カンヌライオンズ、エンタメ&クラフト部門の結果は? デザイン部門の応募数は前年比17%増

デザイン部門にサブカテゴリが追加に

フランス・カンヌにて開催されたカンヌライオンズ。2日目の6月17日(現地時間)には、エンターテインメント及びクラフト分野の計8部門の受賞作品が発表された。

そのうちデザイン部門では、応募数が前年比17%増となっている。今年から、実際に社会にインパクトを与え革新をもたらしているかを評価するサブカテゴリ「Transformative Design」を設けたことが影響した。

さらにセッションにおいては、「Luxury for Everyone – Changing Perceptions of Disability」と題して電通とヘラルボニーが登壇。ヘラルボニーと契約している作家・小林覚氏が壇上で制作の様子を披露した。

イメージ (左から)ヘラルボニー 代表取締役 松田崇弥氏、電通 コピーライター/クリエイティブディレクター 長谷川輝波氏、るんびにい美術館 アートディレクター 板垣崇志氏、作家 小林覚氏。

(左から)ヘラルボニー 代表取締役 松田崇弥氏、電通 コピーライター/クリエイティブディレクター 長谷川輝波氏、るんびにい美術館 アートディレクター 板垣崇志氏、作家 小林覚氏。

2日目に発表されたグランプリ受賞作品は以下の通り。
※広告主/商品名「作品名」(企画制作会社)の順に記載。


■Entertainment部門(応募数:735点)
現代自動車「Night Fishing」
(INNOCEAN Seoul)

韓国の現代自動車が展開するEVブランド「IONIQ」が制作した、13分の短編SFフィルム。従来のスペック訴求などでは届かないMZ世代に向け、広告色を抑えた、ストーリー性と映像クオリティを重視した映像を制作した。映像は7台の車載カメラで撮影しており、とある捜査員と未知の存在の接触を描いている。緻密な物語とクラフトで、体験型のエンタメコンテンツとして昇華した。


■Entertainment Lions for Gaming(応募数:327点)
Mercado Livre「Call of Discounts」
(GUT São Paulo)

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南米最大のECプラットフォーム「Mercado Livre(メルカド・リブレ)」が実施した、Z世代のサービス認知を高め、利用者を増やすための施策。人気ゲーム「Call of Duty」には、Z世代に人気のゲームモード「Prop Hunt」がある。これはプレイヤーがプロップ(小道具)に変身して隠れながら逃げ、それを別のプレイヤーが探すという、いわばオンライン版「かくれんぼ」のようなモードだ。

そこでゲーマーとしても知られるサッカー選手のネイマールを隠れる側のプレイヤーとして起用し、プロのゲームプレイヤーが追いかけるという、豪華な「Prop Hunt」を実施することに。その様子をTwitchでライブ配信した。ゲーム上には、16のエリアに、シャツ・スピーカー・スケートボード・冷蔵庫などの420個の小道具を用意。ネイマールが見つかってしまった場合、彼が隠れた商品の割引クーポンを発行した。45分で1万6000件のクーポンが使用され、約130万ドルの売上を達成した。


■Entertainment Lions for Music(応募数:469点)
Rimas Music「Tracking Bad Bunny」
(DDB Latina, Puerto Rico)

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米自治領プエルトリコを代表するラッパー・Bad Bunnyが、新アルバム『NADIE SABE LO QUE VA A PASAR MAÑANA』の発売に合わせて展開した取り組み。2024年10月、トランプ大統領の選挙集会で登壇したコメディアンが、プエルトリコを「ごみの島」と揶揄した。そこでBad Bunnyはその発言へのアンサーとして、SpotifyとGoogleと連携し、世界中のファンに祖国への愛を伝え、プエルトリコを“体験”してもらう取り組みを行うことに。

アルバムのリリース前からSpotify上で、曲名の代わりに地理座標を表示。それを検索すると、Googleのストリートビューで、島中の看板や壁などに書かれた本当の曲名を知ることができる。ファンたちはストリートビューでビーチや街中を“巡り”、Bad Bunnyが育った地域を“歩き”、発見した曲名をSNS上でシェアしていった。広告換算で4000万ドル相当の露出を獲得し、61カ国182万人にリーチした。


■Entertainment Lions for Sport(応募数:766点)
Clash of Clans「Haaland Payback Time」
(DAVID New York)

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世界中で人気の戦略ゲーム「Clash of Clans」が、実在の人物を初めてゲーム内に登場させた。その人物とは、マンチェスター・シティFCに所属するスター選手 アーリング・ハーランド。その類いまれなるゴールへの嗅覚は、これまで多くの対戦チームを苦しめてきた。同時に彼は長年の本作のファンでもある。

そこで企画したのが「Haaland Payback(仕返し) Time」。ハーランドがゲーム内で数年かけてつくってきた村を、プレイヤーが攻撃・破壊することで“リベンジ”できるという企画だ。これまで本作がリーチできなかったスポーツファンにアプローチすると共に、ハーランドのファンもアンチも共に参加できるのがポイント。結果として全世界で3400万人以上がこの企画に参加し、新規プレイヤーの増加率は150%を記録した。


■Design部門(応募数:1087点)、Digital Craft 部門(応募数:554点)
※のちにBrand Experience & Activation部門でも受賞
Closed Captioning「Caption with Intention」
(FCB Chicago)

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米シカゴ聴覚協会(Chicago Hearing Society)とFCB Chicagoが手がけた、映画の「字幕」の概念を根本から再設計したプロジェクト。これまで映画制作の現場ではさまざまな変革が起こってきたが、字幕だけは情報伝達に特化した当初の形式のまま取り残されていた。従来の字幕が抱える課題は、登場人物の感情や声の抑揚、緊張感などが視覚的に十分伝えきれていないことだ。特に聴覚に障がいのある視聴者にとっては、誰がどんなトーンで話しているのか、情緒的な深みが伝わりにくいという課題があった。

そこで「Caption with Intention」では、字幕に動きやタイポグラフィの変化などを取り入れ、感情や場面の緊張感を可視化。たとえば怒りのセリフは太く揺れる文字で表現し、小さな声は細いフォントにするなど、音声の“質感”をデザインで伝える新たなスタイルを確立した。また話者ごとに字幕の色を分けることで、「今だれがしゃべってたの?」といった混乱も避けることができる。

さらにこのプロジェクトはオープンソースとして無料公開され、世界中のスタジオや配信プラットフォームで新たな字幕が利用可能に。196の言語に対応しており、20th Century Studiosやワーナー・ブラザース、コロンビア・ピクチャーズなどでも採用が進んでいる。

字幕における新たなスタンダードを提示したことで、アカデミー賞の科学技術賞で功労賞を受賞した。


■Film Craft部門(応募数:1459点)
Telstra「Better on a Better Network」
(Bear Meets Eagle On Fire, Sydney)

オーストラリアの通信大手Telstraは、高品質なネットワークを売りにしてきたが、一方で消費者からは「大企業ゆえにそれぞれの顧客に寄り添っていないのでは」というイメージを持たれていた。そこで感情的な繋がりを生むために、26本のショートムービーを制作することに。

主人公はさまざまな生き物や植物。映像にはのべ56のパぺットが登場し、地方に住む実際の住民たちの声で「ネットワークの素晴らしさ」が語られる。パペットや、実際の地形に合わせたセットに至るまで、AIやCGは使わずにストップ・モーションで丁寧に制作。パリ五輪の期間にあえて展開することで、多くの企業が繰り返し同じCMを流す中で、視聴者を飽きさせずに一貫したメッセージを伝えることに成功した。1カ月で4年分のスポンサー効果に相当するインパクトを残したという。

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