「ブランドの価値は、どこで売られるかで決まる」そう言われることがある。ならば、「店舗の日常の棚」に置かれることの意味を、日本企業はどう読むべきか。ハイエンドでも免税店でもなく、ニューヨーカーが毎日の暮らしの中でふらっと立ち寄る場所に、日本のドラッグストアコスメが並び始めている。これは偶然ではないし、格下げでもない。むしろ、注目すべき変化の入り口だと思っている。
TJ Maxx、Marshallsとはどういう場所か
先日、ニューヨークのTJ MaxxとMarshallsで気になるものを見た。コスメ売り場の棚に、日本のドラッグストアコスメが並んでいたのだ。
TJ MaxxやMarshallsは、アメリカ全土に展開する大手オフプライスリテーラーで、ブランド品や有名メーカーの商品を通常より低い価格で販売するチェーン店だ。日本でいえばディスカウントストアに近い業態だが、それとも少し違う。衣料品、生活雑貨、食品、コスメまで様々なカテゴリの商品が混在して並んでおり、ブランドの世界観を演出するような什器も、説明してくれる販売員もいない。商品はただ、ラックに吊るされ、棚に置かれているだけだ。
そしてこれが重要なのだが、この店に来る客は「コスメを買いに来る」わけではない。SephoraやUlta Beautyが、いわば「美容の目的地」であるのに対し、TJ MaxxやMarshallsは完全に日常の動線上にある。日用品を買ったついでに他のものを見る、週末にぶらっと立ち寄る。特に目的がなくても、なんとなく棚を眺めて、気が向いたら手に取る。アメリカのごく普通の消費者が、ごく普通の日常の中で訪れる場所だ。日本人向けでも、観光客向けでも、美容好き向けでもない。
そこに、日本のコスメが置かれていたのだ。
置かれていることは、売れること
商品ボリュームでいえば、韓国コスメを10とすると日本のコスメは1から1.5ほど。同じ棚にまとめて並んでいるため、アメリカ人の目にはアジアのコスメとしか映らないかもしれない。それでも、確かに「そこにある」。
もしかすると、これを流通の失敗と読む人もいるかもしれない。だが、プライスオフの店であろうと商売である以上、さばけないものは仕入れない。置かれているということは、売れると判断されたということだ。実際、しばらくして同じ棚を見に行ったら、取り扱われていた商品の中である種類のものなど、すっかり売り切れていた。
K-Beautyが耕した土地に、J-Beautyが入り始めている
この現象の背景を読むとき、K-Beautyが切り開いてきた市場は絶対に無視できない。
韓国コスメはこの10年強で、「アジアのスキンケア」というカテゴリを確立した。今年に入り、業界メディアBeauty Independentは「K-Beautyの復活は目覚ましかった。今、J-Beautyは自らの波を求めている」という記事を掲載している。この潮目の変化は、ニューヨークの現場で感じるものと重なる。また、WWDJAPANの記事によれば、パリを拠点にJ-Beautyの欧州展開を支援するコンサルタントは、K-Beautyが急速に裾野を広げた反動として小売も消費者も疲弊し始めており、「より本質的で、信頼できるもの」を求める声が強まる中でJ-Beautyへの関心が高まっていると指摘している。ニューヨークでも、確実に同じことが起きていると感じる。