AIエージェントは顧客への向き合い方をどう変える? ANAと考える顧客接点のあり方

AIエージェントの進化が、マーケティングの常識を覆そうとしている。顧客が自ら検索し比較検討する時代から、AIに要請する時代へと移行する中で、企業はどのように顧客と向き合い、成果を創出すべきか。9月25日、26日に開かれた「アドタイ・フォーラム2025」で、全日本空輸(ANA)の大日向健人氏、アポロの村松大輝氏が「AIエージェントを使った経営へのマーケティングの貢献」をテーマに話し合った。

施策など企業の活動も重要なデータに

冒頭はアポロの村松大輝氏が、AIエージェントの出現によって起こり得るマーケティングの変化について問題提起した。従来は市場調査に始まり、顧客にどうアプローチするかを「意思的なアプローチ」で組み立てていったが、「AI新時代では、リアルタイムかつAIエージェントが自動的にアプローチを実施する世界に変わっていく」と指摘した。

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一方で顧客の行動変化に視点を移すと、WebやSNSで検索し、商品やサービスにたどり着く「調べて考えて行動する」という流れから、AIコンシェルジュに「こんなものはないか」「何かおすすめしてください」と要請する世界に変わっていくことが想定される。

こうした中で求められるデータとは何か。顧客属性や行動履歴に加え、AIチャットの履歴、例えば「お父さんの誕生日プレゼントのおすすめは?」といった書き込み情報が、アプローチの起点となる。また顧客のデータだけでなく、何をどのように、いくらで提示したのか、セールや宣伝手法などの企業の活動データが、顧客を動かす方法を見極める重要な情報になるという。

写真 人物 アポロ AI Division AI Unit長 村松大輝 氏

アポロ AI Division AI Unit長 村松大輝 氏

顧客の属性や行動情報、AIチャットなどのコンテクスト(顧客状況・文脈)情報は「顧客の意思やシグナル」を示す。これに企業の活動や意図を示す「施策情報」を掛け合わせ、その中から顧客の反応と企業の利益を最大化する最適解を見つけ出すことが必要だという。そこにAIの役割があると考えている。

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村松氏はそのための仕組みとして、「従来のCDP(Customer Data Platform)に加え、顧客が発したコンテクスト情報を貯める場所と、企業の活動を記録する「ADP(Action Data Platform)」という場をつくっていくべき」と強調した。

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「CDPとコンテクストデータで顧客を深く理解する『パーソナライズAI』と、ADPのデータから施策を最適化する『施策最適化AI』。この2つのAIが対話しながら自動的に最適なアプローチしていく世界。これが我々の考えるAI新時代に必要な仕組みだと考えています」(村松氏)

なぜ「施策情報管理基盤」が求められるのか

続いて、ANAの大日向氏が同社の取り組みについて紹介した。大日向氏は2018年にANA入社後、翌年にANA Xに出向しデジタルマーケティング組織の立ち上げや、主にデジタルチャネルを通じた顧客接点に関わってきた。

アポロはANAグループに対し、データマネジメントやAI活用の分野で支援している。そのひとつが「施策情報管理基盤」だ。施策の企画登録、ターゲット抽出、MAツール(メールやアプリプッシュ配信ツール)へのターゲット連携、そして配信結果の自動集計まで、施策のPDCAサイクルを一元管理できるものだ。

写真 人物 全日本空輸 CX推進室CX戦略部 CXマネージメント推進チームリーダー 大日向健人 氏

全日本空輸 CX推進室CX戦略部 CXマネージメント推進チームリーダー 大日向健人 氏

この基盤を整備した理由について、大日向氏は次のように振り返る。

「マーケティング組織を立ち上げ、年間約200本のパーソナライズ施策を半自動的に動かし始めました。航空券や保険、カードなど様々な商材を4000万人の会員に対し、メールやアプリプッシュなどでコミュニケーションしていくと、『誰に何をアプローチしたのか』が分からなくなってくる。個々の施策の結果は見えても、お客様全体として誰に何が当たってどう成長したのかを管理し可視化するのが難しかった」

このことでデジタルマーケティング施策の管理に関わる作業が大幅に削減され、全体の傾向も確認できるようになった。施策情報を一元管理しただけでなく、顧客へのコンタクト履歴とその結果が自動的に収集されることで、「マーケッターが管理ではなく、行った施策をもとに次にどんなアクションが必要かを考えられるようになった。レベル感が数段上がったという感触を持っている」という。当時はAIのことは考慮になかったものの、結果的には生成AIの登場で、施策情報を管理することをAIに学習させ、最適なアプローチを検討させる土台ができたという。

優秀なマーケッターの業務をAIに置き換えられるか

続いて、AIエージェントがANAのマーケティング活動をどう進化させ得るかという話に移った。これまで作業工数の削減や個々の活動の横断管理といった改善が進んだ一方で、課題として挙がったのが「人材育成に時間がかかること」だ。では、優秀なマーケッターの業務をAIに置き換えることができるのか。

この課題に、村松氏は次のように投げかけた。

「例えば、お客様から『彼女との記念日に旅行したいけど、何かおすすめある?』という曖昧な要望があったとします。このお客様が普段は格安運賃を使い、将来LTVが高くなる見込みで、特別感への反応率が良い、とデータから分かっていたとする。そこにハワイ路線の価格をクーポンなどであえて安くして、『特別なご提案です』と提示することで、より良い顧客体験になり、顧客のロイヤリティ向上になるのではないか。ANAとしてAIエージェントに求めるものは、このようなイメージでしょうか」

大日向氏は「大枠はズレていない」と同意しつつ、「ANAとしてAIエージェントで提供する価値は何かを今まさに検討しているところです」と述べた。

「多くのお客様が知らないサービスがANAにはたくさんあります。例えば、国際線エコノミークラスの機内食は2500円ほどでアップグレードできるのですが、私もANAに入るまで知りませんでした。記念日旅行のお客様に、AIエージェントがこうしたサービスをご提案することで、お客様にとってそういった提案がちょっとした贅沢として旅行を色付け、旅行がより素敵なものになるかもしれません。私たちは『旅前・旅中・旅後』というフェーズで考えていますが、すべてのフェーズでAIエージェントがお客様に提案をすることで、より良い体験が提供できると考えています」(大日向氏)

村松氏は本日のまとめとして、3つのポイントを挙げた。

1つは、企業の活動データ(施策データ)を集め、つなぎ合わせることで顧客への提案の最適解を見つけられること。2つ目は、AIが根拠ある判断を導くのは、データの予測と数字の力に基づいていること。3つ目は、データを集めるほどAIは進化していくということだ。

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「ANAさんの事例のようにCDP(顧客データ)とADP(企業活動データ)があるからこそ、こうした議論ができる。まずデータを集めることがスタートであり、そこからエージェントやロジック(分析)を進化させていくことが重要。これらを実行していくことで、AIエージェント同士の会話や新しい顧客体験の設計といった、新しい時代への広がりが生まれてくる」

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お問い合わせ

アポロ株式会社

E-mail:biz_iu@apol.co.jp
TEL:050-1751-4446


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