コロナ禍に急増した「売らない店」の今 成長の明暗を分けた要因は?

コロナ禍で注目を集めた「売らない店舗」。商品を販売するのではなく、消費者に体験を提供する場として、多くの小売企業が参入しました。しかし、ブームが落ち着いた今、その明暗が分かれています。成功した店舗と縮小を余儀なくされた店舗、その違いはどこにあったのか。本記事では、「売らない店舗」の現状を分析し、成長のカギを握った事業計画の重要性を店舗のICT活用研究所郡司昇氏が解説する。
※本記事は、月刊『販促会議』2025年4月号特集「“買い物の楽しさ”を最大化する 店舗づくり」への掲載内容から再編集してお届けします。
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郡司 昇氏

店舗のICT活用研究所
代表
小売DX 代表社員

起業してドラッグストア経営後、ココカラファインでドラッグストアの販社統合プロジェクトを担当。EC事業会社社長として事業黒字化と同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。

2020年頃に各社が「売らない店舗」に参入したわけ

コロナ禍で国内に「モノを売らない店舗」が急増しました。店を訪れた生活者は、陳列された商品を試し、店舗スタッフとコミュケーションをとる。気になった商品があればECで購入する。いわゆる商品を体験するために足を運ぶ店舗です。この「売らない店舗」ですが、国内でも店舗数が伸びたのは2020年のこと。日本で盛り上がる発端となったのは「b8ta」の日本上陸です。

しかし、店舗数が伸びた原因がコロナ禍かと言われると、私はそうではないと捉えています。偶然そのタイミングだったというほうが良いかもしれません。

というのも、小売に関わる有志が「b8ta」に注目したのは2019年くらいだったと記憶しています。店舗なのに「モノを売るのが目的ではない」という面白さに各社が着目したことが、輸入するきっかけだったと捉えています。

さらに、この「モノを売らない」「体験を提供する」という業態は、「b8ta」ではなくてもできるビジネスです。そこに魅力を感じた小売企業が多いと考えています。店舗で提供するのは商品を試し、選ぶという体験。単純であるがゆえに「自社でもできそうだ」と思った小売企業が多かったはずです。国内で「売らない店舗」が盛り上がった理由の一つでしょう。結果、多くの企業で採用されることとなりました。

しかしこの「売らない店舗」は、かつての盛り上がりから遠ざかった印象を受ける人も多いかもしれません。これは、「体験提供」が生活者に受け入れられなくなったわけではないと捉えています。ここから、明暗を分けた理由を考えていきましょう。

明暗を語るうえで欠かせない売り場の再解釈

そもそも売り場は流通の3要素である「物流」「情報流」「商流」のすべてが収束する場として、存在していました。しかし、「売らない店舗」には商流がありません。ですが、しっかりと売り場として存在しています。つまり、売り場は「情報と商品の接触、そして最終的な商品取得のいずれか、あるいはその組み合わせの提供を可能とする場」へと変化しているのです。

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