富士フイルム ヘルスケアラボラトリーは、オンライン広告キャンペーンの展開において、タグ管理の複雑化という課題に直面していた。そこで同社では、タグ運用の統一と効率化を図るため、Google タグマネージャー(GTM)の有料版「ゾーン」機能を活用した広告タグ管理基盤の構築に着手した。
6月12日に開かれた「宣伝会議マーケティングサミット2025」では、富士フイルムヘルスケアラボラトリーでECサイト運営とデジタルマーケティングシステムを行うICTデジタル推進グループの白井勇輝氏と三輪亜美氏が登壇。フロントエンドエンジニアとして豊富な経験を持つアユダンテの藤田佳浩氏とともに、GTMによる広告タグ管理における具体的な手法と導入成果について語った。
定期的なトラブルが課題だった
富士フイルムヘルスケアヘルスケアラボラトリーは、写真フィルム技術を活かし、化粧品やサプリメントの通信販売事業を展開する。現在は5つのブランドを運営している。
同社のICTデジタル推進グループでは、ECサイトの企画開発から運用、関連システム管理まで幅広く担当してきた。特にグループ内のデータ活用チームでは、複数の広告代理店と連携しながらGoogleアナリティクスやGoogleタグマネージャー(GTM)を活用した広告タグ運用を行っている。
しかし、Yahoo!タグマネージャーを使用していた従来の運用では深刻な問題を抱えていた。社内のリソースの問題もあり、各代理店にタグの設定やリリースを任せきりになっていたことが、課題の主な原因だった。
「代理店さんのエンジニアではない方がタグを公開した際、ECサイトに悪影響を与えることがありました。注文が止まったりエラーが発生したりといったトラブルが3〜4カ月に1回程度発生していたのです」(白井氏)
富士フイルム ヘルスケア ラボラトリー ICTデジタル推進グループ マネージャー 白井勇輝 氏
現場で実際に設定作業を担当する三輪氏も「トラブルが発生すると22時に電話がかかってくるようなこともあり、解決のために現場メンバー全員で調査に追われるなど、大変な状況だった」と当時の苦労を振り返る。注文に関するトラブルは売り上げに直結するため、こうした社員の負担だけでなく、利益という意味でも重大な課題だった。
個別運用と全体管理を使い分ける体制の構築
これらの課題を解決するため、同社は抜本的な運用体制の見直しを行った。Yahoo!タグマネージャーの終了を契機として、GTMへの移行と、タグの管理を社内で一元管理することを決定。そしてアユダンテのコンサルティングを受けながら新たな管理手法の構築を進めてきた。
一連の改革のなかで特に効果的だったのが、GTMの「ゾーン」機能の活用だ。メインのGTMの配下に代理店ごとの個別GTMを設置し、それぞれ独立して運用できるようにした。
「メインGTMには自社の計測ツールタグやCDP計測用タグ(カスタマーデータプラットフォーム)などを配置し、その配下に代理店ごとのGTMを接続しました。これにより、代理店は個別にタグ運用でき、当社は数値や設定を一元管理できる体制が実現しました」(三輪氏)
富士フイルム ヘルスケア ラボラトリー ICTデジタル推進グループ 三輪亜美 氏
この仕組みにより、新しい代理店と契約した場合にもソースコードを変更することなく簡単に運用を開始してもらえるため、社内の運用コストを大幅に削減できたという。
自社も代理店も運用しやすい体制に
ゾーン機能を活用すれば、代理店が埋め込めるタグに制限をかけられる。この機能を活用して、埋め込めるタグと埋め込めないタグを設定。社内の計測基盤に影響するタグを、代理店がそうと知らずに埋め込んでしまうことを防止できるようになった。
さらに、代理店ごとに配信可能なページを制限する機能も活用している。
「配信してはいけないページを代理店が知らずに配信してしまうと、事故につながります。そのため、代理店に配信可能ページを逐一伝えなくてはなりませんでした。しかし、このページ制限機能を導入してからは、その必要がなくなりました。当社側の工数が減るのはもちろん、代理店にとっても、確認事項が減ってより運用しやすくなったのではないかと考えています」(三輪氏)
また、この機能の導入により、広告精度や効果測定の精度も向上したという。
GTMの承認機能を活用したワークフロー統一にも取り組んだ。代理店からの設定申請を一元的にチェックできる仕組みを構築した結果、ソースコードや設定の問題点を事前にチェックできるようになった。
すべての代理店が同じ手順かつ同じ形式で設定内容を記載するため、チェック作業も効率化された。
外部から同社を支援する藤田氏にとっても恩恵があった。
「これまでは何か相談を受けた時、現在の状況や課題を把握するために細かくヒアリングをする必要がありました。今はこの承認画面を見るだけで問題の詳細が理解できます。『この案件で困っています』と言われればすぐにサポートができるので、格段にやりやすくなりました」(藤田氏)
アユダンテ GMPコンサルティング事業部 チーフソリューションコンサルタント 藤田佳浩 氏
トラブルが0に。工数も大幅に削減
これらの改革の結果、3カ月に1回発生していたトラブルは0件に。さらに週20時間程度を要していた代理店とのやりとりも週に2時間程度になるなど、目覚ましい効果を見せている。
一方で、改革には苦労もあった。
「GTMへの移行時には膨大な数のタグを精査し直さなくてはなりませんでした。人手が多くない中だったので、これは大変でした。また、代理店のITスキルはまちまちなので、全員に使いやすいものとすることに頭を悩ませました」(三輪氏)
それでも、機能を理解し適切に活用することで、見事な運用体制の構築に成功している。
富士フイルムヘルスケアラボラトリーの事例は、複数の代理店を抱える企業にとって参考になるベストプラクティスといえるだろう。
コンサルティングを担当した藤田氏も、「ゾーン機能をフル活用して成果を出している事例は実は多くありません。機能をよく理解した上で、社内でも十分に検討を重ねられた結果だと思います」と称賛の言葉を述べた。
お問い合わせ
アユダンテ株式会社
TEL:03-3239-8441
Mail:yamaura@ayudante.jp
URL:https://marketing.ayudante.jp/
