年間の累計訪日客が4000万人目前に迫り、インバウンド市場が活況を呈する一方、「どんな施策をやればいいのか」「打った施策が本当に効果を上げているのか分からない」という課題は多くの企業に共通する悩みだ。
先日開催された宣伝会議主催の「インバウンド会議 カンファレンス 2025」では、JTBコミュニケーションデザインの酒井一洋氏と大坪健士朗氏が登壇。JTBグループの一員として長年インバウンドの広告事業を手掛けてきた同社の強みは、データに基づいた戦略立案にある。従来の感覚的なアプローチから脱却し、データから訪日客のインサイトを探る、最先端のプロモーション戦略を解説した。
(左)JTBコミュニケーションデザイン インバウンドソリューション局 局長 酒井一洋氏、(右)プロモーション第二事業局 営業第二課 大坪健士朗氏
データとインサイトの活用が勝ち筋を導き出す
酒井氏はまず、効果的な戦略を立てるには、誰もがアクセスできるオープンデータだけでは不十分だと指摘した。同社では、オープンデータに加えて海外OTA(オンライン旅行会社)のアクセスデータといった独自データを掛け合わせて戦略を立案する点が強みだと続ける。これにより、データを根拠にした戦略立案が可能になるという。
また、同社が運営する観光案内所でのリアルな声や、テストマーケティングの実施などを踏まえた、データだけでは見えにくいインサイトの重要性も指摘した。このような深い顧客理解こそが、効果的な施策の土台となる。
鍵は「来店計測」。独自DSPでPDCAを回す
このデータ戦略を実戦で機能させるのが、独自開発の訪日外国人に特化したDSP「トリコンシェル」だ。このソリューションの核心は、これまでブラックボックスになりがちだった広告効果を可視化する「来店計測機能」にある。
OTAデータと連携することで、フライトやホテルを予約済みの「訪日確定層」を正確に捉え、さらに位置情報を活用して店舗周辺にいる旅行者にリアルタイムで広告を配信。広告に接触した人が実際に店舗を訪れたかを計測することで、施策の費用対効果を明確に把握し、PDCAサイクルを回すことが可能になる。
課題に応じたインバウンドプロモーションの成功事例
続いて大坪氏が、これらのソリューション活用を含む具体的なプロモーション事例を紹介した。
例えばアパレルブランドで、訪日客を店舗へ誘導したいという課題だ。様々な施策をこれまでにも実施していたが、効果測定ができておらず、売上が上がっても施策との関連性が不明瞭だった。そこで、「トリコンシェル」の来店計測機能を活用し、ターゲットを絞った広告配信や、デバイスの言語を自動判別したクリエイティブ生成を実施。広告効果を可視化しながら、着実に店舗への送客を実現した。
また、旅ナカでの認知拡大として、アイスクリームのサンプリングを提案したケースも紹介。博物館や寺社仏閣といったユニークな会場でサンプリングを実施し、訪日客に「非日常な体験の中での食の体験」を提供することで、SNSでの自発的な発信を促し、口コミを広げるサイクルを構築した。
これからのインバウンドマーケティングは、データを駆使して「誰に」「いつ」「どこで」アプローチし、その結果を「どう測定し、どう活用するか」という、戦略的な領域に進化してきている。感覚に頼った施策から、データに基づく科学的なアプローチへの転換こそが、巨大市場を勝ち抜くための必須条件だと言えるだろう。
お問い合わせ
株式会社JTBコミュニケーションデザイン






