顧客理解はビジネスを成長させるうえで重要な要素であり、テクノロジーの進化によって顧客に関するデータ分析も容易になった。だが、デジタルツールがあるからと言って、顧客理解が進み、ブランディングが成功するとは限らない。
本記事は2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬」から、注目セミナーをレポート。大丸松坂屋百貨店の岡﨑路易氏は新しい価値提供のためのデジタル活用施策を、ピンタレストの井上英樹氏はピンタレストアドだからこそ可能なマーケティング戦略を、具体事例を交えて紹介した。
「時間と場所の制約の克服」を目指す大丸松坂屋百貨店
1717年創業の大丸と、1611年創業の松坂屋が、2007年経営統合、2010年に合併して生まれた大丸松坂屋百貨店は、関西を中心に全国主要都市に15店舗を展開している。コロナ禍により休業を余儀なくされ、時間と場所の制約を克服する新規事業の立ち上げが必要とされ、3年間で7つのプロジェクトを立ち上げた。
まずサブスク事業では、ファッションの「AnotherADdress(アナザーアドレス)」や冷凍グルメサービス「ラクリッチ」。百貨店の強みを活かしたDX推進としては、デパコスのメディア&EC事業「DEPACO(デパコ)」と、アートのメディア&EC事業「ARToVILLA(アートヴィラ)」。そして次世代マーケティングソリューションビジネスとして、「明日見世」「メタバース事業」「インフルエンサー事業」を岡﨑氏は紹介。次世代マーケティングソリューションビジネスについて、詳細に解説する。ここでいうマーケティングソリューションビジネスとは大丸松坂屋百貨店が長年の百貨店事業で培ってきた、広告・販売促進・イベント等の企画力や運営力、情報発信力、コミュニティ運営力を活用し、クライアント企業のマーケティング上の課題を解決するB2B事業のことをさす。
ブランド成長の場となる「明日見世」
ショールーミングストアである「明日見世」は、ブランドコンセプトやストーリーを知り、商品に直に触れる体験を提供する場所だ。「新しいお客様との出会いがなく、ブランド認知やファン拡大ができない」「実際に商品を試せる場所がない」「ポップアップをしたいがリソースが不足している」など、ブランドの成長を阻む壁はいくつも存在する。だが、商品のお試しや体験に特化したリアル店舗である明日見世であれば、短期の売上獲得を目的とするポップアップとは異なり、中長期でのブランド成長を目的にしているほか、リソースや予算がない中でも気軽に出品し、お客さまへアプローチできる点がメリットだ。
長期の出店期間中には顧客のリアルな声を集め、ロイヤリティ向上も可能であり、「今後のマーケティングに活用できる」と岡﨑氏は強調する。その理由は、デジタルでのコミュニケーションが増える中、会話による情報収集が期待できる点にある。ユーザーにとってリアルの価値は高く、魅力を最も実感する接点でもあるため、明日見世でブランドを成長させることができるからだ。他にもイベント開催や併設カフェでの飲食体験、その場で購入できるショップもあるという。
明日見世が出品企業から選ばれる理由として、東京駅直結の好立地とリソースの最小化といったメリットに加え、百貨店スタッフによる接客とマーケティングデータ収集がある。
販売を目的とする百貨店販売員と異なり、アンバサダーと呼ばれる明日見世店舗スタッフは、情報をしっかりと伝えることが最終ゴールだ。そのため顧客は安心してブランド体験ができるため、「であい(知る・試す・考える)」を楽しむことが可能となる。そこで顧客と密接なコミュニケーションが可能となり、顧客インサイトをブランド側へフィードバックが可能となるという。
デジタルで新ビジネスを展開する「メタバース事業」
バーチャル空間でアバターによるコミュニケーションを展開するメタバースは、ともすればCGゲームやアニメの真似事と捉えられることもあるが、一定数のユーザーが存在している。日本では100万~200万人といわれており、新たなビジネスが生まれる土壌があると、岡﨑氏は主張する。
大丸松坂屋百貨店ではメタバース上でファッションショー「デジタルランウェイ」を実施した。
