ユーザー行動の可視化が顧客体験(CX)向上のカギに。その具体的取り組みを紹介

顧客理解はビジネスを成長させるうえで重要な要素であり、テクノロジーの進化によって顧客に関するデータ分析も容易になった。だが、それらをしっかりと活用できているかは、別問題だ。
本記事は2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬 in 福岡」から、注目セミナーをレポート。JR九州の春野健二郎氏は多事業を展開するグループだからこそのデータ活用の取り組みを、ピンタレストの井上英樹氏はピンタレストアドだからこそ可能なマーケティング戦略を、具体事例を交えて紹介した。

デジタル人材と基盤整備が必要不可欠

1987年に国鉄分割民営化により発足したJR九州は、早期から不動産・ホテル経営などに取り組んでいる。現在では同社の営業収益のうち、鉄道サービスが占める割合は全体の39%、4割ほどとなっており、不動産・ホテルや流通、建設事業などのウエイトが非常に大きい。民営化当時は約300億円の赤字を計上していたが、さまざまな事業に挑戦を続ける中で成長し、黒字化を成し遂げ、2016年に株式上場を果たした。
上場後、JR九州として今後どんな成長戦略を描くのかという課題が浮上。より利益を出していくためには、デジタル技術を活用する必要があるとの結論に到達し、DXを推進することとなった。まず環境整備として人材育成と基盤の整備をベースとし、その上で「お客さま体験価値の向上」、「オペレーション・メンテナンス改革」、「働き方改革・生産性向上」という3つのテーマを打ち立てた。

写真 人物 JR九州の春野健二郎氏

まず、DXを進めるうえで「人材は一番重要」と認識し、社内公募によりデータ分析チームを構築。コーポレート部門にCoEと呼ばれるデータサイエンティストが3人配置されているが、営業部や運輸部、工務部といった、いわゆる事業部側にもデータ分析担当を配属。事業部の主幹データ分析担当とCoEが一緒にデータ分析に取り組んでいる。その理由について春野氏は「実際のビジネス課題というものは事業側にある。ビジネス課題を見つけて解決することで収益拡大・コスト削減に貢献するためには、事業部側をいかに巻き込むかが大きなポイント」と語る。
また、時間がかかっていたデータ分析をスムーズにするため、基盤の整備にも取り組んだ。オンプレミストからクラウドに移行したことで、6時間かかっていたデータ集計が2分で終わるようになるという劇的な変化が生まれた。そのため、気になることがあればすぐにデータ集計を行い、可視化できる環境が整ったことで、施策のPDCAもスピーディーにまわしやすくなったという。
「オペレーション・メンテナンス改革」の例として、列車運行における動画分析の取り組みを紹介した。列車の運行に必要な信号機が、成長の早い植物によって視認できなくなり運転業務に支障をきたすといった問題が頻発していたため、動画分析(パターンマッチング)により、信号機の状況を常に確認できる状況をつくることで問題を解決した。
「働き方改革・生産性向上」については、ウェブ会議などの環境をいち早く整えたり、内製化したアプリの使用などにより、業務を効率化している。線路にある落石の把握を、アプリを使用することで位置情報も同時取得するなど、これまで複数の作業が必要だった業務を効率化することに成功している。

CX向上に寄与するJRキューポアプリ

「お客さま体験価値の向上」については、「JRキューポ」を紹介。まず、各サービスで付与していたポイントを1つに統合し、顧客の買い回りを把握できるようにした。あわせて、ポイント機能に特化した「JRキューポアプリ」をリリースし、割引クーポンの送付や駅ビルでの利用開始などユーザーの利便性を拡張することで、取得できる顧客データを大幅に増加させた。
駅ビル側にとっても、単独アプリを開発するよりも、JR九州の顧客基盤を活用した方が、コストやユーザーの利便性の観点から効果的であると結論付け、LINEとJRキューポアプリとを連携。顧客とのコミュニケーションはLINEで行い、データ取得はJRキューポアプリで行うことで、顧客体験価値向上を果たしつつデータ取得が可能となっている。

写真 人物 JR九州の春野健二郎氏

一方で、鉄道予約のアプリ「JR九州アプリ」を2024年5月にリニューアル。ユーザーが「便利でお得」と感じられるよう変更したことで、より多くの顧客接点を生み出した。「九州アプリくじきっぷ」など、ゲーム性の高い割引きっぷを発売することで、収益の確保と同時に獲得が難しい若年層を中心とした新規会員を獲得。QRチケットレスサービスのリリースも、駅の混雑を解消したほか、CX向上、顧客データの取得にも役立っている。
認知度向上のために開発したキャラクター「キューポちゃん」も、ファンや新規顧客の獲得の一助に。イベントでのステッカー配布や駅でのピールオフ広告、ポップアップショップなどによって顧客接点を増加させた。「お客さま接点の多さ・多様さがJR九州グループの強み。お客さま接点を活用することで、収益を伸ばせる余地はまだまだある」と春野氏は語る。

