あれは寄り道だったのか? 腐らず泥臭く粘って正道にしてきた気鋭クリエイターたち【前編】

新年度を迎え、新たな環境や役割のもと、どうキャリアを築き上げるべきか、迷いが生じている人も多いはず。そこで『ブレーン』は、いま活躍している気鋭のクリエイターをゲストに迎え、「若手のうちに(最短距離ではなく)寄り道すべきこと」をテーマに、これまでのキャリアについて語るトークイベント「寄り道ブレーン」を開催した。

 

ゲストは市川晴華さん(CHOCOLATE プランナー/クリエイティブディレクター)、岩崎裕介さん(CMディレクター)、片岡良子さん(CHERRY コピーライター)、鈴木健太さん(Firstthing/CANTEEN
クリエイティブディレクター/映像監督)、関谷“アネーロ”拓巳さん(ECD 地球中心デザイン研究所/TBWA HAKUHODO Activation Director)。

 

一見最短距離でクリエイターとして活躍しているように見える5人だが、その道筋をたどると、さまざまな寄り道がターニングポイントになっていることが判明。今回は会場で語られたそのユニークな経験をダイジェストで紹介する。ゲストから事前に集めたカード【全滅の就活】【はい(初配属は営業)】などを「寄り道ボックス」に入れて、カードを引いてトークが進んだ。

写真 トークイベント「寄り道ブレーン」

学生時代の寄り道「全滅の就活」

市川:【全滅の就活】カードがさっそく!これはわたしが入れたものです。学生時代に就職活動がまったくうまくいかなくて……東京から地方まで、広告会社、制作会社、イベント会社と幅広く受けたんですが、本当に全滅しました。そのなかでとある広告会社の、1週間の最終選考インターンに滑り込むも、あえなく落選。アルバイトをするしかないと覚悟するほどでした。打ち合わせで発言するのもためらってしまって……、今考えれば当然の結果だったと思います。

けれどもそれでは諦めきれないと“置き土産”的に企画案の束を社長の机に置いたら、「もう一回来て。なんかあるかも」と電話があったんです。そこから奮闘して、なんとか仮内定をいただき、広告業界でのキャリアがスタートしました。束で企画案を出した「馬力」が評価されたんじゃないかな。

岩崎:既存のルートではないところをこじ開けるのが寄り道らしいね。

【全滅の就活】でいうと僕もそう。元々は関西電気保安協会の1990年代のシュールでソリッドなCMに衝撃を受けて、CMディレクターという職業に憧れました。それで東北新社のディレクター職だけ受けたんですよ。絵コンテなんて書いたこともなかったのに、絶対に受かるとなぜか自信があって(笑)。でも案の定落ちて、親に土下座をして就職浪人をしました。翌年になんとか入社できましたが、当時の試験官に経緯を聞いたら、「1年目は絵コンテが汚く、読む気が起きないから門前払いだった」と。落ちたから向いていないではなく、腐らず泥臭く粘るのが大事だと感じた寄り道です。

関谷:自分も学生時代に謎に自信があって、さらにテレビ局の最終面接に次々に進んだのでますます調子に乗ってしまい……(笑)。けど結果として、自分も就活浪人に。そこで打ちのめされて、めちゃくちゃ就活対策をして、翌年に博報堂に入社しました。いろんな人のいろんな寄り道が示されたけど、“全滅”しても乗り越えることはできると伝わったんじゃないでしょうか。

社会人の寄り道「営業への初配属」

片岡:【はい】カードを書いたのはわたしです。というのも、学生時代の運動部の経験から、「はい」が口癖で。先輩に対して「はい↑」「はい↓」のみで返事をしていました。

写真 トークイベント「寄り道ブレーン」

就活でも「こういう仕事できる?」に「はい!」と、「朝早いけどこれる?」に「はい!!!」と返事をしてきた人生で、初配属は早朝対応が求められる企業の営業担当に。人に求められることに応えて、思えば寄り道ばかりしてきました。

岩崎:営業からコピーライターに職種を変えたしたきっかけは?

片岡:営業担当として打ち合わせに参加しているなかで、コピーライターに憧れたのがきっかけでしたね。広告ってコピーが軸なんだと強烈に感じて。そこからコピーライター養成講座に通ったりと動き始めました。

岩崎:今日の参加者も気になっている人が多いと思うけど、営業を経験してからのコピーライターってどうですか?

