効果的なマーケティングを行うためにデジタルの利用は欠かせない。新しいブランドの立ち上げや、サードパーティーCookie廃止に伴う広告効果の検証にはどのようにデジタルを活用すればよいのだろうか。
本記事は2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬」から、注目セミナーをレポート。MOONRAKERS(ムーンレイカーズ)の西田 誠氏、MMOL Holdingsの河野 貴伸氏はテクノロジーを活用した顧客視点の新事業を、大広の石橋 太朗氏、久野 祐介氏、ドコモの小熊 佳子氏はデータクリーンルームの活用と広告戦略について紹介した。
クラウドファンディングは顧客の声を拾える
MOONRAKERSは「先端素材による未来のファッション」の創造を目指す東レ発のスピンオフプロジェクトである。MMOL HoldingsはAIを活用したブランディング・マーケティングの事業支援を行っている。
MOONRAKERSの西田氏によると、日本の先端素材は世界最高レベルであるにも関わらず、既存のアパレルは価格重視の傾向から採用が進みにくう傾向にあると言う。そこで西田氏は、素材メーカーでありながら最終製品を製造し、ユーザーにダイレクトに販売しようと思い立つ。製品の在庫リスクはクラウドファンディングの受注販売システムを活用し軽減、在庫リスクのない形で新商品を次々と連続ローンチさせた。クラウドファンディングでの販売によるメリットは2つあった。1つは、クラウドファンディングの売上は透明な状態で確認できるということ。売上が伸びると、先端素材が売れる商材だと既存のアパレルも気づく。現在では有名ブランドとのコラボ商品も続々と生まれ、初年度は8千万円だった売上が翌年には2億円を超える水準まで急増した。もう1つは、直接顧客の声を獲得できたことだ。「服をもっと快適にしてほしい」「便利にしてほしい」「タフにしてほしい」といった声が拾えたという。西田氏は、「ユーザーの声を集約すると、“わたしたちは服にも進化してほしい”ということだと感じた」と語る。それらの声から、「ムーンテック®」「アルティマフレックス®」「カミフ®」などのヒット商品が次々と誕生した。
西田氏は今後の方針を「今後も継続的に、ユーザーの声を元に新素材を高速で開発する。志を同じくするあらゆる方々とのコラボレーションを強力に推進する。そして、日本のみならず海外にも積極的に拡大する。一般的なスタートアップと異なり、東レという大企業発のベンチャーであるMOONRAKERSには、すでにその能力がある」と話した。
新プロジェクトの認知を上げるために
河野氏が「ブランドの認知度ゼロからどうやって認知度を上げたのか」と質問。西田氏は「先端素材という特殊な商品だったため、ユーザーにその魅力が伝わるよう、リアルな面談での商品説明を繰り返し、ECでの販売でも肉厚な説明を徹底し、卸売りは行わず、他社に頼らない自分たち自身での販売にこだわった。作り手の思い、熱量を薄めないことに注力した結果、その熱量が直接伝わり、作り手の思いが次のユーザーにも自然に波及した。「目の前の一人一人に正確に理解してもらうことで、熱量が減ることなく次へ次へと伝わったと思います」と西田氏は話す。
河野氏が「MOONRAKERSにとってマーケティングとは?」と聞くと、西田氏は「ユーザーとどうつながるか」と回答。「便利なマーケティングのツールは増えているが、商品特性に合わないツールを使うと商品自体が陳腐なものに映ってしまう。弊社のような唯一無二のプロダクトを展開する事業者は、それによって提供される濃密な体験をどれだけ薄めずに伝えられるかがポイントだ」と強調する。
さらに「MOONRAKERSにとってのテクノロジーとは?」という質問に対し、「MOONRAKERSという事業はテクノロジーが根幹。モノづくりにおける先端素材というテクノロジーだけでなく、販売面や物流面もテクノロジー。マクアケ、ショッピファイといった近年生まれたテクノロジープラットフォーマーの活用によってビジネスを拡大した。今後もMOONRAKERSはテクノロジーの発展とともに事業を進めていく」と答えた。