データ活用により顧客解像度を高める

続いて春野氏は、取得した顧客データの活用事例を紹介した。駅ビルではまず会員情報や購入実績などの行動を可視化し、施策の効果検証やテナント面談、テナント表彰などに利用している。各駅ビル担当者には、狙うセグメントの顧客IDを抽出できる機能を提供し、セグメントごとのアプリクーポン施策の実施やLINE配信が可能となった。また、テナント売上に占めるアプリ売上割合を可視化することで、注力すべきテナントや顧客群を発見し、会員増、売上増につなげる施策にも取り組んでいる。
鉄道事業においては、きっぷの単価と乗車人数を最適化する「イールドマネジメント」を推進している。安いきっぷを設定するとユーザー数は増えるものの、単価が下がってしまうため、収入が最大化できる「価格と販売枚数」の見極めが必要だ。これまでは安いきっぷを発売しても、どんな顧客が増加したのかが把握できなかったが、列車ごとの顧客データを活用することで、「9時台はビジネスユースが多い」「10時は20代女性が多い」など、顧客の解像度をあげることに成功。より効果的な価格施策やプロモーションを展開しやすくなった。
また、高速バスと競合している博多~熊本間では、ダイナミックプライシングを実施。CVページにてアンケートを実施し、顧客動向を把握することで、狙う顧客に安いきっぷを販売することに成功している。

イメージ スライド画像

「今後、さらなる成長のために、JR九州グループをご利用いただける顧客をさらに増やすこと、顧客の利用頻度や利用サービスを増やすことを目指していく」と春野氏。さまざまな事業を展開するJR九州グループだからこその「顧客接点の多さ」を活かし、各サービスを中長期的にわたって利用されることを目指すと強調した。

他ソーシャルとは一線を画すピンタレスト

続いて登壇したPinterest(ピンタレスト)の井上氏は、ピンタレストのマーケティング活用戦略を紹介した。
ピンタレストは、検索・ソーシャル・コマースの機能を兼ね備えたビジュアル探索プラットフォームだ。世界の月間アクティブユーザーは5.37億人、ユーザーの40%以上をZ世代が占めている。ニールセン社のデータによると、日本では、月間利用者数は1050万人で、約7割が16~44歳だ。
ピンタレストは使えば使うほどユーザーの嗜好を分析するため、ユーザーはその利用の中で自分の嗜好を発見するという点が、他のソーシャルメディアと一線を画す。気に入った情報をボードに保存し、それらを見返しながらアクションを起こす。また、価値ある情報はストックされ、情報の寿命がほかのプラットフォームに比べて長いことも大きな特徴として挙げている。

写真 人物 Pinterest(ピンタレスト)の井上氏

また、ピンタレストのユーザーは、結婚式などのライフイベントや季節イベントにおいて、アイデアを検索する。特に季節イベントは、ネット検索のトレンドよりも早い時期から検索がスタートし、じっくりと検討したのちに購入するというカスタマージャーニーを示している。ポジティブなプラットフォームづくりにも取り組んでおり、広告ポリシーの厳格化などに取り組むことで、安心安全な環境でブランド・商品・サービスを訴求できる環境を構築している。

ピンタレストでは「広告もコンテンツ」

ピンタレストでは、広告を「役に立つコンテンツ」として捉えている。一般的に、広告はメインコンテンツを阻害する存在として捉えられがちだが、ピンタレストでは興味に合った広告を見かけることが多いとユーザーは実感している。そのため、広告接触後にもオンライン検索や問い合わせなどの行動換気率が高く、より高い広告パフォーマンスが期待できるという。
続いて井上氏は、ピンタレストアドの活用事例を紹介した。

Pinterest(ピンタレスト)の井上氏

1つ目は食材やラッピング資材などの販売などを手がける「富澤商店」だ。継続的な広告運用と的確なオーディエンスへのリーチにより、CPAは-85%に、配信1カ月でのコンバージョンは200件増加という結果となった。
続いて紹介された「サントリー」の事例では、スパークリングワインの新規顧客開拓事例だ。まだ商品の比較検討段階にない、潜在顧客に対してリーチできる点を活かした広告施策を打つことに成功している。
オンライン生花販売を行う「花キューピッド」は、敬老の日に合わせてウェブサイトへの流入を目的に広告配信をおこなった。クリエイティブ最適化と背景生成が可能なPerformance+クリエイティブの実装により、クリック率・コンバージョン率ともに高い結果を残している。
ヘアケアブランド「ALLNA ORGANIC」を展開している「イルミルド」は、新規ユーザー獲得のため、特定ブランド名を検索しない「非指名検索」が主流のピンタレストを活用。ビューティー系商材に関心の高いユーザー傾向の相乗効果もあり、クリック単価は50%減と、購入まで円滑に誘導することに成功している。
京都のお茶関連フードを扱う「伊藤久右衛門」は、季節イベントごとに洗練されたクリエイティブを早期に用意し、高いROASを獲得した。また、潜在顧客である新規若年層にも効果的なアプローチが実現しており、特に継続的な効果を高く評価しているという。

Pinterest(ピンタレスト)の井上氏

「ユーザーが能動的にアイデアを探すピンタレストだからこそ、ブランド指標・行動喚起につなげることができる」と井上氏は締めくくった。

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お問い合わせ

ピンタレスト・ジャパン合同会社

URL:https://business.pinterest.com/ja/ads-consultation/


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