多様化する顧客の価値観を正しく把握するためには、何が必要なのか?
顧客理解はビジネスを成長させるうえで重要な要素であり、テクノロジーの進化によって顧客に関するデータ分析も容易になった。だが、多様化する顧客の価値観に寄り添い、本当に必要とされる情報をそれぞれに提供するには、どうすればよいのだろうか。
本記事は2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬」から、注目セミナーをレポート。SHIBUYA109エンタテイメントの長田麻衣氏は生の声から得た若者トレンドを、ピンタレストの井上英樹氏はピンタレストアドだからこそ可能なマーケティング戦略を、具体事例を交えて紹介した。
生の声を重視した若者マーケティングを展開
SHIBUYA109 lab.(ラボ)は、東京・渋谷や大阪・阿倍野にあるSHIBUYA109や、MAGNET by SHIBUYA109を運営しているSHIBUYA109エンタテイメントによる、若者マーケティング機関だ。ターゲットであるaround20(15歳~24歳)の実態や価値観を、さまざまな観点から把握・分析し、企業のマーケティングサポートなどを行っている。
SHIBUYA109 lab.で大切にしていることは、生の声だ。SHIBUYA109館内で毎月200人に声をかけてヒアリングするほか、毎週1回以上はグループインタビューを実施。テーマを設けて若者のインサイトを抽出している。
また、SHIBUYA109 lab. MATEと呼ばれる若者ネットワークを構築。約1000人の若者とLINEでつながり、インタビューなどを行うことで、商品開発、マーケティング活動に生かしている。メンバーは一都三県在住者が多くを占めているが、若者の価値観に地域差やタイムラグは見られなくなっているという。
トレンド大賞2024から見える最新の消費動向
「若者」という意味合いで使われがちなZ世代は、1996年~2012年生まれを指し、年齢で言うと12歳~28歳と幅広い。そこで、SHIBUYA109 lab.では若者消費の中心となる15歳~24歳の動向を観測している。SHIBUYA109 lab.が毎年発表している「SHIBUYA109 lab.トレンド大賞2024」は、男女500人程度のSHIBUYA109 lab. MATEに調査し、今年何が流行っていたのかをランキング形式で発表しているものだ。ノミネートを含めると278項目にも及び、それらを分析していると若者トレンドが見えてくるという。
近年の若者トレンドは、1年で終わることは少なく、複数年続くことが多いそうだ。よって、以下に挙げるトレンドは「2025年以降にも継続する可能性が高く、マーケティング施策などに活かしていけるとよいのでは」と長田氏は語る。2024年は大きく4つのトレンド傾向が見られた。
自然体を求める「おつかれモード」
1つは、「おつかれモード」で、とにかく疲れているという印象が見受けられたと長田氏は振り返る。その理由は2023年5月から新型コロナウイルス感染症の5類移行により、若者らの行動量が急増したことの反動ではないかと推測。2024年はウェルビーイングを模索し、いかに自然体で、心地よく過ごせるかが若者の価値だったと考えられている。
キーワードは「リフレッシュ」「ヘルシー」「デトックス」「無理しない」「ポジティブ」であり、カフェ・グルメ部門にもその傾向が表出していた。アサイーボウルなどヘルシーフードがトレンドに入り、過去の「おうちカフェ」のような自宅で楽しめる食がランクインしている。カロリーを気にしなくても良いが、写真映えすることは必須条件だ。
2018年のチーズドッグから、ずっとハイカロリーフードだったため、ヘルシーフードの流れは新しい動きとなる。そのため、当分は続いていくだろうと予測されている。
また、体験部門には「自然界隈」がランクイン。キーワードは「オープンエア」「リフレッシュ」であり、都市の喧騒をはなれてデトックスを求めるムードが高まっているという。
ポジティブマインドを自身に投入
2つ目は「ポジティブ・自然体・全肯定」。特にポジティブなマインドを共有してくれるインフルエンサーや、乃紫「全方向美少女」など、ヒト部門 アーティスト部門などにその傾向が見られた。今の若者は上昇志向をあまり持たず、「生きてるだけで偉い」といった現時点での自己肯定傾向が強い。「応援しようというメッセージよりも、一緒にいたわる、一緒に1歩を踏み出す、というトーンの方が心地よく響く可能性が高いため、商品開発やサービス提供の設計に反映していけると良いのでは」と、長田氏は推奨する。
また、Y2K(2000年初期)のコンテンツを楽しむ「懐古ムーブ」が増加。その背景には、エモさを求める気持ちだけではなく「自分にはないマインドをインストールしたい」という気持ちがあるという。エネルギッシュだった平成ギャルや昭和アイドルなどをたのしむことで、ポジティブなマインドを自身に反映しているという。
世代ではなく「界隈」での消費が中心
3つ目は「加速する界隈消費」だ。界隈消費とは、ファッションのテイストや共通の趣味、カルチャー、好きな世界観を軸にしたゆるいクラスタ(界隈)の中で生まれる消費を指す。
