「AIこそストーリーテリングが必要」Salesforce本国CCOが語る新ブランド戦略

Salesforceは現在、AI事業の強化に乗り出している。日本国内でも4月25日、自律型AIエージェント「Agentforce」の最新版を発表し競争に打って出たが、どのようにブランドマーケティングを進めているのだろうか。

このほど来日した、SalesforceでCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)を務めるJohn Zissimos氏に認知強化に向けた取り組みを聞いた。

写真 人物 Salesforce EVP 兼CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)John Zissimos(ジョン・ジシモス)氏。

Salesforce EVP 兼CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)John Zissimos(ジョン・ジシモス)氏。

Salesforceにおける「CCO」の役割とは?

2024年の10月頃に会長兼CEOのMarc Benioffから電話があり、「『Agentforce』というソリューションをつくったから戻ってきてほしい」と言われました。実は2010年から2018年までSalesforceに所属していたので、7年ぶりの復帰となります。復帰の理由は色々とありますが、一番の理由はMarcからの連絡に「NO」と言うのが難しかったことですね(笑)。

CCOとして、Salesforceで重視している役割は、ブランドが生み出すストーリーをしっかりと伝えることです。

私たちの製品を使うことで、企業や組織がどのように自分たちを変革し、成功できるのか――それをストーリーとして伝え、実際に製品を使っていただき、成功してもらう。お客さまの成功体験がさらに私たちのブランドイメージへとつながる。このサイクルが最も重要だと思っています。

私が以前にSalesforceに所属していたときも同じようにストーリーを伝えることに注力しました。当時から考え方は変わらず、機能ではなく私たちの製品を使うことでどんなことが実現するのかをストーリーとして伝えるためにさまざまな動画を制作しました。

Salesforceが考える「AIエージェント」の強み

イメージ Agentforceの動画「WHAT IF」

イメージ Agentforceの動画「WHAT IF」

イメージ Agentforceの動画「WHAT IF」

イメージ Agentforceの動画「WHAT IF」

5月から日本でもデジタル広告などを展開しているAgentforceの動画「WHAT IF」。

Salesforceでは2014年から本格的にAIの開発が行われていますが、特にこの数年のAIに関する動きは皆さんもご存じの通り非常に大きなものでした。

ですが7年前と比べても、CCOとしての仕事はそれほど大きく変わっていません。お客さまに製品を使っていただき、Salesforceのコミュニティに参加してもらい、利用の手助けや疑問に答える――そういった環境づくりと、コミュニケーションを取ることが重要であることは変わらないのです。

唯一違うのは、Salesforceが会社として非常に大きくなったことです。さまざまな企業を買収したことで扱う製品の数が爆発的に増え、その中で「Agentforce」も誕生しました。製品ごとに新しいストーリーをつくり、それを伝えていく範囲が広がっています。

「Agentforce」は企業のサービス、セールス、マーケティング、コマース領域のタスクを処理する自律型のAIエージェントです。現在ChatGPTなどが一般的に浸透していますが、ビジネスに特化したものではありませんし、企業にとってはあくまで外部サービスなので、特にセキュリティの観点から現場で本格的に使うことは難しいでしょう。

「Agentforce」は企業の内部データにアクセスします。自律的に必要なデータを収集し、やるべきことを理解して、あらゆるワークフローをAIでシームレスに統合します。より効率的に企業やビジネスのことを理解した独自のAIエージェントを構築できるのです。

想像力を喚起するプロモーション動画「WHAT IF」

ここ数年、私たちの生活やビジネスの現場でAIは広く普及したと思います。しかし、実際のところ我々の提供するAIエージェントを含め、AIがビジネスにおいてどのような可能性を持っているのか、あるいはビジネスの成功のためにAIをどう活用すればよいのかを理解している人は圧倒的に少ないのが現状でしょう。

今回、日本でも公開したプロモーション動画「WHAT IF」は、AIを使ったビジネス運用、つまり「Agentforce」を用いた顧客のビジネスの未来像を、企業のCEOをはじめとする経営層に想像してもらうために制作しました。AIへの理解が浅い今は、将来の大きなチャンスを掴む好機だと考えています。

今回の動画はサービスの全体像を伝えるようなものです。今後は各業種に対してアプローチを仕掛けます。たとえば製造業、流通業、といった業種ごとに特化した動画を制作中です。さまざまな業種の経営者にとって「Agentforce」がどのような力を発揮するのか、より具体的に想像してもらうための施策となるでしょう。最終的に10本程度になる予定です。

制作にあたって、今回はAIによる映像素材の生成などは行いませんでした。Marcに私が書いたスクリプトを渡し、出演するマシュー・マコノヒーと1対1でビデオチャットをしてコンセプトを確認する。グリーンバックで撮影し、音楽はオリジナルで制作。そして素材を編集する――つまりAIは使わず、昔ながらの方法で制作したんです。AIはあくまでツールですからね。

AI導入以降も制作期間は変わらない

イメージ Agentforceの動画「WHAT IF」

イメージ Agentforceの動画「WHAT IF」

イメージ Agentforceの動画「WHAT IF」

イメージ Agentforceの動画「WHAT IF」

Salesforce のクリエイティブ責任者として、社内で新しいテクノロジーを活用したツールはこれからも積極的に取り入れていくつもりです。AIを使った映像制作も行うでしょうし、コピーの案出しやバナーの制作もより効率化していきます。ですが、大切なのはやはり“ストーリーテリング”であり、そこは決して変わりません。私たちが生み出すのはお客さまのストーリーです。

表現媒体やツールは進化しますが、それによって不可能だった表現が可能になるだけではないでしょうか。核心は変わらないと思います。

私の妻は10年以上、アニメーションスタジオのピクサーで働き、その間にアニメを制作するためのツールは大きく進化しました。ですが、一本の長編映画を完成させるまでに4年かかる点は変わっていません。ツールによって作業効率は上がりますが、さらにクオリティを追求し、より優れたストーリーテリングを練り上げる時間に充てるからです。

私がキャリアを通じて確信しているのは、クリエイティブにおいて本当に重要なのはツールではなく、それを使う人のクリエイティビティと能力なのです。

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John Zissimos

Salesforce EVP 兼CCO

クリエイティブ、ブランド、デザイン、Salesforce Studios、スポーツおよびブランド・スポンサーシップ、グローバル・キャンペーン、デジタル・デザインおよびコピー、顧客プログラムを統括。TBWA\CHIAT\DAYで広告業界でのキャリアをスタートさせ、マッキャンエリクソンとJ.ウォルター・トンプソンでシニアクリエイティブ職を歴任。その後、2012年からCCOおよびCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)として、Salesforceのブランドとデジタル施策の統括を7年以上にわたり務める。Googleでクリエイティブ、ブランド、メディア、顧客プログラム担当の統括責任者、OktaのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)、Armada.aiの創業時のCMOを務めたのち、2025年1月に再びSalesforce入社、同年から現職。テンプル大学でラジオ、テレビ、映画の学士号を取得。全米監督組合、映画俳優組合、AFTRA会員。


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