デザインの領域を横断しながら、複合的・総合的なデザインが求められることが多くなった現代。
私自身も、プロダクトデザインからグラフィックデザインへと領域を広げながら、「デザイン領域を横断するからこそできることとは」「プロダクトを学んできたからこそできるグラフィックデザインとは」「グラフィックへ領域を広げたからこそできるようなプロダクトデザインとは」などと問い続けながら、日々の仕事に向き合っている。
そのなかで、領域を横断するからこそ、他にはない視点や形を探し続けるように、特別性や独自性を模索しながらも、一つの領域にじっくりと取り組み、職能を深めていくことの大切さを感じることもある。
けれど、デザインということばの文脈が膨張し続ける中で、明確な枠に収まらないものづくりの在り方や、領域の狭間にある「これもデザインなのか」というような実践や問いそのものが、いままさに求められている時代でもあると感じている。
このように、元々はデザインの領域が分かれていて、融合して考えることは“新しい”ことと捉えてしまいそうになるが、青石さんはそれをとても自然に、領域を広げ、横断しながら、美しいものをつくることを徹底されている。
この本を読むと、むしろ領域を横断していることのほうが自然なことなのだと気づかされる。
領域を横断するというのは、単に自由にデザインをしているということではない。
時には強引さが求められる場面もあるし、社会に浸透した分業の前提を、ひとつひとつ見直し、役割を再定義していくことも必要である。
そういった積み重ねのうちに、“自由である”という感覚が、少しずつ姿勢として周囲に伝わっていくのだと思う。
領域の横断をはじめ、協業のあり方やインハウスでのデザイン経験。
本書の内容の多くが、自分自身の仕事のスタイルと重なる部分がたくさんあり、ものづくりやイメージをつくるということとは何か、特別なことではなく、自然なことだと思えるようになるまで、改めて向き合い続けたくなる一冊でした。

『デザインをつくる イメージをつくる ブランドをつくる』
工藤青石著
定価:2,420円(税込み)
「SHISEIDO MEN」「オイデルミン」など資生堂で化粧品ブランドを数多く手がけ、現在人気化粧品ブランド「イプサ」のクリエイティブディレクターを務める著者・工藤青石が、初めて書き下ろした書籍。これまで手がけてきた数々の仕事におけるにおけるデザインやクリエイティブのディレクションの考え方、そして制作のプロセスを公開。実例を見せながら、自身の経験と知見、そして美に対する独自の視点からひもときます。
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