新規事業の立ち上げやコーポレートサイトのリニューアルなどを通して企業のブランド力を高めるためには、適切なタイミングや方向性の確立が必要だ。本記事は12月に行われた「宣伝会議リージョナルサミット2024冬 in 名古屋」から、注目セミナーをレポート。サンゲツの上田 謙介氏は新しい社会価値で企業ブランドを推進するプロセスについて、アクアリングの秋田 和也氏・大塚 大喜氏と朝日インテックの梅村 佳範氏はコーポレートサイトリニューアルにおけるブランド戦略について講演した。
新しい社会価値を生むスペースクリエーション企業へ
歴史がある企業こそ、新規事業の立ち上げやリブランディングのタイミングにおける課題意識は高いのではないだろうか。江戸時代末期に創業したインテリア内装材の老舗企業であるサンゲツも、インテリアの専門商社というビジネスモデルに限界を感じ、事業変革の過渡期を迎えていた。
壁紙、床材、ファブリックのアイテム数約12,000点を取り扱うサンゲツは、壁紙販売シェアの国内過半数を取得している。しかし、売り上げを内装を手掛けた新設住宅着工戸数で換算すると、バブル期には年間167万戸だった着工戸数が現在は約半分の80万戸に減少。上田氏は、「少子高齢化・人口減で、この先も市場のシュリンクは明確。今の基盤を維持していくことも難しくなると考えた」と、事業変革に踏み切った経緯を振り返る。
そこでサンゲツが注力したのが、国内インテリア以外の事業の拡張だ。既存事業であるグループ会社サングリーンのエクステリア事業について、上田氏は「建物の内面も外面もカバーできれば強みに繋がる」と期待を寄せる。また海外展開も重視し、北米、東南アジア、中国、香港市場を開拓。新たなチャレンジとして、企画から施工までワンストップで空間づくりをプロデュースするなど、スペースクリエーション企業への転換に取り組んでいるという。
「事業変革のプロセスの中で一番重要となるのは社員の意識改革」と話す上田氏。社員全員のベクトルを合わせて目標に向かうために、企業理念を刷新することを決めた。2022年12月に、国内外のグループ各社より有志でメンバーを募り社員参加型プロジェクトを発足。総勢87名15チームで議論を重ね、目指すべき企業像や企業使命を考案した。まとめた意見を全社に公開しパブリックコメントを募集。寄せられたコメントを踏まえて取締役会で決議し、2024年1月に新たな企業理念の発表に至ったという。
新たな企業理念は、ドリームに向かうパーパス(存在意義)を「すべての人と共に、やすらぎと希望にみちた空間を創造する。」と掲げ、ドリーム(実現する未来像)を「誰もが明日の夢を語れる世界」、パーパスをかたち作るビリーフ(信念)、それを支えるウェイ(私たちの姿勢)をアウトラインとして構成。ブランドステートメントをJoy of Designと定めた。
ステークホルダーには、サンゲツならではの経営資本を生かしてマテリアリティ(直面する課題)をどういう工程で解決してくかを示し、成長ドライバの中期経営計画と長期ビジョンを公開。「企業価値とともに社会価値の両立を成し遂げ、利益を株主へ適正配分・経営資本へ再投入して好循環を回していく」と、会社からステークホルダーに向けて価値創造プロセスを意思表明したという。
長期ビジョンで公開した成長ドライバは、先述したスペースクリエーション企業への変革だ。上田氏は「これまでの知見を生かし、空間ソリューション事業を通じてワンランク上の価値を提供する」と目指す姿を語り、事例として自社のライブオフィスを紹介。また、住宅ストックをフルリノベーションした賃貸物件の事例を公開し、「住宅ストックは、2040年には現在の倍の数に増えると予想される。これからは、既存の建物を生かしたサステナブルな提案で、経済的価値と社会的価値の両面を創出していく」と、今後の挑戦についても力強く語った。
コーポレートサイトリニューアルにおけるブランド戦略
続いて、朝日インテックの梅村氏とアクアリングの秋田氏・大塚氏が登壇。朝日インテックのコーポレートサイトリニューアルにおけるブランド戦略の過程や背景について講演した。朝日インテックは医療機器及び極細ステンレスワイヤーロープ、端末加工品等の開発・製造・販売を行っている企業。一方アクアリングは、WEBサイト制作を中心とした最適なコミュニケーションデザインの開発・提案を行う、中部エリアの老舗デザインファームだ。
朝日インテックは、設計が古くて使いづらい、リンク切れなどの形骸化、スマホ対応していないなどコーポレートサイトの課題を抱えていた。梅村氏は「コーポレートサイトは会社の顔になる部分。早急に対処しないといけない」と、同社の製品サイトの立ち上げを担当したアクアリングに相談。サイトリニューアルへ向けて動き出した。
デザインを担当したアクアリングの秋田氏は、形骸化の改善策、製品ブランドと企業ブランドの違いの明瞭化をリニューアルの課題と感じていた。そして、「どういった価値をユーザーに提示するか」を模索するべく朝日インテック本社を訪問。本社のエントランスには製品の特徴や事業に関する情報、700以上ある特許取得証明書のフレームレプリカが展示されており、企業理念が分かりやすく表現されていたという。また、ドクターが訪れた際に製品テストをする実験室も見学し、「現場の声を生かして製品を改良する土壌が整っていた」と振り返る。秋田氏は会社訪問で感じたテクノロジーの強みやものづくりへの真摯な姿勢を企業価値として持ち帰り、サイト制作に生かしていったという。
秋田氏は「サイトを訪れるユーザーにも、自分が本社で感じた体験を伝えたい」という思いから、コーポレートサイトのコミュニケーション施策を「リアルと均一の企業価値を体感するオンラインの玄関口」と設定。また、本社訪問で得た「血液の循環を促す製品の研究開発」「製品を生み出すための成長サイクル」などのポイントを踏まえ、「循環」をデザインコンセプトに掲げた。コンセプトについて梅村氏は「当社は、技術という種が製品として花開き、また新たな技術の種を落とすという『無限のループ』を企業思想として持っていた。そういった部分もうまく汲み取ってもらえたと思う」と笑顔で話す。
秋田氏はデザインコンセプトをさらに細分化し、医療の未来を支える技術と品質で築く信頼を「Clarity」、他にない卓越された技術を「Technology」、一貫性のある普遍的な価値を「Timeless」としてデザインプリンシプルに落とし込んでいった。また、デザインにおけるスタイルガイドを作成し、形骸化されない持続性の高い強度な仕組み、企業ブランドのDNAを考慮したUIを設計した。
リニューアル後のコーポレートサイトは、トップページをはじめあらゆるページに循環のシンボルとしてエントランスのイメージグラフィックがデザインされており、「どのページからもエントランスに招かれているような継ぎ目のない構成を目指した」と秋田氏は説明。マウスオーバーした際に走る赤い線は、企業製品の核となる「血が通う」をイメージしている。コミュニケーションの方向性は、ワンビューワンメッセージのページ構成で、視覚的にも構造的にも分かりやすさを追求したという。
出来上がったサイトについて梅村氏は「アクティブユーザーが増えてエンゲージメントも向上し、しっかり見てもらえるサイトになった。今後は遠隔治療など新規事業に関するコンテンツや社会貢献事業の取り組みを、わかりやすく伝えていけるようにサイトをアップデートしていきたい」と語り、講演を締めくくった。
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