eスポーツ広告はなぜ効くのか? REJECTとパートナーとの共創による“共感”のつくり方

若年層の生活に深く根付き、巨大な熱狂とコミュニティを形成するeスポーツ。その影響力は、マーケティングの世界においても無視できない存在となっている。しかし、その活用法は単なるロゴ露出といった旧来のスポンサーシップに留まらない。

9月25日、26日に開かれた「アドタイ・フォーラム2025」では、国内トップクラスのプロeスポーツチームを運営するREJECT(リジェクト)の岩村載峰氏が登壇。スポンサーシップのその先にある「共創関係」の可能性を、数々の成功事例とともに解説した。

スポンサーシップから「パートナーシップ」へ

岩村氏はまず、国内外で急成長を続けるeスポーツ市場の概況を説明した。かつて「弱い国」と見られていた日本も、REJECTが世界大会で優勝するなど競技レベルが飛躍的に向上し、「後進国から先進国へ」と変貌を遂げている。一方、海外ではサウジアラビアが国家レベルで巨額の投資を行い、2027年には「eスポーツ五輪」の開催が決定するなど、その熱は増すばかりだ。

REJECT 事業統括本部 営業部長 岩村載峰 氏

その渦中でひときわ強い存在感を放つのが、2018年創業のREJECTだ。日本一の累計獲得賞金額(4.2億円)と、世界約1000万人の総フォロワー数を武器に、国内シーンを牽引。代表の甲山翔也氏も26歳の元プロゲーマーだ。

「『REJECT(拒絶する)』というチーム名には、ゲームに対する世間のネガティブなイメージを払拭していきたいという強い思いが込められています」と岩村氏。同社は競技シーンで結果を出すeスポーツチーム事業をメインとしながら、人気ストリーマーやVTuberのマネジメント、イベントの企画・運営、企業とのパートナーシップ事業など、多角的なビジネスを展開している。

本セッションの核である、企業との「パートナーシップ」の在り方について、岩村氏は「我々は、ユニフォームにロゴを載せてもらう対価としてお金をいただく、という旧来のスポンサーシップという言い方を正直あまりしたくありません」と語る。REJECTが目指すのは、企業のマーケティング、CSR、HRといった様々な課題に対し、チームが持つアセットを活かしてともに解決策を模索する「対等なパートナー」としての関係構築だ。その具体的なアクティベーション事例を、次々と紹介した。

「最弱」を決める大会でファンを動かす

まず紹介されたのが、NURO 光(ソニーネットワークコミュニケーションズ)との事例だ。インターネット回線事業者が陥りがちな「価格競争」と「差別化の困難さ」という課題に対し、REJECTは「コミュニティに最も愛されるブランドになる」という方向性を提案。そのソリューションとして企画されたのが、人気ストリーマーたちが格闘ゲーム「ストリートファイター6」で“最弱”の座をかけて争う、オンライン配信イベント「消毒杯」だ。

「eスポーツのカジュアル大会は“誰が一番強いか”を決めるのが普通ですが、我々はあえて“誰が一番弱いか”を決める大会をやろうと考えました。対戦に敗れた人が次のラウンドへ進むという逆転のルールで、“負け残ることが恥ずかしい”というストリーマーのプライドをくすぐる設計に。意地をかけて戦う有名ストリーマーたちが徐々にヒートアップしていくようすがコミュニティに刺さり、数万人が同時視聴するほどの熱狂を生みました」(岩村氏)

配信のコメント欄では「こんな企画を許してくれたNUROさんありがとう」といった感謝の言葉が複数投稿され、イベント後には「消毒杯が面白かったからNURO 光にした」というXへのポストも見られた。コミュニティの文化を深く理解し、寄り添った企画が、価格ではない価値でのエンゲージメントと購買行動を生んだ好例となった。

ストリーマーの“ミーム”で若年層の心を掴む

次に岩村氏が挙げたのは、ロート製薬との取り組みだ。「目薬は中高年が使うもの」というイメージが根強く、若年層へのブランド想起に課題を抱えていた同社に対し、REJECTは人気ストリーマーの“ミーム”(インターネット上のネタ)を活用したWebCMを提案・制作した。

起用したのは当時REJECTに所属していたストリーマーの「まざー3」。彼がファンの間で親しまれている“オカン”の姿で登場し、目を酷使するゲーマーの息子(こちらも本人が演じる)へビデオレターを送る中で、「目の奥の痛みに」と「Vロートプレミアム アイ内服錠」を勧める、というストーリーだ。この「分かる人には分かる」ユーモアが、コミュニティの笑いを誘った。

ロート製薬「Vロートプレミアム アイ内服錠」のWebCM

このWebCMに関するREJECTのX投稿は、オーガニック投稿ながら約150万インプレッションを記録し、SNS上でも大きな反響を呼んだ。さらに、別のブランド施策で実施したA/Bテストでもクリック率やコンバージョン率で高い数値を叩き出した。「突飛な企画に見えるかもしれませんが、刺さる人にしっかり刺さるコンテンツを届けることで、確かな結果につながっています」と岩村氏は語る。

ファンとともに育てるブランドへの好意

また、Visaとのパートナーシップをきっかけに、三井住友カードおよび三井住友銀行が展開する個人向け金融サービス「Olive(オリーブ)」のキャンペーンを実施。ファン心理を巧みに刺激する参加型企画を設計し、口座開設と8万円の入金という高いハードルにもかかわらず、当初の目標を大きく上回る成果を収めた。

ソニーのワイヤレスゲーミングイヤホン「INZONE Buds」の事例では、有線志向のゲーマーが抱える「遅延」や「バッテリー切れ」への不安という心理的ハードルに着目。その“あるある”な悩みに共感するWebCMを展開し、ゲーミングヘッドセットの実売台数で上位ランクインに貢献している。

ソニーのゲーミングイヤホン「INZONE Buds」のWebCM

さらに、パートナー企業であるYogiboとロート製薬をつないでイベントでのコラボブースを実現したり、新規プロダクトの市場浸透を目指すフェンリル社との取り組みでは、バトルロイヤルFPSゲーム「Apex Legends」部門のチーム名を「REJECT WINNITY」とするネーミングライツを実施。結果として世界大会での優勝を果たし、サービスの認知拡大に大きく貢献するなど、そのアプローチ手法は多岐にわたる。

最後に、岩村氏はREJECTのパートナーシップの本質を「共創関係」という言葉で表現した。

「我々が目指すのは、特殊なコミュニティであるeスポーツファンの心に残るように、企業ブランドを浸透させていくこと。ファン目線のコンテンツを通じて企業への認知・好感・購入というサイクルを回し、同時にコミュニティの輪そのものを広げていく。そのために、企業様とは対等な共創関係を築いていきたいと考えています」(岩村氏)

岩村氏は「REJECTは熱狂をともにつくるパートナーを探しています」と呼びかけ、セッションを締めくくった。

お問い合わせ

株式会社REJECT

お問い合わせフォームはこちら

advertimes_endmark

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