世界に異彩が放たれる――ヘラルボニーがカンヌ金賞に選ばれるまで

フランス・カンヌで6月16日~20日に開かれた「カンヌライオンズ2025」で、ヘラルボニーがグラス部門(Glass: The Lion for Change)のゴールド(金賞)に輝いた。同社は障害のあるアーティストの作品を知的財産(IP)ビジネスとして事業化している。受賞をきっかけに、そのユニークな取り組みが国内だけでなく世界にも知られることになりそうだ。
 
ヘラルボニーはこのほか、今年のカンヌライオンズの公式プログラムであるセミナーに電通とともに登壇した。カンヌ出品の狙いからこれまでの歩みについて、クリエイティブディレクターの桑山知之氏が振り返った。(以下寄稿)

慌ただしい中の1通のメール

写真 カンヌライオンズ公式プログラムの電通セミナーに登壇

カンヌライオンズ公式プログラムの電通セミナーに登壇

6月5日、カンヌライオンズの会期まで10日あまり。正直に申し上げて、カンヌ初心者の私たちは、明らかにテンパっていた。

前週には、全社で総力を上げてコミットしてきた「HERALBONY Art Prize 2025」が開幕。また、特に例年この時期にはさまざまな案件の制作物の納品も集中する。そして何より、このメールが届いたことが最大の理由だった。

件名「Shortlisted: HERALBONY, Glass: The Lion For Change, Cannes Lions 2025」(ショートリスト=受賞候補に選ばれました)

日本時間の深夜に届いたこのメールは、とても強力で最高の目覚ましになった。

会期初日に行われる英語でのピッチの練習、プレゼンテーション資料の作成、質疑応答の想定問答の準備……。さらに、元々決まっていた公式プログラムのセミナー登壇に関するさまざまな予定の合間を縫うようにして、プレゼンのリハーサルなどが追加されていった。嬉しい悲鳴だった。

グローバル展開へカンヌ挑戦を決める

遡ること1年前、2024年6月。代表の松田崇弥と、パリに拠点を構えるHERALBONY EUROPEのCGO(Cheif Growth Officer)である小林恵は、世界最高峰のクリエイティビティの祭典・カンヌライオンズを初めて視察していた。現地で行われたクリエイターとの意見交換の末、ひとつの目標が定まった。それは、「ゴールドライオン 」を受賞し、世界にヘラルボニーの名前を堂々と打ち出すきっかけをつくること。

写真 人物 昨年のカンヌライオンズに参加する松田崇弥氏(右)と小林恵氏

昨年のカンヌライオンズに参加する松田崇弥氏(右)と小林恵氏

カンヌライオンズに「ヘラルボニーの企業体そのもの」を出品したら、受賞のチャンスがあるのではないか――。かつて、とあるクリエイターからもそのような助言をもらっていた。現在の潮流として、いわゆる“打ち上げ花火”や◯◯ウォッシュではなく、ロングタームでより持続可能で、社会構造を変え、本当の意味で社会にどれだけインパクトを与えているかが問われているからだ。

次のページ
1 2 3 4 5
この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