広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。人事異動も多い日本企業の場合、専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、企業のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のキャリアプランを考えていたのでしょうか。横のつながりも多い広報の世界。本コラムではリレー形式で、「広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。ANAホールディングス・坂巻佑太さんからの紹介で今回登場するのは、ソニーグループの石奈美子さんです。
Q1:現在の仕事の内容とは?
ソニーグループでは、ゲーム、音楽、映画、エンタテインメント・テクノロジー&サービス、半導体、金融などの多様な事業を展開しています。グループ全体を束ねる役割として、コーポレートから技術領域まで幅広い対外的な広報活動を行っています。特にエンタテインメント関連事業の拠点は米国がメインとなることから、それらの事業との連携や、海外メディア対応などグローバルの広報活動にも注力しています。また、ソニーコーポレートブログというオウンドメディアも運営しており、会社の取り組みを発信することも強化しています。
ソニーコーポレートブログのトップページ。
Q2:これまでの職歴は?
私の経歴は、グループ内での多様な経験に支えられています。入社当初は半導体事業で経営企画業務の一環として本社広報・IRのリエゾンとして携わり、プレスリリースや取材サポートなど、この時に初めて広報業務に触れました。この経験が、後に現在の広報部への異動するきっかけとなりました。
元々音が好きで、オーディオ機器に携わることに憧れて入社したこともあり、その後、オーディオ事業の海外マーケティングに異動しました。ここでは、ヘッドホンや携帯音楽プレーヤー等々のコンシューマー製品を扱い、海外販売拠点との売上の進捗管理や販売促進、マーケティングコミュニケーションを担当しました。
特にマーケティングコミュニケーションでは、1つの商品をワールドワイドにどのように売り出するかを考え、魅力を伝えるための動画やアセットの製作、プロモーション企画に取り組みました。毎年海外で開催される家電見本市など、大きなイベントへの出展を山に、いかに世の中で話題作りをするか、というプランニングにも注力しました。この時の、ユーザー側に立った売り込み方の視点や経験は、今の広報活動でも非常に役立っています。また、この時のマーケティング業務でも、プレスリリースやコミュニケーション策定など、広報業務に関わる機会が多くあり、結果的に、ずっと広報という仕事とは縁がありました。
Q3:転職や社内異動などに際して、強く意識したこととは?
キャリアを通じて自分の軸が何なのか、ということは意識しました。これまでの2度の異動は、社内募集制度を活用しました。この制度は、新しい挑戦をしたい人が自ら希望する部署に手を挙げて応募できるものです。1つの部署にいても、社内転職のように全く異なる領域の他事業で働くチャンスがあるため、広い視野でキャリアを考えることができます。私の場合、入社当初からコミュニケーションに関わる機会があり、何よりもそれが好きだったため、そこを軸としてキャリアを築いていきたいという思いに至りました。
数年後に自分がどうありたいのかを思い描きながら、明確なプランを立てることができたことがこれまでの成長を支えてくれたと思います。
Q4:国内において広報としてのキャリア形成で悩みとなることは何?
企業広報が共通で抱える業務の課題はあると思いますが、あえて人との関わりについて挙げると、広報は、企業の中でも特に社内外のさまざまなステークホルダーとコミュニケーションを取ることが多い部署です。広報自体は事業を直接行っていないため、活動の質は人から得られる情報に大きく依存します。ただ、自分自身がそれなりの経験や知識を持っていないと、得た情報を正しく理解し、効果的に活用することが難しいです。
広く情報を持っておくには、トレンドや業界の動向をよく把握しておくことが求められますが、情報量や変化の速さに圧倒されることもあります。そんな中人脈を広げることで、知りえない情報を得たり、自分だけでは解決できなかった課題解決の糸口になることもありますし、それが成功体験に繋がることもあります。
人には時間をたくさん投じて、一方では昨今のDXでAIなどを活用して、日常業務の効率化を図る体制を作ることは、成長を図るための重要なテーマだと感じています。
Q5: 広報職の経験を活かして、今後チャレンジしたいことは?
1つ目は、ソニーの経営の主体がエンタテインメントビジネスにシフトしていることがまだ広く一般に知られていない部分があるので、その認知を広げる広報活動をしていきたいです。変化に対応し、より多くの人々に取り組みを伝えることで、今のソニーの姿や目指す方向性を知っていただきたいと考えています。
2つ目は、データに基づいた戦略的なアプローチを取り入れることで、定量的な視点でのプランニングを強化したいと思っています。それにより効果的な広報活動を実現し、成果を上げていきたいです。
3つ目は、我々のチームには様々なバックグラウンドを持ったメンバーが集まっており、この多様性を生かしたチームワークづくりを行うことで、ユニークで魅力的な広報活動にチャレンジしていきたいです。欧米企業の広報とも接する機会を持ち、海外での広報活動の良い点を取り入れることも非常に重要だと考えています。
【次回の担当者は?】
次回は、リクルートホールディングスおよび国内事業会社の広報を担当されている高野梓さんにバトンをお渡しします。高野さんは約12年の広報歴を持つプロフェッショナルで、経営陣のサポート、東証一部上場、グローバル展開の加速(M&A)などの責務を担っていらっしゃいます。加えて、現在は国内の人材サービスを担う事業会社の広報も兼務され、企業広報と事業広報の双方を担当されています。
多様な事業を展開し、豊富な人材育成を行うことで有名なリクルートさんで、マネジメントとしてエネルギッシュにチームを率いる高野さんから、これまでの体験談を交えた魅力的なお話を伺えると思います。