メタバース事業を実施する理由について、岡﨑氏は「大丸松坂屋百貨店は、400年にわたりリアル空間で生活者の暮らしを豊かにする提案をしてきた。新たな空間でも培ってきたノウハウを活かせる」と説明する。また「クリエイターとの価値共創」という使命も持つ大丸松坂屋百貨店。過去には海外デザイナーと初めて提携した実績を持っているが、イラストレーターやCGモデラーなどのクリエイターと新たな価値を生み出すべく、百貨店業界では初めて、メタバースで活用する3Dアバター販売を開始した。自社のオリジナルアバター販売に加え、他社のメタバース進出の支援も実施。大丸松坂屋百貨店が制作販売からPR戦略、SNSマーケティングイベントキャンペーンなどメディアの発信力を活用したPR戦略の立案と実行を支援し、確実にメタバースファンに届く仕組みを提供している。
新たなる挑戦となるVチューバー事業
「新規事業に必要なのは解像度と経験値」と力説する岡﨑氏。それは、まず自らサービスを体験することによって、そこにどんな人が存在しているかがわかるためだ。一次情報を大切に、既存事業で培ってきた店舗運営力やイベント運営力、キュレーション力を掛け合わせることで、新規事業の成功確率は上がるという。「大丸松坂屋百貨店ではVチューバー事業にも参入する予定。タレントオーディンションを実施し、新たな事業をさらに生み出していく」と展望を語った。
他ソーシャルとは一線を画すピンタレスト
続いて登壇したPinterest(ピンタレスト)の井上氏は、ピンタレストのマーケティング活用戦略を紹介した。
検索・ソーシャル・コマースの機能を兼ね備えたビジュアル探索プラットフォームであるピンタレストは、世界の月間アクティブユーザーは5.37億人、ユーザーの40%以上をZ世代が占めている。ニールセン社のデータによると、日本での月間利用者数は1050万人で、約7割が16~44歳だ。
ピンタレストは使えば使うほどユーザーの嗜好を分析するため、ユーザーはその利用の中で自分の嗜好を発見するという点や、「ながら利用」ではなく能動的な使われ方が、他のソーシャルメディアと一線を画す。気に入った情報をボードに保存し、それらを見返しながらアクションを起こす。また、価値ある情報はストックされ、情報の寿命がほかのプラットフォームに比べて長いことも大きな特徴として挙げている。
また、ピンタレストのユーザーは、結婚式などのライフイベントや季節イベントにおいて、アイデアを検索する。特に季節イベントは、ネット検索のトレンドよりも早い時期から検索がスタートし、じっくりと検討したのちに購入するというカスタマージャーニーを示している。ポジティブなプラットフォームづくりにも取り組んでおり、広告ポリシーの厳格化などに取り組むことで、安心安全な環境でブランド・商品・サービスを訴求できる環境を構築している。
ピンタレストでは「広告もコンテンツ」
広告を「役に立つコンテンツ」として捉えているピンタレスト。一般的に、広告はメインコンテンツを阻害する存在として捉えられがちだが、ピンタレストでは興味に合った広告を見かけることが多いとユーザーは実感している。そのため、広告接触後にもオンライン検索や問い合わせなどの行動喚起率が高く、より高い広告パフォーマンスが期待できるという。
続いて井上氏は、ピンタレストアドの活用事例を紹介した。
1つ目は食材やラッピング資材などの販売などを手がける「富澤商店」だ。継続的な広告運用と的確なオーディエンスへのリーチにより、CPAは-85%に、配信1カ月でのコンバージョンは200件増加という結果となった。
続いて紹介された「サントリー」の事例では、スパークリングワインの新規顧客開拓事例だ。まだ商品の比較検討段階にない、潜在顧客に対してリーチできる点を活かした広告施策を打つことに成功している。
オンライン生花販売を行う「花キューピッド」は、敬老の日に合わせてウェブサイトへの流入を目的に広告配信をおこなった。クリエイティブ最適化と背景生成が可能なPerformance+クリエイティブの実装により、クリック率・コンバージョン率ともに高い結果を残している。
ヘアケアブランド「ALLNA ORGANIC」を展開している「イルミルド」は、新規ユーザー獲得のため、特定ブランド名を検索しない「非指名検索」が主流のピンタレストを活用。ビューティー系商材に関心の高いユーザー傾向の相乗効果もあり、クリック単価は50%減と、購入まで円滑に誘導することに成功している。
京都のお茶関連フードを扱う「伊藤久右衛門」は、季節イベントごとに洗練されたクリエイティブを早期に用意し、高いROASを獲得した。また、潜在顧客である新規若年層にも効果的なアプローチが実現しており、特に継続的な効果を高く評価しているという。
「ユーザーが能動的にアイデアを探すピンタレストだからこそ、ブランド指標・行動喚起につなげることができる」と井上氏は締めくくった。

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