2025年も夏を前に、日傘を展開する各社では、今年のブランドアンバサダーなどを続々発表し、プロモーションを開始している。
昨今、気温の急激な上昇や美容への意識の高まりなどから、年々日傘市場は拡大。その中でも特に数年前まではマイノリティな市場だった「男性向け日傘」については、著名な俳優を起用しCMを出稿するほどの、マスマーケットになってきているのではないだろうか。
その一方で、まだメジャーとは言い切れないニッチな市場である「男性の日傘」を、各社どのように訴求しているのか。「女性のもの」というイメージが強い日傘を、男性にも「持ってみようかな」と思ってもらうためプロモーションとは。
本稿では、日傘ブランドを展開する各社の広告の工夫について、見比べてみる。
完全男性向けブランド「Wpc. IZA」
「新たな可能性を生み出す」をスローガンに、2004年に誕生したワールドパーティーのドメスティックブランド「Wpc.」。
2021年には男性用日傘ブランド「Wpc. IZA(ダブリュピーシーイーザ)」を立ち上げ、男性の日傘利用率の上昇を図っている。
同社は「男性向け日傘」というマイノリティな商品の価値を届けるために、次のような広報・コミュニケーション戦略を取っているという。
①市場開拓のための啓蒙施策
マイノリティな商品の価値を届けるためには、市場そのものの開拓も必須。自社商品を宣伝するのと同時に、日傘そのものを啓蒙する施策も併せて実施している。
・トレインジャック
2024年から実施を始めた啓蒙広告。
2024年には実需期の7月1日~12日まで、丸の内線にてトレインジャックを実施。クールビズの新しい手段として「日傘」を提案した。
「電車を利用するすべての人に、日傘の『必要性』とWpc. IZA の『機能性』を、“提案書形式”で訴求。この取り組みは、自社商品の売上のためよりも、男性用日傘のパイオニアとして率先して市場を開拓することを目的に、世の中の男性の日傘普及率が上がることを視野に入れた啓蒙活動として実施しました」と、ワールドパーティー セールスプロモーション部 部長 Wpc. IZAブランドマネージャ― の小野航氏は話す。
・日傘予報
同社は日々当たり前のようにチェックする天気予報と同様に、日傘の予報もあれば暑さ対策や熱中症対策に活用してもらえるのではと考え、特設サイト「日傘予報forクールビズ」を開設。
「日傘予報forクールビズ」の実際の画面。スマートフォンやPCから確認が可能とした。
2024年5月~9月の期間中、全国各地の気温・湿度・日射量などの気象データをもとに、日傘指数(日傘が必要な度合い)を予報し、「市場形成にも貢献した実感がある」と小野氏は振り返る。
②著名人の起用
さらにマイノリティをメジャーに押し上げるためには、ブランドメッセージや商品価値を大々的かつインパクトをもって発信し続ける必要があると考え、同社ではメーカーの代弁者として、毎年ブランドのテーマに沿って影響力のある著名人を起用している。
発売3年目の2023年までは、とにかく「男性向け」というイメージを伝えるべく、窪塚洋介さんやオダギリジョーさんなど男性が憧れる男性像のような俳優を起用していた。
しかし4年目となる2024年には一気に市場拡大を目指し、これまでの“男らしい”とは少し異なり、美容要素も含め、より幅広い世代の方に訴求できる岡田将生さんをビジュアルモデルに起用。
そして発売5年目となる2025年は、「This is COOL.」をスローガンに据え、ビジュアルモデルに窪田正孝さんを起用した。
窪田さんが登場するプロモーションムービー。
「毎年、気候予想をはじめとする世の中の動きをインプットし、その年に伝えたいメッセージや内容を決定しています。今年(2025年度)は昨年同様の猛暑が予想され、暑さ対策として日傘の必要性が増すことが顕著であったため、本スローガンに。 “クール” を体現する象徴的な存在で(カッコよさ・スマートさを感じられ)、世の中の男性が自分を投影しやすく広く共感してもらえる説得力のある方をイメージし、窪田正孝さんを起用しました」(小野氏)。
③市場を先行するメディアリレーション
同社では、年2回(春夏コレクションと秋冬コレクション)内覧会を実施。発売前に、商品を実際に手に取ってもらえる場としてメディアを招待し、そこで新商品のイチオシポイントやブランド戦略などについて、広報担当が直接伝える場を設けている。
「実際に商品を体感してもらえるので魅力が伝わりやすく、そのタイミングで掲載のお話をいただくなど、早いタイミングでメディアの方とコンタクトが取れています。そのため、実需期のタイミングに露出を獲得でき、効果的なメディアリレーションが実施できています」(小野氏)。
④エビデンスの提示
Wpc. IZAのターゲットである男性は、ロジカルな思考をもとに商品の性能を選ぶ傾向があるため、機能性の面でエビデンスとともに訴求することに注力。
男性は夏に、“暑さ”や“汗”を気にする人が多いことから、体感温度の差をサーモグラフィで視覚化するなど、ベネフィットまで直感的に伝わる訴求方法を選択した。説得力のあるプロモーションを行っているという。
「Wpc. IZA」では、体温をサーモグラフィで可視化するなど、説得力のあるプロモーションを心掛けている。
「当ブランドのさまざまな機能をストレートに訴求しても、なかなか伝わらないことが多いです。女性は日傘を選ぶ際に、美容目的で紫外線指数や遮光率を気にされる方が多い反面、男性は暑さ対策や熱中症対策として日傘を検討され、遮熱性を意識される方が多い傾向にあります」(小野氏)。
そのため、今回のプロモーションでも「遮熱性」をメインに訴求。ターゲットが最も求めているものに訴求を絞り、浸透しやすいスローガンにのせて伝えている。
嗜好性に響くプロモーション
「Wpc. IZA」では、発売から数年は“晴雨兼用”をキーワードに訴求していたが、2025年は日傘に振り切って訴求。その背景にあるのは、近年の記録的猛暑だという。
「毎年のプロモーションの戦略については、気候予測をはじめ、市況などを踏まえて検討しています。記録的猛暑などの環境の変化や、2021年のブランドローンチ時と比べ男性日傘の普及が加速している状況を見たうえで、2025年は思いきって【This is COOL.】というスローガンのもと、日傘メインで訴求することにしました」(小野氏)。
さらに効率良いプロモーションの方法については、次のように説明する。
「地上波は広くリーチできますが、言い換えれば興味・関心のない人にも届いてしまう。男性用日傘は普及率は上がってきているものの、まだまだ発展途上。YouTubeなどのネット広告は、本人の嗜好性によって効率良くリーチできるため、『Wpc. IZA』ではこの手法をとっています(不特定多数へ広くリーチするか、興味・関心のある人にピンポイントに何度もリーチするか)。ブランドのフェーズや市況などを鑑みて、今後はマスへの投下も検討していく必要があると思います。」
「Wpc. IZA」ブランドムービー。