「浅く広い同世代でくくられる消費を見つけることは難しい。若者は、深く狭いコミュニティで熱量高く楽しめる消費を重視している」と話す長田氏は、界隈と同義語である「○○コア」についても解説した。○○コアとは、あるモチーフをファッションなどに取り入れることを指し、誰でも参加できること、自分に選択権があり、対象界隈との距離感を自分で決められる点が受け入れられているという。長田氏は「基本ルールがあっても正解はないから、自分で選択できる余白がある」と話す。SNSミーム部門でも、空間、画角、簡単であることがトレンドのポイントであり、誰でもできることが共通している。
SNSでの映えを重視するイマーシブ
4つ目の「没入体験(イマーシブ)」は、企業イベントやプロモーション施策にも取り入れられているトレンドだ。だが、若者にとってのイマーシブは、大人が思っているそれと乖離があるという。「若者にとってはSNSで発信した時に演出できるかが大事な要素であり、それを考慮したイマーシブを提供しなければならない」と長田氏は強調する。
2024年はウェルビーイング模索の年であり、若者にとってどんな距離感が心地よいかを設計に含めることが重要な要素となる。その実現に必要なのは、界隈アクセスと界隈ファシリテーションだ。マス・トレンドがない分、いかに一つの界隈でどれだけ楽しまれているのかが重要であり、界隈の中で熱量を高めることでZ世代に伝播し、大きなムーブメントに繋がる。そのため、自社商品やサービスと親和性のある界隈はどこなのかを模索し、商品開発やプロモーションなどに活かしていく必要がある。長田氏は「界隈との距離感、コミュニティのサイズ感、テンションを緻密に設計し、トーンに合わせたアプローチが必要」と締めくくった。
他ソーシャルとは一線を画すピンタレスト
続いて登壇したPinterest(ピンタレスト)の井上氏は、ピンタレストのマーケティング活用戦略を紹介した。
検索・ソーシャル・コマースの機能を兼ね備えたビジュアル探索プラットフォームであるピンタレストは、世界の月間アクティブユーザーは5.37億人、ユーザーの40%以上をZ世代が占めている。ニールセン社のデータによると、日本での月間利用者数は1050万人で、約7割が16~44歳だ。
ピンタレストは使えば使うほどユーザーの嗜好を分析するため、ユーザーはその利用の中で自分の嗜好を発見するという点や、「ながら利用」ではなく能動的な使われ方が、他のソーシャルメディアと一線を画す。気に入った情報をボードに保存し、それらを見返しながらアクションを起こす。また、価値ある情報はストックされ、情報の寿命がほかのプラットフォームに比べて長いことも大きな特徴として挙げている。
また、ピンタレストのユーザーは、結婚式などのライフイベントや季節イベントにおいて、アイデアを検索する。特に季節イベントは、ネット検索のトレンドよりも早い時期から検索がスタートし、じっくりと検討したのちに購入するというカスタマージャーニーを示している。ポジティブなプラットフォームづくりにも取り組んでおり、広告ポリシーの厳格化などに取り組むことで、安心安全な環境でブランド・商品・サービスを訴求できる環境を構築している。
ピンタレストでは「広告もコンテンツ」
広告を「役に立つコンテンツ」として捉えているピンタレスト。一般的に、広告はメインコンテンツを阻害する存在として捉えられがちだが、ピンタレストでは興味に合った広告を見かけることが多いとユーザーは実感している。そのため、広告接触後にもオンライン検索や問い合わせなどの行動喚起率が高く、より高い広告パフォーマンスが期待できるという。
続いて井上氏は、ピンタレストアドの活用事例を紹介した。
1つ目は食材やラッピング資材などの販売などを手がける「富澤商店」だ。継続的な広告運用と的確なオーディエンスへのリーチにより、CPAは-85%に、配信1カ月でのコンバージョンは200件増加という結果となった。
続いて紹介された「サントリー」の事例では、スパークリングワインの新規顧客開拓事例だ。まだ商品の比較検討段階にない、潜在顧客に対してリーチできる点を活かした広告施策を打つことに成功している。
オンライン生花販売を行う「花キューピッド」は、敬老の日に合わせてウェブサイトへの流入を目的に広告配信をおこなった。クリエイティブ最適化と背景生成が可能なPerformance+クリエイティブの実装により、クリック率・コンバージョン率ともに高い結果を残している。
ヘアケアブランド「ALLNA ORGANIC」を展開している「イルミルド」は、新規ユーザー獲得のため、特定ブランド名を検索しない「非指名検索」が主流のピンタレストを活用。ビューティー系商材に関心の高いユーザー傾向の相乗効果もあり、クリック単価は50%減と、購入まで円滑に誘導することに成功している。
京都のお茶関連フードを扱う「伊藤久右衛門」は、季節イベントごとに洗練されたクリエイティブを早期に用意し、高いROASを獲得した。また、潜在顧客である新規若年層にも効果的なアプローチが実現しており、特に継続的な効果を高く評価しているという。
「ユーザーが能動的にアイデアを探すピンタレストだからこそ、ブランド指標・行動喚起につなげることができる」と井上氏は締めくくった。

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