4月21日、東京・帝国ホテルにて、東京アートディレクターズクラブによる2024年度ADC賞の授賞式が行われた。
式の冒頭では、永井裕明審査委員長は審査講評を伝えた後、次のようにメッセージを述べた。
「2024年、地球という単位で世の中を見ると、様々な危惧、脅威、想定外の出来事があり、異常という言葉が平常になっていて、心の中には得体の知れないしこりのようなものを孕みながらも、時代についていかなければと思っている人が多いのではないでしょうか。
そんな中にあって、いま一度アートディレクションとは何か。会員それぞれが真剣に向き合いました。ここで選ばれた作品のカテゴリーは多岐にわたっていますが、様々な立場や視点を持つアートディレクションされた作品への評価だと確信しています。
アートディレクションは表層的な行為ではなく、しっかりと根を張って様々な事柄に対処していく生業として迫力のある行為だと信じています」
審査委員長を務めた永井裕明氏。
2024年度のADC賞は昨年11月に発表されており、グランプリを受賞したのは、岡崎智弘氏の個展「STUDY」(クリエイションギャラリーG8、2023年6月開催)。NHKの番組コンテンツ映像「デザインあneo あのテーマ」の第25回亀倉雄策賞受賞を記念し開催された展覧会において、マッチ棒を使って撮影したコマ撮りアニメーションのシリーズ映像作品と展示が高く評価された。
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グランプリを受賞した岡崎氏は「コマ撮りをグラフィックデザインとして取り入れられないか」と考え、いまのような制作を始めたという。
「僕がコマ撮りを始めたのはは2010年。当時、個人のグラフィック事務所で働いていたのですが、働きすぎて友達に飲み会を誘われても断り続け、孤独になってしまって数年間がありました。その時に写真の連番を繋げて動かすと、映像のように動くことに気づいたんです。それをグラフィックの中に取り入れたらちょっと面白いんじゃないかと思い、勝手に始めたものでした。
翌年、それが仕事になり、独立するきっかけにもなりました。10年ほどいろんな仕事をして、コロナ禍で色々と振り返っていた時に、コマ撮りの地味な作業の繰り返しの中にはいろんなことが詰まっていて、それがすごく面白いものだということをあらためて思い返したんです。一つの仕事を完成させるために行っていた作業の間にあること、それだけをやってみたらどうなるかなと思い、マッチ棒を動かす活動を始め、それを毎日続けることを決めました。
普通、デザインは何か整理したり、足し算をすることで1つの強いものをつくりあげるわけですが、これは強いものをつくるというより、日々淡々とつくり続けるだけ。そういうデザインがあるんじゃないかと思いながら続けているものです。この先10年はやろうと決め、いま5年経ちました。まだ答えは出ていませんが、いまも続けていて、これからは10年と言わず続けていきたいと思っています」
グランプリを受賞した岡崎智弘氏。
2024年度のHALL OF FAMEに選ばれたのは、石岡怜子氏(石岡怜子デザインオフィス)。西武百貨店のビジュアルやディスプレイ、新潮文庫のキャンペーンのアートディレクションをはじめとする広告制作、CI、パッケージ、エディトリアルなど、アートディレクターとしてクライアントや商品の本質を深くとらえ、表現した仕事を数多く世の中に届けてきた。近年、各地で開催されている「石岡瑛子 I デザイン」展ではTeam EIKOの一人として、監修も手がけている。
「ここにいらっしゃる会員の方たち、私も含めてですけどもほとんどの方が現役で、いまも仕事をなさってて、どんどんいい仕事をやってらっしゃいます。それはある角度から見ると当たり前のことで、努力をしたからって言って賞をいただいちゃいけないんじゃないかと、実は私はちょっと思っていて。もうみんなと一緒だし、みんなよりも優れたことは何もないんです。
ただ、ひとつだけ言えるのは、すごくしつこく何十年も同じことをやってます。これは長い間、途中で諦めようとも思ったことあるんですけども、とにかく自分が決めた道だからやり続けるということで、自分の自覚とは別に成長していく部分もあったりするので、皆さんも途中でやめないで続けていかれるといいと思います。
私はもう70代なんですけども、若い時、70代に現役の仕事してるなん全く想像できなかったんですね。でも我々の仕事って年齢は関係ないので、全くそういうこと考えずにやってきて、気がついたらこんな歳だわと自分自身でびっくりしているんです。でも、自分のやり方でやれば、自分らしい世界観はまだ作れるんじゃないかと思っていて、しつこくやっています。今後もできるだけやり続けたいと思っています」

副田高行氏からトロフィーを受け取る石岡怜子氏。