイエンティスト。数学/統計学などの理系アプローチと、心理学/文化人類学などの文系アプローチに幅広く精通。非購買層やノンユーザー理解の第一人者として、消費財を中心に、化粧品、自動車、金融、メディア、エンターテインメント、インフラ、D2Cなどの戦略領域に従事。エビデンスベースのコンサルティングで事業会社の市場拡大を支援する傍ら、執筆や講演活動も行っており、企業研修などの講師を務める。著書に『顧客体験マーケティング』(インプレス)、『“未”顧客理解:なぜ「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題 エビデンス思考で見極める「事業成長の分岐点」』(日経BP)。
日本マーケティング学会員。日経クロストレンドアドバイザリーボード。海外論文を読むのが日課。猫好き。

芹澤 連(日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)研究主幹/コレクシア執行役員)

マーケティングサイエンティスト。数学/統計学などの理系アプローチと、心理学/文化人類学などの文系アプローチに幅広く精通。非購買層やノンユーザー理解の第一人者として、消費財を中心に、化粧品、自動車、金融、メディア、エンターテインメント、インフラ、D2Cなどの戦略領域に従事。エビデンスベースのコンサルティングで事業会社の市場拡大を支援する傍ら、執筆や講演活動も行っており、企業研修などの講師を務める。著書に『顧客体験マーケティング』(インプレス)、『“未”顧客理解:なぜ「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題 エビデンス思考で見極める「事業成長の分岐点」』(日経BP)。
日本マーケティング学会員。日経クロストレンドアドバイザリーボード。海外論文を読むのが日課。猫好き。

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