片岡:二つ返事で快諾する営業時代は、いま思うと肥やしになっていたかな…。受け止め力がついたというか。クライアントの勘所がわかるようになったのも大きいですね。もし初配属でコピーライターだったら、自分の内面を出すことへの羞恥心が先行したかもしれない。営業経験によってクライアントのビジネスを理解した上でコピーを書けるから、目的や方向性を間違えにくい気がします。

関谷:自分が寄り道だと思っていたことが、意外とうまくいくこともありますよね。僕はアクティベーションの出身で、実はCMにずっと苦手意識があったんです。そんな中、CMの企画を求められることがあって。この企画出しの時間が、「自分には向いてないかもな」とある意味“寄り道”のように思っていたんだけど、実はそうじゃなかった。以前から歌もののCMが大好きで、替え歌の案を出したらそれが採用してもらえて、今もシリーズで続いているんです。

岩崎:苦手を無理やり克服するより、好きなこと・得意なことを尖らせたほうがいいよね。CMプランナーもディレクターもライバルがいっぱいいるわけだし。

写真 トークイベント「寄り道ブレーン」

後編はこちら

登壇者プロフィール

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市川晴華 氏

CHOCOLATE
プランナー/クリエイティブディレクター

1990年生まれ。ちょっとだけでもいい気分になる広告を目指している。2022年よりCHOCOLATEに所属。読売広告社にもパートナースタッフとして所属。過去の仕事に、サントリーペプシ「本田とじゃんけん」、アース製薬「片手でモンダミン」、イエローハット・ピザハット・リンガーハット「ハット首脳会談」、東亞合成 アロンアルフア「時間が余るCM」、日の出屋製菓産業「しろえび紀行がとまらない」、中京テレビ「4と鳴く犬」、サントリー特茶「階段最高」など。ACC審査員、OCC審査員、BOVA審査員、MACA審査員、販促コンペ審査員なども担当。

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岩崎裕介 氏

CMディレクター

1993年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。2017年東北新社入社、2019年ディレクターデビュー。会話劇を中心とした、静的で異物感のある演出が持ち味。2024年、映画レーベル『NOTHING
NEW』から、自身初となる脚本・監督作品『VOID』を発表。

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片岡良子 氏

CHERRY
コピーライター

ADKで約5年の営業経験を経て、コピーライターに転向。2018年、TCC新人賞受賞。2019年、広告されない ちいさなモノゴトマガジン『ちい告』を創刊。主な仕事に、しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE新聞広告「キミは、いたほうがいいよ。」、明治エッセル スーパーカップ「ふつうの日、スーパー最高では?」、ブルドックソース「ガッツリだって、ヘルシーじゃん!」、Oops HEART「こころの健康って、強さなんだっけ?」など。

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鈴木健太 氏

Firstthing / CANTEEN
クリエイティブディレクター / 映像監督

1996年東京生まれ。Firstthing代表。10代の頃から映像作品を作りはじめる。多摩美術大学統合デザイン学科中退後、電通入社。dentsu
zeroに所属し、広告・コミュニケーションの企画、ブランド開発、MV・映画の監督を務める。カンヌライオンズ、文化庁メディア芸術祭優秀賞、映像作家100人ほか受賞。映像監督としてCANTEENに所属。主な仕事に、森ビル「Laforet Grand Bazar」、本田技研工業 グローバル企業広告、NTT docomo「ahamo」、大塚製薬ポカリスエット「A_o」、Tinder ブランド広告、積水ハウス「帰ろう」、野田洋次郎、羊文学、imaseなどのMV監督ほか、自主プロジェクトとして「劇団ノーミーツ」「ストーリーゲーム POLARIS」などの企画開発、スタートアップのクリエイティブ支援をおこなう。

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関谷 “アネーロ” 拓巳 氏

ECD 地球中心デザイン研究所 / TBWA HAKUHODO
Activation Director

平成元年、栃木県生まれ。東北大学大学院 建築学専攻。2014年博報堂入社。17年よりTBWA HAKUHODO所属。24年ECD立ち上げに参画。Twitter 1st, Campaign 2nd。ソーシャルを起点に全てを企画し、話題化と売上増にコミットする。受賞歴は2021年JAAA クリエイターオブザイヤーメダリスト、2019年ヤングカンヌ世界一、2017年ヤングスパイクス アジア1位、NY ADC、ONE SHOW、JPM The Planner2024など。2020年ブレーンが選ぶ「注目のU35クリエイター54人」に選出。国連WFP Japan Impact Council メンバー。「思ってたより面倒くさくないね」とよく言われる。


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