最後に河野氏が「人間がやるべきことはお客さんとコミュニケーションを取ること。それ以外はテクノロジーを利用して省力化すべきだ」とまとめた。
「実データ活用で変わる広告検証と戦略設計」 テレビCMからアプリ継続利用まで可視化する新手法
新規ブランドの立ち上げや広告効果の検証に最適なマーケティングのデジタル化とは?効果的なマーケティングを行うためにデジタルの利用は欠かせない。新しいブランドの立ち上げや、サードパーティーCookie廃止に伴う広告効果の検証にはどのようにデジタルを活用すればよいのだろうか。
データクリーンルームとは
大広の石橋氏、久野氏、ドコモの小熊氏はデータクリーンルームを活用した広告効果の明確化と戦略への反映方法について説明した。
これまではトラッキング調査や購入時のアンケートを通じた効果検証が多かった。しかし、自社の定点調査結果と代理店の調査結果のズレや、若年層のサンプル確保の困難化、回答者のバイアスにより一定虚偽の回答が含まれるなどの問題があり、誤った広告評価をしてしまうリスクがある。そこで、さまざまなアクチュアルデータを掛け合わせる効果検証としてデータクリーンルームが注目されている。
データクリーンルームとは、各プラットフォームが保有するデータをプライバシーに配慮した上で分析利用できる環境だ。さまざまなチャネルや接点のデータを横断で集計し、広告主のビジネス成果を可視化できる。データクリーンルームで取り扱うデータは主に3種類で、プラットフォーマーデータ、パートナーデータ、広告主保有データがある。ドコモはキャリア由来の会員情報、アンケート、位置情報、決済情報、ID-POS情報、アプリ利用、関連コンテンツ、検索クエリ、dショッピング等を通して日々データを集約しており、約1億の会員データを保有している。「通信からサービスまで1つのIDでつながっている点が利点だと思います」と小熊氏。
データクリーンルームの活用例
続いて久野氏が活用例を紹介した。ロードサイド型の店舗の場合、遠方からの来店促進のテレビCMと看板の検証をそれぞれ行っているため、効果的なプロモーション戦略かどうかわからない。そこで、テレビCMのデータと基地局の位置情報を掛け合わせ、テレビCMの接触者のルートを可視化する。看板の効果を把握し、遠方からの集客に対し、看板設置位置の最適化が可能になる。
マンションデベロッパーの場合、新築マンションの認知と物件見学の予約を目的とした戦略を行っているが、効果検証は見学時のアンケート調査のみ。記憶に頼ったアンケート調査であること、広告接触から問い合わせまでの中間のジャーニーが把握できないこと、精緻な広告費の割り当てができないことが課題。そこで、屋外広告接触情報と検索クエリの情報を用いて、屋外広告接触者がマンションについて検索したかどうかを分析する。電車と駅サイネージの重複接触が最も検索に影響を与えることがわかれば、重複リーチを意識した媒体出稿に切り替えるようになる。
アプリ事業者の場合、テレビCMがアプリ起動に与えた影響を把握することができるが、その後継続的にアプリを利用するアクティブユーザーにつながったかどうか把握できていない。そこで、視聴データとアプリ起動データを用いて、どのクリエイティブに接触した人が最も残存率が高いかを解明することで、効果の高いクリエイティブを中心に出稿できるようになる。データクリーンルームの分析はさまざまなデータを掛け合わせることで利活用の幅が広がる。しかし、「企業ごとに必要なデータや分析方法は異なるため、一定のハードルがある」と久野氏は話す。
大広 執行役員 デジタルソリューション本部 本部長兼CDO石橋 太朗 氏
石橋氏は「データクリーンルームを活用してみたいと考えている企業に対し、PoCを募集しています」と締めくくった。

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