マーケティングは天職
――マーケターになろうと思ったきっかけを教えてください。
人を喜ばせることが好きだったので、自然な流れでマーケティングをやりたいと思うようになりました。自分の手がけるブランドを通じ、顔も見たことのない多くの人を笑顔にできる、マーケティングは天職だと思っています。そんな最初の夢が実現したのは、新卒でユニ・チャームに入り3年目を迎えたときでした。
日本トップシェアのブランドを数多く抱える企業なので、マーケティング志望の社員は大勢います。他の社員と違いを出すため、自分自身にもマーケティングをしようと、社内のマネジメント研修に参加。3年目の私が10歳以上年上の先輩方と混じってトレーニングを受け、ビジネススクールにも通わせてもらいました。そうして、異動希望が叶ったんです。他者との違いを見せる、まさにマーケティングですよね。
ただ、これはあくまで通過点。やるなら志を高くと思い、次の夢を「CMOにおれはなる!」と決めました。漫画『ONE PIECE』の「海賊王におれはなる!」、あの有名なせりふのように。日本にもマーケティングヘッドのポジションはありますが、CMOを置く会社はそれほど多くないんです。実はCEOになるより難しいかもしれないですよね。
ドミノ・ピザ ジャパン
エグゼクティブバイスプレジデント チーフマーケティングオフィサー
坂下真実(さかした・まさみ)氏
1999年、青山学院大学法学部を卒業後、ユニ・チャームに入社。マーケターとしてのキャリアをスタート。日本コカ・コーラでは「ジョージア」や「爽健美茶」などのブランドマネージャーを務め、日本マクドナルドではマーケティング部長として「サムライマック」「ダブチ」などのヒット商品を生んだ。資生堂、ゴンチャ ジャパンを経て、2024年9月より現職。
――日本コカ・コーラへの転職を決めた理由は?
ブランディングを学びたかったからです。実際、大変勉強になりました。例えば、私が在籍した2000年代後半、国内のミネラルウォーター市場は今より小さく、輸入製品が優位な状況でした。そこへ、日本コカ・コーラは「環境」という、まったく新しい切り口で商品を開発。国産ミネラルウォーターブランドのパイオニアとして、一気にシェアを獲得し、市場全体の底上げに成功しました。周囲の成功に刺激を受けて、担当するジョージアでもコーヒー通をターゲットにした新商品で、10年ぶりの販売記録を確立。そうした成功体験を通じ、マーケティングの成功法則を磨くことができました。
人は自分にとって価値があるモノを買うのであって、いいモノがあるから買うわけではない。そんな普遍的な事実を、当時の体験から自分ゴトとして理解、実践できるようになりました。マーケターがやるべきは、企業が売りたい「モノ」を“提供”するのではなく、お客さまを主役として体験したくなる「モノガタリ」の“提案”をすること。大切なのは買った、食べたなどの“記録”ではなく、誰かと一緒に楽しんだという“記憶”や“思い出”をつくること。私が提唱する「モノガタリマーケティング」の理論は、この時の学びが基になっています。